第15話 やっと努力できてるのに裏には何かが起きてしまう。
『「自動戦闘の準備終了。
お休み下さい。マスター。」』
彼女は彼にそう語りかける。
従者として、相棒として。
『「マスターの優先事項の魔法学の育成を
戦闘テンプレートにセット。
魔法発動の言語等を睡眠学習にセット。
戦闘及び探索を開始。」』
事務的に処理を行い続ける。
人間の感情や思考を完全に模倣出来ない
彼女にとって、この光景は慣れた物だった。
『「慣れるまでの反復練習、慣れるという
事象は何回程度で起きるのでしょうか?」』
彼女は考える。機械はこういった何かを
覚えるために苦労するという過程や、
そもそもの人間の感覚的な部分を
知っていないため、尚更難しいのだろう。
『「一時的な目標としてダンジョン3回の
攻略をセット。」』
結果として彼女は様子見の行動に出た。
慣れという感覚をマスターはどのように
感じるのか。ひとまずの小さな目標を
置いて、反応を伺う。
『「敵3。戦闘を開始。」』
彼女がそういった直後、敵がちょうど
三体現れる。
特徴の無い剣を持った動く骸骨。
緑と白の迷彩柄の模様があるオオカミ、
浮いたアンティークのランプ。
『「ファイアメント。
ウォータメント。
ウィンドメント。」』
彼女は両手をかざして、それぞれに向かい
魔法を放つ。
骸骨には火が、オオカミには水が、
ランプには風が向かう。
しかし弾速は遅く、一般人でも見てから
回避できそうな速度であった。
骸骨は火を剣で切り、オオカミは水を避け、
ランプは上空に上がり風を躱す。
『「各個撃破に切り替え。」』
魔法の発動にはイメージが伴う。
イメージする為に脳を使い、
イメージを具現化する為の呪文の詠唱にも
また脳を使う。同時詠唱するには
脳を焼かないといけないのは目に見える。
よって、火と水と風を同時に想像し、
なおかつ魔法を発動することは
初心者にとっては難しい。
しかも現代人で無い者なら尚更だ。
ヴァルハラもその一人であった。
いかに馬鹿げた魔力を有しても、
魔法に対する知識は所持していても、
脳は一つである。
……そう思考が至った彼女は
各個撃破に切り替える。
一体に集中して、一撃で仕留める。
「分かっていながら」もやる、
「分かっているから」こそやらない。
何の違いがあるのか。
『「ファイアメント・ブースト。」』
彼女は魔法陣を一つ展開して火を撃つ。
ブーストは加速の意味を込めた魔法陣。
魔法陣をくぐり抜け、加速した火は
骸骨へ向かい、攻撃が当たる。
骸骨の一部が焼け、敵はよろめく。
しかし致命的な一撃では無かった。
その間、オオカミが突進し牙を剥く。
彼女は咄嗟に身を引き、銃を撃つ。
「パァンッ!!」
オオカミは脳天を抜かれ、
頭からピンク色の物体が顔を覗く。
そしてすぐに敵は魔石となって消えた。
「………」
ランプはその間に魔法陣を組んでいた。
ランプの各部分が開き、
魔力が流れ出ている。
組んでいるのは魔法陣はブーストの
魔法陣だった。
『「ウィンドメント・
オーバー・ブースト。」』
オーバーは魔法の威力を上げるという
意味を込めた魔法陣。
前回放った風より、速く、強く敵に迫る。
無防備なランプはそのまま飛ばされ、
天井にぶつかり、落下で粉々に砕け散る。
その間、骸骨は真後ろを取り、身体を
2つに切るまいと剣を振るう。
『「ふっ…」』
素早く屈んだ彼女は、しゃがんだ
体勢のまま、素早く蹴りを入れる。
「カラッ……」
身体を保てなかった骸骨は結果として
バラバラとなる。しかしまだ生きていた。
『「ファイアメント、ファイアメント、
ファイアメント、ファイアメント……」』
良いサンドバッグを手に入れた彼女は、
ありったけの火を骨に撃ち込む。
骨は灰を残さず消え、床には黒い跡がある。
『「魔法を使うのは難しいですね。
この練習法が少しでも役に立つ
とよいのですが……」』
――――――――――――――――――――
ところ変わって彼が受験する学園に移る。
彼が受験するのは「
名門校である。
名門校と呼ばれるには3つの条件がある。
一つ、上級ダンジョンの攻略パーティーを
多数所有していること。
一つ、生徒を1000人以上保有すること。
一つ、アーティファクトを所有すること。
アーティファクトはそのままの意味で
神器であり、強大な力を有する。
双剣であったり、片手剣であったり、
大剣であったり、弓であったり、
形も様々で、それらの権能も異なる。
使い方によってはダンジョンの攻略や、
技術の発展、または改良に大きく貢献する。
叡門学園は神器「フラガラッハ」を
所有している。
地球ではケルト神話に登場する神器である。
その権能はいかなる鎧も切り裂き、
風を支配し、なおかついかなる者からも
真実を白状させる事として有名である。
鏡映しの神話でも大体の権能は似ているが、
「風を支配し、弱者から真実を吐かせる」
権能へとナーフされている。
しかしながら、所有者が強ければ
その弱体化も意味をなさず、叡門学園では
主に裁判等で用いられている。
つまり叡門学園はとても強い。
「人事、今回の生徒はどう見る?」
焦げ茶のショートヘアに、白い髭がある、
貫禄のある男が口を開く。
声色からは疑惑が伺えた。
「はっ。今年の生徒は豊作かと。
財閥「
剣豪「
これらの2大巨頭を筆頭として、数多くの
精鋭の卵が集まっています。」
鏡映しの神話はダンジョンであったり、
文明開化であったり、とにかく
作品の属性が渋滞している。
そのため財閥や商会、騎士団、ギルド、
工業などなど、新しいも古いも含めて
様々なものが乱立している世界である。
文明の移ろい、企業の思惑、主人公達を
取り巻く環境の変化。
やがてそれらは……。
「なるほど。人事、他に気になる生徒は?」
「特段気になる点は……、ありますかね。
数学の模擬を満点近い点数で抜けた生徒が
いましたね、確か出願が期限ギリギリで
入ってきた生徒だったはずです。
それ以外は平均か落第点。
他教科との差があまりにも激しいので
より印象に残っていました。」
「魔力量は?」
「平均より少ない印象です。
しかし質が異なりました。」
「どのくらいだ?」
「そうですね。一言で言えば「異質」
です。人間でありながら人間の域を越す、
そのような質の高さでした。
……さらに言えば、その「異質」は
本人から出たり入ったりしている。
本人自体の魔力の質を「異質」が入った
時と考えるならば、本人自体の魔力の質は
平均的でしょう。」
「異質…か。」
「はい。」
「人事、"当たり《ジャックポット》"だ。
そいつは神器所有者かも知れん。
そいつの素性を洗い出せ。囲むのだ。」
「了解しました。」
学園長は悪どい笑みを見せ、人事は
頭を下げながら笑みを浮かべる。
上の一存で、彼の入学は決まった。
――――――――――――――――――――
匂わせって良くない?
後、戦闘シーンが長めに書けて嬉しい。
次回は時間軸が一ヶ月後まで
一気に飛びます。
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