その街で

一の八

その街で




 僕は、幼少の頃とても身体が弱い子供だった。風邪を引いたりすることが多く、医者のお世話になることが多かった。


 だから隣町にあるかかりつけ医に行くことが日課になっていた。


 夏の暑さを終わりみせない、9月の終わり



 いつもは父の車に乗って、そこまで向かっていた。



 今日もまた、いつものようにお医者さん所に行く事になったのだが、父が仕事があるというので代わりに姉と二人で電車に乗っていく事になった。


「間もなく電車が参ります。黄色線までお下がり下さい。」


「電車くるよ」

 ガタンゴトンガタンゴトン

 キッー

 プッシュー



 僕は、姉に手を引かれ開いたドアの向こうへ進んだ。


 その時、産まれてはじめての電車で少しだけテンションが上がっていた。


 でも、またお医者さんの所に行くんだよな…



 ガタンゴトンガタンゴトン


「次は、……」


「次で降りるからね。」


 もう着いたのか。はやいな…

 キッー


 プシュー


 姉に手を引かれ、かかりつけ医へと足を進めた。


 お医者さんの所についてからは、思っているよりもすんなりと進んで早く帰る事が出来た。



 僕は、それでもなんだか気分が晴れないまま

 駅へと向かった。


 姉は、父親から渡されたお金を数えていた。


「えっと、…キップ買って。

 あと、このくらいか」

「……」


「アイスクリーム食べる?」

「……うん」


「お父さんには、内緒だからね」

「……うん」


 そのアイスは、夏の暑さで程よく解けていて、びっくりするくらい甘くて、

 それでいて美味しかった。


 ぼくの夏は、そのアイスクリームと電車に揺られながら溶けていった。

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その街で 一の八 @hanbag

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