第一章 追放聖女と騎士隊長⑤

 だが、そんな中でもただ一人「あ、あの……!」とかんに声を張り上げる聖女がいた。

「なんでしょう、グロリオーサ様」

 ミーティアは優しく声をかける。

 きんちようの面持ちながら前に出てきたのは、ミーティアと首席聖女の試験を争ったグロリオーサだった。

 ふわっとしたくりいろかみに大きな緑のひとみをした彼女は、十六歳という若々しさに満ちた将来有望な聖女だ。

 果たして、聖女グロリオーサは意を決したおもちで意見する。

「さ、さすがに、お口が悪すぎると思います……! 地方に異動になって腹が立つのはわかりますけど、そ、その口のき方……聖女としてずかしくないんですか!?」

 見守っていた周囲の人々は、なんとも言えない表情になる。

 グロリオーサの言うことはもっともだが、そんなきれい事など言っていられるかというミーティアの心境もわかるだけに、どうたしなめたらいいのかというふんになるが……。

 周囲のこんわくなどどこく風。ミーティアはこうはい相手ににっこりとほほ笑んで見せた。

「そうですね。では、そんなわたくしを反面教師として、あなたは身も心も清らかな聖女を目指してください。わたくしはあいにく、こちらがなの」

「素って……」

 あっけらかんと笑うミーティアに、グロリオーサは毒気を抜かれた面持ちになる。

 そんな彼女に歩み寄り、その肩をぽんぽんと優しく叩いて、ミーティアは続けた。

せいれんけつぱくな聖女を演じていたのは、首席聖女になって、あのクソハゲ馬鹿親父率いる上層部にもの申したかったからなのよ。もの申した結果、追放ということになったから、もうねこかぶる必要もなくなったわけ。理解できて?」

「は、はぁ……」

「根が真面目まじめで聖女の仕事にほこりを持つあなたなら、きっと見せかけではない本物の清らかな聖女になれると思うわ! がんばってね、心からおうえんしています」

「へっ? え、あ、ありがとうございます……?」

 きらきらした笑顔のミーティアに手をにぎられ、上下にぶんぶんられたグロリオーサは、わけがわからないという顔になりながら一応うなずく。

 そんなグロリオーサの手をかかげて、ミーティアは晴れやかな笑みで周囲を見回した。

「もはやわたくしの言葉がどれくらいの効力を持つかはわからないけれど、次の首席聖女にはグロリオーサ様をすいせんすると、ここで宣言しておきます。グロリオーサ様、首席聖女となったあかつきには、わたくしと同じようにたくさんの重傷者をやし、【神樹】に祈りをささげ、しんしよくしんでいつしようけんめいに働いてくださいね!」

「えっ……?」

 おんなせりふを言われた気がしたグロリオーサが口元を引きらせる中、ミーティアは美しい所作で一礼した。

「では、おやくめんになったわたくしは、さっそくここを出るたくをしますので。……あ、クソハゲ馬鹿親父……もとい筆頭聖職者様、追放したわたくしを『やっぱり人手不足だからもどってきて!』なんて呼び戻したりしないでくださいね。心の底からウザいので。──それでは皆様、ごきげんよう!」

 ミーティアは居並ぶ人々にかがやかしい笑顔で手を振って、さっさと広間を出て行った。

 残された人々はぜんとしたまま固まってしまう。

 何人かがグロリオーサと、すっかりしおれたボランゾンに目を向けたが、二人もまたぼうぜんと目を見開いたままピクリとも動かなくなっていた。

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