第12話 強キャラはこう見えてしまうからいやなんだ。

珍しく戦闘シーンが長めです。(当社比)

――――――――――――――――――――


「……という訳だ。そこで、魔力変化に

詳しい君たちに調査を依頼したい。」


「お任せください。生徒副会長。」


一人の生徒と三人の生徒が向かい合って

机越しに会話をしている。


この部屋は、赤いカーペットが床全体に

敷かれ、ダークブラウンの棚や机が

置かれている。棚からはガラス越しに

大量の資料や賞状が顔を出す。


一人の生徒は本革の厚みのある

イスに座っている。


三人の生徒は立ったまま会話をする。


「うん。期待している。」


椅子に座っている一人の生徒は

満足そうに言葉を発する。


「それでは、失礼いたしました。」


立ったままの生徒のうち、

中心にいた生徒がそう言う。

その後三人は厚みのある扉から部屋を出る。




――――――――――――――――――――




「ねえ!生徒会から直々の依頼だよ!

気張らなくちゃね!」


一人が部屋を出て早々に言う。


「一旦落ち着こう、美雪みゆき

生徒会が依頼するって事は、

危険と隣合わせって事なんだから。」


「確かに杏ちゃんの言うとおりだよ〜。

士気ぐらい高めても良くない?」


「高めるにしても任務には3人だけだよ?」


「なら私が高まる!」


「ほどほどにね。冷静さとのメリハリ。

これが大事だから。」


「りょ〜かい☆」


「えっと、頑張りましょう。」


「うん!頑張ろうね!滝ちゃん!」


廊下を速歩きで行きながら彼女らは

会話する。のびのびした会話でありながら、

彼女らの眼には覚悟が宿っている。


ダンジョンへとたどり着いた一行は

ダンジョンへの調査許可を貰い、

ダンジョン内部へと潜入する。


中は通常時と比べると薄暗く、

火が灯っていて明るいにも関わらず、

黒い霧が辺りにかかったようであった。


「杏。」


「ええ、異変ですね。

それに周囲の魔力濃度も高い。」


「恐らく、一段階引き上げられてるかと。」


「そうだね、滝ちゃん。

周囲を警戒して、索敵範囲を広く、浅く。

ここまで異常だと、通常モンスターは

この地点から離れるか、霧散するはず。」


「測定機からデータが来ていますが、

だんだん魔力濃度の高い方向に向かって

いますぅ。多分、接敵が近いかと……。」


異変。ダンジョン内部で起こる異常反応の

総称である。今回の魔力濃度の上昇は

勿論の事、マップの変化や罠の変化など、

異変の種類は多岐にわたる。


「……反応1。周囲に反応はない。

恐らく元凶。警戒を前方に集中。

杏は魔法の準備。攻撃されたら迎撃。」


「分かった。美雪。」


「滝ちゃんは自動送還を遠隔で全員分

起動して。援護メイン。

タゲは取らないように注意して。」


「了解ですぅ。美雪さん。」


「私は前線でタンカーをする。

データ収集がメインを忘れないよう。

鎮圧は二の次だよ。」


それぞれが武器を召喚する。

美雪は剣と盾。杏は魔鋼製の杖。

滝はドローンを出す。


「総員、前進。」


「「了解。」」


美雪の合図の後、

三人は警戒しつつ前進を続ける。


三人は念入りな警戒もあってか、

元凶の元へ無事にたどり着く事が出来た。


おぞましい気配。黒いローブに白い

骸骨の面。片手には赤黒い鎌があった。


「……戦闘開始!」


美雪が正面をきって突撃する。

おぞましい何かは鎌を振りかぶって

大振りの攻撃をする。


「遅い!」


美雪は難なく避ける。


「はぁぁぁ!」


美雪の一撃。が、死神に対してはかすり傷。


「杏!」


「ウィンドメント!」


風の刃。まっすぐに敵に飛ぶが、

ローブの前に来て掻き消えてしまった。


「魔法阻害……っ!」


その瞬間、鎌が赤い光を増す。


「避けるか防ぐか……」


鎌は振り被られ、美雪の元へと

振り下ろされる。


「避ける!!」


美雪は鎌の一撃を避けると、

鎌の斬撃が衝撃波となって残りの

二人へと向かう。


「プロテクト!

ウィンドエンハンス!」


杏と滝に半透明な球型の防御壁と

風の加護が宿る。


「「ダッ!!」」


二人は別々の交わらない方向に全力疾走し、

間一髪で衝撃波を躱す。


付与エンチャント一体となる風の刃ウィンディア!」


信用という守護クレジットガーディアン!」


「さんきゅー。杏。滝。

よし、身体強化ハイワルツ!」


攻撃に特化した魔法の重ねがけ。

互いが互いの効果と混じり合い、

結果として効果を引き立てる。


「アタックメント!」


敵が鎌を振りかぶりきった後に起こる

一瞬の出来事。


間違いなく、彼女ら三人の練度の高さを

確固たる物にしていた。


その攻撃は敵の胴を確実に貫く。

ローブが破れ、上と下が両断された。




――――――――――――――――――――




「魔力濃度、低下。しかし、異常値を

維持していますぅ。」


「どういう事……。一体だけではない?」


「魔力濃度は依然としてここが濃いですぅ。

このダンジョンは一本道。

……嫌な予感がしてきましたねぇ。」


「滝ちゃんの勘を信じよう。

ここは引き返そう。」


そう美雪が指示した瞬間、

とてつもない事態が起きる。


「……反応1。私達の真後ろ。」


「魔力濃度、再上昇。敵に収束してます。

ダンジョンの入口付近は安定値に到達。」


「戦闘準備!!」


「プロテクト!」


感覚強化エラインドぉ!」


「モンスターの復活……!

いや、モンスターは復活しない。

ならモンスター以外?見当たるのは

直ったローブ、鎌、面……。」


「みんな!鎌か面を攻撃しよう!

この敵にはがい「ザシュッ!」」


「かはっ……!」


「美雪!」


「転送開始します!三分持ちこたえて!」


「プロテクト!美雪!」


プロテクトによる防護壁で辛うじて

致命傷に至らない傷を負った美雪は、

杏に担がれ、撤退を余儀なくされる。


彼女らが出口から逃げようとした瞬間、

敵が初めて移動し、彼女らの入口を塞ぐ。


「撤退は遅い、満身創痍、孤立無援。

ははっ。まるで絶望的な状況そのものね。」


杏は杖を構え、備える。

滝は脱出をする為にリソースを割いている。


不思議な事が起きたのはその時だった。

敵の面に突如として穴が開く。

再度ローブが破れ、敵は崩れ落ちる。


「何がおきたっ……!」


小声でそう言いながら周囲を見渡す杏。

彼女の視界には少女が映る。


少女は不思議な服を着ており、

不思議な銃を手にしていた。


少女の来た方向へと目を向けると

先ほどまでなかった「穴」がある。

杏はその穴がダンジョンの融合により

起こった物だとすぐに察した。


何でも良い。誰でも良い。

私たちを救ってくれるならば。


私たちは、「悪魔」とも契約しよう。

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