学園、思惑、無知なまま。
第16話 TS男子に可愛いは禁句。
模擬試験から早一ヶ月。僕たちは
様々な努力を積んできた。
座学で何とかなる部分に対しては、
ヴァルハラが事前に問題集をつくって
僕が周回して解く。
「ワークを何周もする」という何時ぞやの
戦法で何とか詰め込んだ。
実技が必要な部分、いわば小論文に
出てきそうな所はダンジョンを周回して
身につけた。
性転換の羞恥心もついでに無くなってきた。
吹っ切れるって大事だね。
でも未だに恥ずかしい部分はある。
というか結構ある。
それは人の会話。コミュ障では無いのだが、
女性の言葉遣いに慣れなくて、
どうも余所余所しくなる。
あ〜、思い出したら恥ずかしい。
――――――――――――――――――――
時は遡って2週間前。
ダンジョンで人を見かけた彼は
またしても助けて、言葉に詰まった。
「ありがとうございます!
どうやらパーティーの適正を
少し越してしまったようで、
何とお詫びをしたら良いか!」
茶髪のツインテールをわっさわっさと
揺らす、性転換後の彼と同じ身長の少女が
言う。息遣いも荒く、興奮していた。
えっと、どうしたら良いんだろう。
こういう時は事前にちょっとやった
女性の口調を使えば良いのか?
「お礼は要らないわ。貴方こそ、
無理はしないようにね。」
恥ずかしい!めっちゃ恥ずかしい!
やばい、口元が緩んでる!
何とか誤魔化せない!?
『誤魔化せていませんね。』
焦る彼の脳とは裏腹に、彼の顔は薄く笑みを
浮かべた程度で留まっていた。
容姿と相まって、自然に見える。
おとぎ話から出てきたような服、
140cmくらいの小さな身長。
右側には本物の葉がついたカチューシャ。
腰まであるロングヘアと
編み込みのハーフアップ。
髪は黒く、所々に翡翠の色が混じっていた。
西洋人形のように整った顔立ちには
化粧の類の違和感を感じさせなかった。
人形のような笑みには感情が乗ってない
ようにも見えていた。
「ふぁ…ふぁい。」
ん?なんか恍惚とした表情を浮かべてる。
何かしたっけ……もしやロリコン!?
え〜と、自然に立ち去るにはこの言葉かな。
「ご機嫌よう。」
何か強キャラ感すごいけど、今の容姿には
合ってるはずでしょ。
どう思う?ヴァルハラ。
『恐らくですが自然に立ち去れたかと。
背後の人は腰が抜けたまま動いていない
のが少し不気味ではありますが。』
気にしないで。世の中にはそういう人
もいるからね。
『先程のロリコンというものでしょうか。』
そうそう。小さい女の子に対してちょっと
ネジが外れた人だから。
にしても恥ずかしい!めっちゃ恥ずかしい!
どのくらい恥ずかしいかと言うと、
「忘年会の一発ギャグで
みんな酔ってるにも関わらず
全員が冷めた目でこっちを見てる」
状況ぐらい恥ずかしい!
『例えいりましたか?』
うっさいこっちは羞恥心を頑張って
紛らわせようとして……また人?
『前方に4人。恐らくパーティーかと。
前方を塞がれている為、ダンジョンからの
脱出のために救助を提案します。
このまま素通りすると、パーティーに
良い印象を持たれないでしょう。』
いや待て。あの人達は今配信をしてる。
すんごい押されているけど配信をしてる。
そこで僕が助けに入るとする。
ありがとうございます!助かりました!
皆さん!!この人のお陰で助かりました!!
的な展開になるに違いない。すると
僕の性転換後の容姿がネットに上がるはず。
やだ!拡散される!外怖い!
『性転換後や記憶同期の影響でしょうか。
やはり人格に異常が発生している?
調査が必要かもしれませんね……。』
行きたくない!でも助けなきゃ行けない!
こうなったらヤケだ!行ってやる!
『大丈夫なのでしょうか……。』
――――――――――――――――――――
「あっぶあぶあっぶ!?」
一人の男性が必死に敵の攻撃を避ける。
「来ないで下さい〜!」
一人は魔法を撃ったり杖で敵を殴ったり
している。
「「こなくそ!」」
残りの二人は連携して
敵を倒そうとしている。
誰がどう見ても崩壊したパーティー。
何故数あるダンジョンでこれが選ばれるか。
理由は簡単。学園の近所だからである。
ちなみにこの四人パーティー、
学生服を全員が着ており、大方実力に
見合わないダンジョンを選んで
洗礼を受けている最中なのだろう。
「ファイアメアル・
オーバー・フォーカス。」
彼はできるだけ得意な魔法を使い、
早急に片付けようと考えた。
フォーカスの魔法陣は命中率向上。
しかし代わりに威力が落ちるため、
威力上昇のオーバーと併用している。
槍が突かれるように素早い火の玉は
空気抵抗を減らすために針のような形に
なり、次々と敵を刺して焼き殺す。
穴が空いた箇所から酸のように蝕んで
広がる炎は寄生生物を彷彿とさせる。
「す…すごい。」
「幼そうなのに凄いですね。」
あ〜あ、目立っちゃったよ。
さよなら。僕のスローライフ。
『言うほどスローでしょうか?』
スローだよ。生き急いでいる頃に比べれば。
『なるほど。記憶にはそうありますね。』
そう、何だけどこやつらのせいで!
性転換バレたらどうするんだ!
『万が一は無いと思いますが。』
油断は禁物なんだ。ここはこう
フレンドリーな感じで……
「あの、俺達のパーティーを助けて
くれてありがとうございます。」
「とても助かりましたぁ。」
「どういたしまして。怪我はないかしら?」
「おかげさまで俺達はそこまで手傷を
負っていません。あの、良かったら
なんですが、俺達とパーティーを
組んで、一緒に攻略してくれませんか?」
おっと。これ配信ザワついてそうだな。
「良いのかしら。視聴者とメンバーに
許可は取ってある?」
「……という訳でみんな。
これから臨時メンバーと組んで攻略する。
OKかな?」
「大丈夫です〜。」
「「反論はない。」」
そのメンバーの返事の間にも、多くの
コメントが流れていた。
【ええんじゃない?ワイも気になるわ】
【美少女がまた一人……】
【こいつハーレムかよ】
【百合の間に挟まったら○す】
【殺意高くて草】
「……メンバーも視聴者も
大丈夫そうです。お願いします。」
「わかったわ。宜しくね。」
そう言ってちょっと笑顔を浮かべてみる。
何か表情筋が硬いな。
『完璧な笑顔になるように
調整しています。』
お前の仕業かい。大丈夫かな、これ。
【うっ(尊死)】
【ランサーが死んだ!!】
【この人でなし!!】
【古くて草久々にみたわ】
【破壊力がありますね】
【まじまじと見るとますますミステリアス】
【こんな探索者見たことねえ】
「ちょっとこれはきますね〜。」
「確かに可愛らしい。」
「はげしく同意」
可愛っ!?いくは無いと思うよ。
中身は男だよ。心外だよ。
「えっと、それじゃあ新生パーティーで
攻略を進めて行きましょう。」
――――――――――――――――――――
視聴者オンリーの視点は幕間
として投稿します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます