第39話 拠点と風呂とダンジョン前。
しばらくして夜も深まる頃、僕らは
交代で番をすることを話し合い、
近くにあった水辺を風呂にする事にした。
「ファイアメント・オーバー。」
「うん!良い湯加減!」
「石井は覗かないわよね。」
「春奈……警戒しなくても覗きませんよ。」
なんだかんだで時間を置けば矛は自然と
収まるもので、何とかパーティとしての
体裁は保たれている。
さて、僕は一緒に入ると生理的現象が
発生しかねないからこの提案をする。
「それじゃあ一人ずつ入りましょうか。」
「流石にそれは非効率ではなくて?」
「ぶ〜っ。宙ちゃんと一緒に入りたい〜。」
早速火種が出来そうだな。
フラグ回収が速いこと速いこと……。
「ゆっくりと入りたいのよ。」
「そう言いつつ、宙ちゃんは自分の裸を
晒したくないだけじゃないの〜?
水月にはお見通しだよ〜!
そんな悪い子にはおしおきだぁ!!」
「わぷっ。」
僕に勢いを付けて飛び込んで来た水月は、
僕の上に被さり、手を拘束する。
思いの外がっちりと拘束されて
身動きが取れない。
「思ったよりも小柄だね。」
「関係ないでしょう。」
「将来のお嫁さんの話なので
関係あります!」
まずい、美少女が近いせいで心臓が……
落ち着け僕。
『宙たんは可愛いねぇ。』
僕より落ち着けヴァルハラさん。
キャラ崩壊してるぞ。息荒いから。
無いはずの呼吸音が聞こえるから。
「そろそろ離してくれないかしら。」
「嫌です。」
スタンバイと言わんばかりに水月は
僕の顔に近づいてこちらを見つめる。
いつからこの世界は18歳以下禁止の世界
になった。
「水月、はしたないことはやめなさい。」
「ちぇ〜。」
春奈お嬢さんが静止してくれたおかげで、
何とか水月が止まる。危ない所だった。
「流石にここで揉めて身を清める時間が
減るほうが非効率ね。いいわ。
宙の意見を飲んであげましょう。」
流石貴族のご令嬢。
こういった交渉の場面では気が利くね。
「分かりましたよ〜。」
「はぁ、ようやく終わりましたか。
全く、女子というものは節操がない……。」
後で石井くんは脳内で三枚おろしに
するとしてだ。
ともかく全員が納得し、一人づつお風呂に
入ることになった。
「ふぅ……。」
今更ながらだが、性転換の生活を強いられて
から随分と経ったなぁ。
もう夏に差し掛かってるよ。
『にしては随分と暑がらないですね。』
気合で耐えてます。
今日の夜は熱帯夜ではないし、
一日中たまたま涼しい日だったっていう
のもあるのかな。
こういう時に谷間があると蒸れて辛そう。
胸が小さくて良かったよ……。
その代わり身長も小さいけどな。
『小さい子は良いと思いませんか?』
絶対に僕と出会うまではそんなこと
思ってなかったでしょ。
『単純に機動力を考慮した結果ですね。』
ですよね。
『……今の自分の身体に違和感を
持ったりしていませんか?』
まさかまさか。なんだかんだで楽させて
もらっているよ。地球にいた頃よりも、
ずっとね……。
『ふむ……。』
魔法を再現するぞー。って意気込んでいた
僕自身が今となっては馬鹿らしく
思えてくるね。
でも、その熱意のおかげで今こうして
異世界ライフを送れているって考えると
やっぱ努力は裏切らないんだなって。
馬鹿だったからこそ、沢山の成果を
出すことが出来たんだなって。
「あれ……なんか泣いちゃってるな……。」
『マスターが幸せなら私はそれで良いと
思っています。』
「なんだかこうしてるとしんみりとした
雰囲気になってきちゃうよね。
まあ、私の戦いはまだまだ続くけどね。」
『シナリオブレイクをしないように
立ち回る、でしたか。』
そうそう、でも薄々気づいちゃってる
って感じなのかな。
ヴァルハラさんを手にした時点で
僕はストーリーに関わることになる。
だとしたら、全力でその役を演じれば
むしろ好都合なのかな〜なんて。
……半ば諦めちゃってる僕もいる。
『自分自身がやりたい事を、
やっていけばいいのではないでしょうか。』
それ当たり前の話ね。
いやまあうん。悩んで挫けて成長するのが
若者のお仕事だからね。
よし、若者らしくやってやりましょう!
そう思って衝動的に手を上に伸ばす。
手を伸ばした先にある星々は、
今日の夜も煌々と輝く。
悩み、思案し、行動をしろ。
そうして生んだ自分の選択に自信を持て。
なんとな〜く、そう訴えかけているような
気がしたと思う。
少し自分の考える事に笑みをこぼし、
迷いの霧は晴れていった。
――――――――――――――――――――
〘ダンジョン前〙
「そろそろ離れてくれないかしら。
今はダンジョン前よ。」
「い〜や〜で〜す〜。
だってこの時ぐらいしか宙ちゃんと
一緒にいられないんだもん。
そりゃくっつきたくもなるって〜!」
「……無理やり剥がさないあたり、
優しいのね。宙は。」
「さっさと行きましょうか。💢」
ダンジョン前だというのに緊張しないね。
流石エリートと言ったところか。
僕たちは覚悟を決めて前へと進む。
ちなみにだが、すっかり忘れさられている
例の二人は僕らから距離を取って
話し合っていた。
ダンジョン内は侵入者を暗闇で覆い、
異物を排除せんとしている。
耳を澄ませば音が聞こえてくる。
唸ったような声がする。
機械が蠢く音がする。
それらは牙を剥いて僕たちに襲いかかる
のだろう。
「思ってたよりも随分と汚れてるわね。
ただ臭い匂いはしない……。」
「警戒していきましょう。
ここには何があるか分かりません。」
「ええ、そうね。」
二人と会話をしつつ、先へ進む。
「ちょっとちょっと〜。
もうちょっとリラックスして行こうよ〜。」
「水月、一応だけれど、
ここは死地だからね?」
「分かってますよ〜だ。」
なんだか気の抜けたパーティだなぁ。
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