第3章 再び
第20話
船の操縦室では、彼らの故郷の星がスクリーンいっぱいにうつしだされていた。肉眼でも、その姿を容易にとらえることができた。
「ニューホープ号、了解しました」
通信を終わったステフは、愛用のヘッドセットを外して、そっと置いた。
船はかつての植民星ジェフの調査を終えて、長かった航海の最後の行程を消化しようとしていた。ヴァルナでのアクシデントを、それでも日程ギリギリで戻って来ることができたのは、グラントの航法技術によるものと言えるだろう。航法スケジュールの度重なる変更と、航路計算のチェックの繰り返しは、思い出しただけでうなされそうになる。
—帰ってきた。ようやく帰ってきた。ひとつの旅が終わろうとしていた。
戻れば休暇が待っているはずだった。実際には彼らの帰るべき家はもうないのである。叔父のいるステフと、後見人という立場のヴァンがいるモーリスを除けば、帰りを待っていてくれる人もいなかった。
それでも、久しぶりに生まれ育った星に戻ってその地面を踏めることを思い、これから過ごす休暇の計画に彼らの胸は期待で弾んでいた。そんなそれぞれの思いで、室内には和やかな雰囲気が広がっていた。
「あれ、ラディ?どうしたの?」ステフは不機嫌そうなラディの様子に気がついた。「あ!そうか。」思い当たるものがあって、彼は小さく笑った。
「ラディは検疫の検査が苦手なんだよね?」ディープがからかう。
「うるさい!ディープ!!」
「仕方ないよ。辺境から帰った船は、規則だから」
グラントのとりなす言葉をよそに、
「機関室を確認してくる!」
赤くなったラディはごまかすように部屋を出た。本当は行く必要などないことを、みんな知っていた。
このとき、モーリスの姿は操縦室ではなく、自室のベッドにあった。体調を崩したモーリスは、ディープの半ば強制的な命令で、ほとんどの時間をベッドで過ごしていた。
地平線の向こうに太陽の光が広がっていく中、船はすいこまれるように小さくなっていった。
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