第7話

真吾は、あゆみと再会した日に、あゆみを元の新婚時代の家に連れて帰った。そこで真吾が

「あゆみ、足りない物は」

あゆみは、新婚時代のままのタンスの中を確認して

「化粧品くらいよ。一応、古いけれど結婚した時の下着は、揃ってるし」

「足りない物があれば、俺が買って来るから」

「ありがとう」

と言う、あゆみの言葉が終わるか終わらないうちに真吾は、あゆみに抱きついた。あゆみは、最初は躊躇っていたが、真吾の抱擁を受け、堰を切ったようにあゆみも、手を真吾の背中に回し

「あゆみ」

「真吾さん」

二人は、空白の時刻を取り戻すかのように、激しく抱き合った。特に、あゆみの方が激しいくらいだ。何度も何度も。

いとなみを終えて、真吾は

「あゆみ、今日からずっとここに居るんやぞ、絶対」

真吾は、わかっている。

(一成は、金蔓のあゆみを絶対に捜しに来る。まず、あゆみを連れ去った俺のとこへや)

「その時や」

あゆみは、不安な顔で

「その時って?」

「いいから」

あゆみは、真吾が何を考えているか、およそ見当がついている。

(このひとは、一成に危害を加えようとしている)

そう、真吾は一成を殺す決意でいるのだ。真吾は

(あんな、女を喰い物にする奴は人間やない。人間の皮を被った虫けらや)

あゆみは、真吾の顔を不安げに見ている。

(一成は、これからもあゆみ以外に、絶対に女を喰い物にするに決まってる。苦しむのは、俺とあゆみだけでたくさんや)

あゆみは

「真吾さん、まさか一成を殺すつもりじゃないわよね」

「そうだとしたら」

「あんな最低な男と、真吾さんが同類になってもらいたくないの。真吾さんに、犯罪者になってもらいたくないのよ」

「・・・」

あゆみは、真吾に抱き付いて

「絶対よ」

「あぁ」

と言った真吾の言葉に、あゆみはまだまだ不安の色を隠せはしない。真吾の決意は硬く、一方、あゆみもそんな真吾の性格は、知り抜いている。真吾とあゆみの目の前のテレビは、二人の気持ちとは裏腹に、若手漫才師が笑いをとっている。


真吾は

(俺があゆみを連れ戻したと、一成は絶対に思うはずだ。そして、一成は金蔓のあゆみを取り戻しに来る)

と、確信を持ち、電話で隊長に一週間の休みをもらって、一成が真吾の前に現れるのをじっと待った。が、一成は容易に現れなかった。一方あゆみは、あまりにも長い間、家に閉じ籠っていることに、嫌気がさしてきて

「私、買い物くらい行ってくるわ」

真吾は、あゆみの顔をじつと見つめ

「ええけど、あゆみ」

「何?」

「買い物先で、一成と会ったらどうするんや」

「えっ」

「おまえに、もしものことがあったら」

(そこまで、私のことを思ってくれてたなんて)

あゆみは、心が暖まった。

そして、隊長にお願いしていたちょうど一週間 目に、とうとう一成が、真吾とあゆみの前に現れた。二人は、一緒にテレビを見ている最中だった。

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