第9話 ホテルと銃と自己紹介。

ギリギリ間に合いました。

……セーフだよね?

――――――――――――――――――――


ホテル内部はエントランスが広い。

大理石らしき床。植物の植えられた壁付近。

壁には白と黒のコントラストがあり、

ベージュ色の床と合わさり、高級感がある。


お世辞にも良い服装とは言えない彼は、

ぎこちなく受付に向かう。


「チェックインでしょうか?」


「はい。」


「こちらから部屋をお選びください。」


そう言われて指をさされた方角を見る。

タブレット端末がそこにあった。


まだまだ普及は難しい時期だが、

実はこういったスマホ・タブレットなどは

買える。取れる素材がダンジョン産な

ために、まだ量産が難しいのだ。


それを見て彼は……




――――――――――――――――――――




あーうん。高いですねこのホテル。

間違いなく高い。大丈夫かな。

30000で足りる?


タブレットを操作すると、

13800エルの文字。最低クラスでこれ……。

案外安くて良かったと思う。

サービスも充実してると良いけど。


「はい。では13800エルのお支払いです。」


そう言われてお金を出す。

バイバイ15,000エル。


そう思いつつお釣りの200エルを受け取る。

痛い出費だ。そもそも、中心街の時点で

察するべきだ。選択を誤った。

ビジネスホテルとかあったかもね。


「部屋は405号室です。鍵をお渡しします。」


前は勉強に注力して、あんまりこういった

事はやってこなかったなぁ。

今は魔法が使えて、銃があって、

鏡映しの神話の世界で女性に……。


いや今は男性だけど。中々に濃い体験だ。


とりあえず部屋へと向かう。

最近はやる事が多い。考える時間も多い。

とりあえずは寝よう。


そう思い部屋に向かう。エレベーター

なんて便利なものはない。階段のみだ。


このホテルは全部で7階建て。

地球の都市部のホテルと比べると小さい。

しかしこの世界では十分でかい。


7階の人は、上り下り大変そうだね。


思考する内に5階に着く。

廊下はベージュと壁の下部の黒色のみと、

シンプルなデザイン。

ベージュは大理石のような物。


ここまであしらわれていると、

実は安いのでは?と感覚がバグりそうだ。


部屋に着いて、鍵を挿して扉を開ける。

中はまあ可もなく不可もない。

都市圏ではよく見ていたホテル。

というのだろう。


奥の部屋にベッド、テーブル、イス。

そして黒電話とクローゼット。

手前にはシャワールームとコップ類や

ウォーターサーバー的な水のタンク。

タンクの上部には魔法陣がある。

足りなくなったら足す形なのだろう。


『―――■■〜。あ〜あ〜。

聞こえていますでしょうか?』


え!?直接脳内に声がする。誰?


『聞こえていますか?

聞こえていたら返事して下さい。』


「あっ、はい。」


『えっと、まず自己紹介から。

私は銃です。』


「銃?」


『はい。正式名称は、

神器模倣装着者定着型成功機プロトタイプ

です。』


「長いね。」


本当に長い。この名前着けた人あれだ。

厨二病の方でとりあえず特徴を適当に

着ける科学者だ。しかし神器模倣、

原作のメインストーリーにあったね。

しかも主人公が持ってるやつだ。多分。


『はい。識別名はヴァルハラ尽く全てを裁く浄化者

言われています。』


「かっこいい名前つけられたね。」


『そうなんでしょうか。

過去の神格の住まいが由来だと

言われているので、あまり良い物では……』


「うんまあ、名前を着けた人は間違いなく

転生者なんだろうね。」


『はい?そうなんでしょうか。

私の制作者は既にいないので正体は

分からないはずなのですが。』


「なんとなくだけどね。

北欧神話ってこの世界に無いだろうし。」


この世界にはこれといった神話は無く、

代わりに魔力の起源やそれに関する逸話が

多数ある。魔力は星の外から来た説。

大規模な魔力を伴った爆発で飛来した説。

まあ、魔力絡みなところ以外は基本的に

現代と一緒である。


そんなことよりだ。


「それより、君はどんな銃なの?」


『はい。まず私を使う条件として、

女性になる必要があります。

その後、情報の同期をする事で、

運用可能になります。』


なるほど分からん。


「なるほど、

ちなみに前回初めて使った時は?」


『情報同期が不完全だったため、

一時的に意識の優先度を移して頂きました。

スムーズな意識の優先化が出来ず、

かなり荒い手段を取ることになりました。

激痛などはそのためにあります。』


「なるほど、悪気があるわけではないと。

一旦気絶させるためにあの激痛が。」


『はい。貴方の記憶データから一番強い

痛みを選択し、増幅しました。』


「はえ〜。記憶も読み取れるんだ。」


『はい。情報同期が完了した事により、

貴方の記憶を全てバックアップ

しています。素晴らしい記憶ですね。

物理演算や、今まで見たことない方程式。

ぜひとも自己強化に役立てたい。』


「怖いなこの銃……売り飛ばすか?

やっぱ質屋で換金したほうが……」


『やめてください。そもそも私は

契約者以外には使えない代物です。

せいぜい安いモデルガン程度でしか

売れませんよ。』


「こんなに装飾が凝っていて?

金持ちには高く見えると思うけど。」


『認識を改ざんするので。』


「駄目だった……。」


『そんなわけですから

よろしくお願いします。マイマスター我が主。』

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