第8話 ぅゎっょぃ。

銃を使えないことには話にならない。

何度か銃を使って練習や戦闘を行った。

そうして思った。


ぅゎっょぃ。


まず攻撃方法。魔力を込める。

引き金を引いて撃つ。以上。

というか込める必要が今のところない。

実はもう銃の中に込められきっていた。


次に攻撃。何とさっきのオオカミを

消し飛ばすぐらいの威力。

何故かサプレッサー付き。

射撃する時に全く音がない。


このくらい強いんだったならば、

魔法と併用して、

銃を主力にして攻略する路線で。


多分、この子魔法武器だし、

ボスに効くはず。強力だから瞬殺かなぁ。


とりあえずはボスを撃破しよう。

食料、あのりんごでラストだったし。

朝昼晩ちゃんと間食も含めて食べたから、

結構早く無くなったなぁ。


「パァン!」


「ギャウッ!」


甲高い音と共にオオカミが倒れる。

頭蓋骨と球が衝突して聞こえた音らしい。


魔力はたっぷり。りんごはなくなったから

レジ袋の容量もある。できる限り稼いで、

いい加減、安くていいから拠点が欲しい。


原作でな〜ぜか描かれていたけど、

主人公が一年生編で住んでいた安アパート。

30年ローンでなんと家賃は50000エル。

初心者向けダンジョン5回行けば

一ヶ月分の元が取れる。

まあ、安アパートだから、

当然、防犯は鍵のみだけど。


……なんか関係ない事ばっか考えてる。

いや、人生設計は大事だよ?

大事だけど、なんか緊張感がない。

命がけなはずだけど、ぼーっとする。


生き急いでいる感じもないし、

ダンジョン内がなんか落ち着く。


銃の効果?だったら大分やばいね。

このままだとダンジョン暮らしになる。

よし、急ごう。




――――――――――――――――――――




そうして彼、もしくは彼女は歩みを進める。

彼は自身の違和感から背きながら進む。


撃って拾って、撃って拾っての作業。

たまに魔法が効きづらい敵もいるが、

あっという間に沈められる。


彼女はこのダンジョンの適正から

大きく外れた力を持っていた。


「ばん。」


「ギャウッ゙!?」


彼自身も、無意識にこの状況を楽しむ。

自身から声を出しているのにも気づかない。


立ち方や歩き方、銃を撃つ時でさえも、

どこか気の抜けるような感じであった。


その仕草はどこか魂が無いように、

ある種植え付けられ、操られたように。

少なくとも彼がこの状態でいるのは

あまり良いとは言えない状態だ。


彼はボス部屋にたどり着くと、

優雅に銃を構え、先手を取る。


今回のボスは鎧の巨人であった。

原作では土曜日のボスである。


2mはある剣と、4mの身長。

大ぶりの範囲攻撃が特徴で、

HPが半分以下になると、

攻撃力が2倍になるスキルを使っていた。


「ばん、ばぁん。」


彼が気の抜けた声を発すると共に

鎧に穴が開く。鎧からは鉄を貫いたような

形容しがたい音が鳴り響く。


巨人は倒れ、魔石となる。

彼はそれ魔石を飲み込む。

彼の魔力、ではなく銃の魔力が

新たに装填される。


理解すればそれは理のある行動だが、

はたから見れば、狂気的な行動だった。


まずこの世界の知識として、

魔石は石油や石炭などの代わり、

つまり、エネルギー源として主に使われる。


そのような代物を取り込めば、

まず間違いなく魔力が人間の許容範囲を

超える。行き場を失う魔力は暴走する。

稀に人間はそれに適応するが、

全くと言っていいほど前例がない。

人はそれを魔化まかと呼んでいる。


魔化した人間は戦闘力が桁違いになる。

つまりだ。たった今彼は魔化し、

その魔力分を銃に吸い取られる

状況にあるという訳だ。


そもそも彼の状態自体、前例がない。

彼が今、どのような気持ちであるのか、

どのような事が起こっているのか、

検討しようにも出来なかった。


……彼は真っすぐ歩みを進める。

ダンジョンの出口に立った際、

彼は元の男性の時の彼の姿になった。




――――――――――――――――――――




急激に意識が引っ張り出される感覚がし、

同時に思考が冴えてくる。


なんとなくで戦っていたら勝っていた。

落ちた魔石を食べた時は美味だった。


って違う。あれは資金源。食べてどうする。


そういえばやけに思考がクリアだ。

五感も異常に敏感だと分かる。


思考がクリアなのは状況と比較して

だから置いておくとして、

身体は元の状態に戻っている。


とりあえず例の変化は後回しだ。

換金して、食料を買おう。


「すいません。換金をお願いします。」


「はい……ずいぶんと狩りましたね。」


「はい。」


ぶっちゃけ途中から意識はほとんどない。

それでも身体は動くから、身を任せていた。

これ結構やばいのでは?


「少し査定します。こちらの番号札を

お持ちになられて、少々お待ち下さい。」


そう言われたのでイスに座る。

冴えすぎている五感、さっきの性転換、

そしてこの銃の威力たるや。


これ結構呪いの武器系統だったりする?

まさかこの銃が?

明らかに善良な見た目してるけど。


これは換金したほうが良いのか?

いや、この銃は非常に強力だ。

今さら手放すとかえって逆効果。


ならば自分が成長するまでこの銃は

使う方針でいいと思う。


「15番さん、換金が終わりました。」


そう呼ばれてイスから立つ。

五感が冴えているとは言ったが、

まだこの状況に慣れておらず、

まだ頭にモヤがかかったままとなっている。


とりあえず頭ぼーっとしないように、

しっかり意識は保っておこう。

銃を持った時凄く痛かったから、

情報の処理が追いついてないかもしれない。


少し

銃を持って受付へと向かう。


「合計で34250エルになります。」


大金を財布にしまう。買えるものが増えた。

その前に宿かな。チェックインしておこう。


「ありがとうございます。

あの、聞きたいことがありまして。」


「はい。」


「近場に宿はありますか?」


「近場ですと、リャールドホテルが

中心街にあります。ここから遠くは

無いですね。一番高い建物が目印です。」


よし。この街にホテルあるんだね。

そうと決まれば早速行こう。


「ありがとうございました。」


そう言ってダンジョンをたつ。

今日はもう暗かった。

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