第4話

 人類が宇宙に目を向けはじめてから、既に長い年月が過ぎていた。

「より遠く、さらに遠く!!」を合言葉に、増え続けていた人類は、居住可能な星を発見すると、次々に移住していった。しかし、あくまで植民星としてであり、すべての実権は地球が握り、一応おかれているとはいえ、植民政府は形だけの飾りものにすぎなかった。

 植民星は、今や消費するだけの地球に対して、資源の供給と高い税を納めなければならなかった。それでも、最初のうちはそれで良かった。しかし、人類が外宇宙まで足を伸ばしはじめるにつれて、ほんの些細なことまで遠く離れた地球に報告し、判断を仰がなければならないことに対して、いつか不満が爆発することは明らかだった。否、そう思っていなかったのは、地球の為政者だけだったであろう。


 惑星間独立戦争の開戦日については今でも多くの異論があるが、地球が植民星ルノーに対して無差別攻撃を行った日をもって、開戦とする見方が最も多い。戦争に至るまでの背景は次のようであった。


 植民星側を代表して5つの星が同盟を組み、地球に対して次のような要求を行った。すなわち、その主旨は「植民星の自治権を認め、内政に干渉するのをやめること」というものであった。これに対し、地球側の態度は良く言って冷笑であった。「対等の立場で『要求する』とは何事だ」地球側はこの要求を無視し、逆に見せしめと称して、これら5つの星に対し、資源の供出負担量を増やしさえした。


 植民星ゼリオンの代表カルロス アーノルド氏は、このとき植民星側の全代表をつとめたことで、後に『反地球同盟のシンボル』と称されるようになる。氏は温和と評され、ともすれば暴走気味の反地球同盟勢力をよく抑えてきた。平時であれば、つつがなく任期をつとめて引退できたのであろうが、時代がそれを許さなかったのかもしれない。

 やがて、誰が流したものか、次のような噂がとびかうようになった。

「ゼリオンはいつか立ち上がる日に備え、武力を蓄えている」

 事の真偽を問われたとき、ゼリオンの首脳部は強く否定したが、その噂が全くの嘘でないことは、軍事費の増加という数字となってはっきりとあらわれていた。予想されうる最悪の事態に備えただけのことが、誤解と疑惑をよんだことにはじめて気がついたが、既に遅く、噂が噂を呼び、もう後戻りできない状態となっていたのである。

 ゼリオンの誇大に宣伝された実力と意思を、多くの人々が信じるようになっていた。

 そして、それに続けとばかりに、地球に反感を抱いている数多くの植民星が、雪崩のように次々と反旗をひるがえした。いちばん戸惑っていたのは、ゼリオン自身であった。いつのまにか反地球同盟の代表に祭り上げられてしまっていたのである。


 同盟の中でも強行派とされるルノーが、大規模な合同演習を計画したことが、地球の介入を誘う絶好の口実となった。地球側は、日ごとに勢力を増していく反地球同盟に対して、先制攻撃を行うきっかけをじっと待っていたのである。

 そして、ついに地球側はルノーに対し、無差別攻撃を行い、ルノーの首都ハルダカンは壊滅状態となった。

 圧倒的な勝利に酔った地球軍が、非戦闘員に対して、虐殺、暴行、略奪の数々を行ったことを知ったとき、ついに彼カルロス アーノルドは言った。「我々は必ずしも武力による解決を望んでいたわけではない。しかし、状況がこうなってしまった以上、我々も立ち上がらざるを得ない」氏のとった作戦はいっそ辛辣でさえあった。「我々は何もしなくていいのだ。エネルギー及び資源、物資の供給を断つだけで、地球側は自ら瓦解していくだろう。我々の作戦はただ待つのみである」

 結果は、はじめからわかりきっていることであった。いったい誰が、食糧も武器弾薬の補給も無しに勝てるというのであろうか?


 最初のうちこそ地球軍は勝利をおさめていたが、それもごく短い間のことに過ぎなかった。反地球同盟軍の進撃が遂に冥王星の防衛ラインを割ったとき、それでもなお抵抗を続ける地球側には、もうわずかな資源しか残されていなかった。全面攻撃を強く主張するルノーと、あくまで持久戦をとなえるゼリオンの間で意見が対立した結果、地球側にとっては最悪の結果となった。1カ月にわたる補給の断絶のあとで全面攻撃を受け、遂に地球側は敗北を認めた。こうして、戦争は終結し、同盟側は次々と独立を果たした。


 それから3年—。これはこんな時代の物語である。

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