第2話 生き急いでます。

 僕はあの後、村の人に聞き込みをして、近場のダンジョンについての情報を収集した。

 大分たじたじだった……。


 条件としては近場であることと、初心者向けであること。

 この条件なら、転生者は早々に死ぬことはないと思うし、あんまり歩かずに済む。


 それで見つかったのは、徒歩10分程の立地にあるダンジョンと、講習所。


 どうやら今日、初心者向けの講習が行われるらしく、ダンジョン周りはちょっとした人集りで賑わっている。

 そして僕はその講習所を無視し、ダンジョンに潜ることにした。




―――――――――――――――――――― 




 そしてダンジョン内。

 壁掛けろうそくに照らされた石畳みの道で、泣きながら走っている男の子が一人。


「びぇぇ!!!」


 そんでもって案の定、僕はモンスターにどつき回されそうになっている。

 見た目は緑色のゼリーみたいなスライムで、かなりすばしっこい。

 初心者向けと侮ることなかれ……初異世界、異世界でチートスキルと浮かれていたからこのザマである。


「ファイアメ゛ン゛ドォォ!!」


 僕は泣きながら原作で使われていた火の下級魔法を連発する。

 しかしエイムはガバガバで当たらず、既に何十発か撃っているため、魔力も少なくなっていると体感で分かる。


「へぶっ!?」


 何度もコケる様な運動不足の身体にムチを打って、僕は何とか最初のモンスターを倒そうと必死になる。


「だずげでぇぇ!!」


 自分事だが凄く情けない事を言いながら、走っては魔法を撃つを繰り返している。

 しかしながら走っているせいで手がブレブレになり、上手いこと魔法を当てられず苦戦する。


「キュイ!」

「ぐぶっ!?」


 とうとう僕はスライムからのタックルを背後からくらい、そのまま床に倒れ込む。


「キュ…!キュ……!」


「やめ、なんか地味に痛い!」


 攻撃力はそこまで無いし、のしかかられた感じも無いが、どうやら僕の背中をスライムが殴っているようで、子どもに殴られた時ぐらい痛い。


「ふぬっ!」

「キュイ!?」


 流石に痛いのは嫌なので、横回りをして引き剥がそうとすると、案外簡単にスライムは落っこちた。

 目を回したようにスライムは身体を動かしており、進み方もおぼつかない。


「ファイアメント!」

「ギュッ……」


 落ち着いてエイムを合わせて、僕の魔法はスライムに初めてヒットする。ようやく、初戦で勝利を手にする事が出来た。


 すると討ち取ったスライムは何かに吸い込まれるように形を変え、一つの宝石となる。

 魔石。ファンタジーでは定番のアイテムで、この世界では機械などの動力源に使われる優秀な素材だ。僕はそれを拾い上げ、ポケットにしまう。


「とはいっても、やっぱり講習所に行っておいたほうがいいよなぁ……」


 スライム一匹如きに手間取った自身の苦労を振り返りながら、僕は講習所に行くために来た道を戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る