第35話 ヤンキーキャラは血の気多し。

〘叡門学園 体育館〙


食事を終えたあと、僕はぱっぱと皿洗いを

した後に、体育館へ赴く。


体育館には緩急のついた呼吸音と

風切り音がよく響いていた。

我熱が大剣を持って素振りを黙々と

している様子が見える。

どうやら我熱が待っている間に練習していた

みたいだな。


「ふっ……。おっ、来たみたいだな。」


「身体は温まっていそうね。

早速始めましょうか。」


「今日こそその仮面剥がしてやるよ。」


互いに正対し、獲物を相手に向けて構える。

ちなみにこの練習試合の時にはいつもの

銃型のヴァルハラさんではなく、

剣型になったヴァルハラさんを使う。

剣身はメタリックの白、持ち手は金と緑だ。


「オラァ!!」


我熱が一気に駆け出すと同時に、

僕はバフで盛った動体視力で受け流す。


「ちっ…まだまだぁ!!」


我熱の大剣から焔が燃え盛った後に

大剣を素早く持ち替えて切り返す。


「ファイアメント・バーストォ!!」


彼の熱がイメージとなり籠もった魔法は

小さい火の玉を出すだけのファイアメント

とは思い難い威力となる。


「ウィンドメアル。」


それを僕は一瞬のみ周囲の空気、魔力を

全て後ろに持っていくことで真空を

作って火を消す。


「……!?」


バックステップで回避した後に

我熱の驚いた表情が見える。

ほぼほぼ回避不可の攻撃を回避したからね。


この間僅か数秒。

その後も激しい攻防が繰り広げられる。


時に剣の音が鳴り響き、時に激しい

爆炎と暴風の音が交わり荒れ狂う。

炎と嵐は共にダンスを踊っていた。


「ファイアメント・バーストォ!!」


そして締めに入ろうとしたのか

当たったら常人は木っ端微塵になる

大剣の一撃が振り下ろされようとする。


我熱は大きく間合いを詰めて、

相手に牙を剥いていた。


「ウィンドメアルト。」


それに対してこちらは圧倒的な空気質量

をぶつけにかかる。


「ゴォォォ!!!」


風は炎の行きどころを掻き消すように

立ち塞がり、風は大剣と炎を使い手ごと

吹き飛ばした。


「ガッ!!」


我熱が吹き飛ばされて床に叩きつけられる。

大剣を勢いのまま手放して苦悶の表情を

浮かべていた。


「大丈夫かしら。」


近づいて外傷を確かめる。

すると我熱は急に起き上がって首を掴み…


「油断したな。宙。俺の勝ちだ。」


「そうね。」


「んだよしけてんな。

もっと悔しがる所だろうが。」


「外傷を確かめようと思った所に

突然首を掴んできたおバカさんは

誰かしら。」


「傷ならこの通りねぇよ。心配すんな。」


「なら首から手を離してくれるかしら。」


そういって我熱は手を離す。

僕はその隙をついて剣を我熱の首元に

寸止めで差し向けた。


「……おかえしよ。」


「何だ、やっぱしけてねぇじゃんか。」


我熱が僕の剣を弾いた後に、第2ラウンドが

始まろうとしていた。




――――――――――――――――――――




〘叡門学園 1-1教室〙


その後我熱から一本取り返し、

そのままの足で教室へと向かっていった。

今は教室で今日の全ての授業を終え、

放課後で帰宅する前だ。


教室に入った後に何故か胸元に

異常な数の視線があった事を今でも

覚えている。なんなんだろうね。


「宙ちゃんってさ。意外と鈍感?」


帰り支度を終えた一人の生徒が

近づいて話しかけてくる。

伊藤いとう 水月みづき。僕に唯一出来た友達だ。


「何がかしら。」


「だって教室に来たときちょっと胸元

透けてたし、他のところも汗びっしょり

でなんかエッチだったよ。

見られるの嫌じゃないの?」


待って。一旦状況を整理しよう。

ヴァルハラさん?


『はい。』


僕は運動するときは汗をかかないようにと

初めての体育の時間に言ったはず。

何ならヴァルハラさんが汗をかかないように

出来るって最初に提案してきて、

僕は汗で制服とか下着とかが濡れるのが

嫌いだからそうして欲しいとちゃんと

理由も言っていたはず。

何故汗をかいていたんですか?


『普段汗をかかない子が汗をかくことに

こそ意義があると思いましたので。』


この性癖魔!エッチ!だめ!死刑!


『最後はよろしくないかと。』


どれもよろしくない言葉だと思うけど。

……とにかく汗をかかせるのはやめてね。

変態アーティファクト対抗

模倣アーティファクトとか渋滞しそうな

属性だから。


「やっぱ嫌だよね。」


やっば。脳内裁判を行っている内に時間が

過ぎてしまった。


「とは言っても汗を止める方法って……

あっ!冷やせば良いのか!

ウィンドメントを使えばいいじゃん!

もしかして宙ってそれ使ってた!?」


ここで制汗スプレーという選択肢が

出てこないのが異世界クオリティ。

変な所で現代から離れないで……。


「そうね。」


まあここは適当に誤魔化しとく。


「すんすん。うん。美女の匂い!」


「勝手に人の匂いを嗅ぐなんて

失礼極まりないと思うのだけれど。」


「一応庶民と貴族の関係だから

許されます!」


そうだったここ異世界だった……。

ってそうじゃない。普通に失礼。


「でもごめんね。勝手に嗅いじゃって。」


「分かればいいわ。」


女子同士って意外とこうなのか?

それともここだけが異常?


「あ、運動で思い出したけど

ダンジョン探索合宿が近いらしいね。」


ダンジョン…探索…合宿……?

聞いたことがない。

まって原作外イベント!?!?

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