第2章 今を
第13話
船は計画通り、3週間にわたる調査を終えて、帰途についていた。船窓から見える星の数も増え、ステフ愛用のヘッドセットでとらえることのできる通信も多くなり、雑音混じりのニュースパックがときおり届くようになって、ようやく辺境から戻ってきたと実感できるようになった。現在、慣性飛行で航行中である。
グラントとモーリスが検討した結果、途中、カルストの衛星ヴァルナにある補給基地に立ち寄ることにした。まっすぐ帰投した場合との差は2回のワープで解消でき、当初の予定に充分余裕をもって帰れるはずだった。
カルストはカザン太陽系の第3惑星で、最外殻の軌道を3年周期でまわっている。カルストは開発に失敗した星であり、戦争以前からずっと無人状態だった。ふたつの衛星のうち、ヴァルナだけが居住可能なまでに開発されたが、戦争により入植者が去った後、同様に無人化している。現在、復興のレベルはCクラスで、補給基地がただひとつあるだけだった。
荒廃した星の様子は、スクリーンから見ることができた。起伏の多い地表にはあちこちに岩が顔を出し、丈の低い植物がまばらに生えているほかは、一面に赤茶けた大地が広がっていた。宇宙服なしで呼吸できることがせめてものことだった。
なにげなく前方を走査していたモーリスは、レーダーに何かが反応したことに気がついた。もう一度確認し、正確な位置をとらえようと手を動かしながら、
「グラント!船を停めて!!」
ふりかえったグラントが、理由を聞く前に船を停止させたのは、モーリスの声の中に緊迫したものを感じたからに違いなかった。
「前方に金属反応があるんだ。まだ遠くてはっきりとわからないけど、スクリーンにうつすね」
切り替えられたスクリーンに、ぼやけた船の残骸らしきものがうつり、さらに拡大されてうつしだされた。
「これで限界なんだ」
一瞬のあとで、ラディが声を上げた。
「座礁船じゃないか!?」
「モーリス、位置は?」
グラントが尋ねた。
モーリスが告げた座標に向けて、船は進路を変えた。
ステフを船に残して、4人は2台の地上車に分乗し、その船の調査に向かった。
墜落したと思われるその船はどうにか原型をとどめており、4人はそれぞれ付近を調べはじめた。グラントは手を休めて船を見上げた。外装の損傷が激しく、泥があちこちにひどくこびりついている。
(この船は、最近…、少なくともここ数年のうちに墜落している)
彼は傍らのモーリスをふりかえった。
「モーリス!」
モーリスは手を止め、そばにやってきた。
「この船の型式、わかるかい?」
モーリスは同じように船を見上げながら、「これは—」そう言いかけたとき、泥の一部が剥がれ落ちて、船尾に描かれたマークらしい模様が見えた。モーリスの表情が変わったのを、グラントは見逃さなかった。それは一瞬の出来事で、すぐに何でもないように、
「これはM-42型だよ」
そう答えた彼であったが。
「M-42型って?」
ラディの問いかける視線に、ディープは知らないと首をふった。ふりかえって船の方を見たとき、ディープはモーリスが船内に入ろうとしていることに気がついた。
「あ!モーリス!」
船腹の隙間からモーリスの姿が中に消えた。
「大丈夫だよ。危険なデータは出てないから」
そう言ったラディ自身も含め、3人は見守るようにじっと船を見つめた。
船内も同様に破損がひどく、さまざまな装備品が散乱していた。その一角でモーリスは探していたものを見つけた。壁の片隅の一連の数字がかろうじて読みとれた。
(M42-5620。思ったとおりだ。間違いない。こんなところで見つかるなんて。これは…レオナルド号)
無事に姿を見せたモーリスを見て、3人とも何も言わなかったが、内心では安堵したに違いなかった。
「これはレオナルド号だよ」
モーリスの言葉に、グラントはあらためてこの船を見た。
(これが…!)
「レオナルドって、あの行方不明の?」
ラディの問いかけにモーリスはうなずいた。
「そう。詳しいことは、船に戻って調べればわかると思う」
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