第40話 何かが切れる音。
〘ダンジョン内〙
ダンジョン内は暗闇なこと以外は
普通に初心者向けダンジョンと
大差は無いように見える。
要はヘタをこかなければ死にはしない
ダンジョンだ。
「セリャァァ!」
「グガッ!」
メガネクイッってしそうな石井くん
だけど、意外と肉体派だな。
「えいやぁ!」
「ギャブッ!」
水月は前線で敵をボコボコにしてるね。
いつものノリだ。解釈一致だね。
「私はいらないのかもね。」
「二人が強いだけよ。特に水月が。
貴方が気に病む必要はないわ。
いざという時の切り札。
それだけであの二人が十分に戦えている
のだと思うなら、素敵だと思わない?」
仲間からのフォローが温かい……。
「あの……。」
「私たちはどうすれば……。」
おっとそうだった二人いたわ。
気を抜くとすぐに忘れるな……。
「後衛で待機していて欲しいわ。
ボスと戦う際の火力枠、といえば
いいかしら。頼りにしてるわ。」
「「……はい!」」
満面の笑みを浮かべられた……。
なんだかむず痒いな。
男だからか女性の笑みにとことん弱い。
『今は女の子では?』
うっさい。心は男ですぅ〜。
今回のパーティ、こんな脳内会話を
のんべんたらりとできるぐらいには
安定している。
主に前衛の二人で掃討できるのが強み
だろうか。
僕がやっている仕事といえば、
荷物運びとたまにかけるバフぐらいだ。
なんだかゲーム感覚になってしまうな。
「ふぅ……。いい汗かいたね〜。」
「まだ終わってないのですから、
しっかりしてくださいね。」
「もう、石井くんは固いね〜。
そんなんだから「カチッ。」……へ?」
「パシュン!」
「ぐっ……あっ……。」
油断大敵というか気の緩みというか、
その一瞬を突いたのか、
凹む床を踏んだ瞬間、それがトリガーと
なって石井の胸に深く矢が刺さる。
心臓や肺の辺りに刺さっているせいか、
石井は呼吸困難になっていた。
『自己意識の一部を強制譲渡。
パニック状態を自制します。』
「キャァァァァァ!!」
「矢、刺さって……る?
人の……人の身体に……。」
「……っ……っ!」
「回復魔法!宙!使えない?」
「やるだけやってみるわ。
まず身体を起こして矢を抜いて。」
「わかった。」
こんな非常事態に冷静になれるのは
一重にエリートだからなのか……、
それとも経験したからなのか……。
悲鳴を上げてもおかしくない状況で、
水月が今この瞬間頼もしく見えた。
「行くよ!せーの!」
「っ!っ!」
石井はその場に身体を震わせて、
身体から矢が抜かれる。
その後力が抜けたように倒れ、
水月がそれを支えながらゆっくりと
地面に寝かせる。
さて、ここからは僕の番だ。
外傷ならば、既存の回復魔法で治す
事が出来るのだが、内部は難しい。
この世界の回復魔法はあくまで
「自然治癒を加速させる」だけで、
それは抗生物質などの薬の代わりにしか
なりうることができない。
そのため前提条件として心臓か肺に
自然治癒力があるか、というのがある。
答えはこの歳であればあるかもしれないし
無いかもしれない。お祈りゲーだ。
「どうかあって……。
ヒーリングメアル。」
魔力で自然治癒力を活性化させて治す。
くそう、なんでこの世界にはIPS細胞が
無いんだ……。
「か……ひゅ……。」
石井が苦しみと痛みで死の淵を彷徨う中、
皮膚は一先ず再生し始める。
あとは心臓か肺だけだ。
「ホーリー・オーバー。」
消毒の作用があるかもしれないので、
並行してホーリーも使う。
頼む、いきなり死ぬのは勘弁してくれ……。
「ふ……ふ〜…ふ〜…。」
「ねぇ……大丈夫なんだよね?」
その期待に答えられそうにはないな……。
呼吸が小さくなって、
段々と反応が薄れている。
恐らく助からないんだろう。まじかぁ……。
『魔力残量、50%。』
これ以上無駄には出来ない……。
そう思った刹那、急に魔力の通りに
抵抗を感じた。
まるで治癒されることを拒むかのように
どんどんと魔力の通りが悪くなり、
やがて通らなくなった。そして魔力が
石井から流れ出ているのを感じる。
受け皿を失った魔力が全て漏れ出ている
のだろう。つまり……
『死亡を確認。吸収が可能です。』
……いやぁ、死っていうのは突然だね。
「どうしたの、手を止めて。」
「そういうことなのね。宙。」
「宙様、そういうことって……?」
僕は静かに頷く、そして言う。
「死んだよ。石井は。」
一人は納得し、一人は冷静を保ち、
一人は崩れ落ち、一人は生気を失う。
「……どうして……貴方のせいよ。
貴方が石井様を殺したのよ!宙!」
生気を失った後、怒り狂ったのか
狂気に陥ったのか、僕に向かって
突進してくる。
泣きじゃくりながらも目は怒りを宿し、
顔は真っ赤に染まっている。
『自己防衛システム起動。』
『「さようなら。」』
「パンッ!!」
脳が弾ける音と共に、
言葉も発しないまま死体は崩れ落ちる。
まあ、覚悟はしてたよね。
「え、人、なんで?宙様?」
「うわ〜。いざやるとなるとむごいね〜。
これ、顔も分からないじゃん。」
「……宙、後悔はしてないわね。」
「してないわ。
……さて、貴方は怒りに任せて
殴りかかったり、精神に酷く支障を
きたしたりしないかしら?」
「この悪魔……今までもそうやって
生きてきたんですか……。」
残念ながらヴァルハラさんの方が
悪魔なんだよね……。
『悪魔とはなんでしょうか。』
いや、人が死んだのに冷静でいられる
ようにするのはよっぽどやばいこと
だと思うよ?
まあそれはさておきだ。
『「悪魔ではないわ。ダンジョン内で
パニックになり、それで仲間に迷惑を
かけてしまう方が悪魔よ。」』
解釈がねじ曲がった気がするが、
まあいいだろう。
「許せない……。許せない……。」
憤怒を燃やして睨みつけるその目は、
二人の関係性を示している。
爆発一歩寸前、といったところだろうか。
「貴方キャラ変わったわね。」
『「そうかしら。」』
「うんうん。宙ちゃんは極悪非道で
情け容赦ないんだね〜。」
「はぁ、もうそれでいいわ。
それより、私はやる事を済ませるわね。」
引き金に指をかけ、引く。
サプレッサー機能があるため相変わらず
音がしないが、音速を超えて射出される
散弾はいともたやすく人間の体を貫く。
脳が弾けて音がでる。
不覚にも美しいと思った僕の感情は、
転生してきてから今までの生活で、
どこかのタイミングで狂ったのかも
しれない。
「はぁ……仲間は選りすぐり
しなければやっていけないわね。」
「春奈が言うセリフかしら?
貴方もキャラが変わったんじゃなくて?」
「さあ、どうでしょうね。」
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