第12話

 ラディとディープが食堂に入っていくと、心配そうだったモーリスとステフの表情が安心した様子に変わった。ラディの瞳にいつもの生き生きとした光が戻っていたから。

「お帰り。ラディ、ディープ」

 モーリスの明るい声に、ディープが、

「心配だった?ラディと話してたのは…」

 ラディはディープを肘でつついて、わざとモーリスをからかうように言った。

「モーリスがこの船をもう少しマシにしてくれたらなぁって話だよ」

 ディープも笑いながら同意する。「そうそう」

「えっ?ちょっと何それ?ひどいよ-!」

 クスッというステフの笑い声に、モーリスはすごい勢いでふりむいた。

「ステフまで!」

「あ!違う違う、そういうつもりじゃ…」

 モーリスがつかみかかろうとするのを鮮やかに避けて、ステフはあわてて逃げだした。モーリスに捕まるような彼ではなかった。

 ラディとディープは笑っている。

「わっ!」ちょうど入ってこようとしたグラントが、走り出ていくふたりとすれ違い、よけようとして壁にぶつかってしまった。

 グラントは、笑いが止まらないでいるラディとディープのふたりに、後ろを親指で示して尋ねた。

「なんだい?あのふたり…」

「さぁ、鬼ごっこでもしたいんじゃないかな」

 なおも笑いながらラディが言い、ディープも笑い続けていた。


 その夜、ラディは眠れないままベッドに寝ころんで、窓から暗い宇宙を見ていた。

 ディープもモーリスもステフも、もう眠っていることだろう。

 当直のグラントは操縦室でただひとり、計器を見つめているのだろうか…。ラディはその真摯な黒い瞳を思い浮かべた。

 ふいに胸の中に温かいものがわきあがってきて、わずかに見える星の光がにじんだ。やがて、かすかなかすかなつぶやきがもれた。

「僕は…」

 そして、ようやくその瞳が閉じられた。

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