第6話
真吾は、警備会社のあゆみの同僚や、結婚式に出席してくれた、あゆみの高校時代の同級生にも片っ端から電話をしてみたが、行方はわからないまま。何故、あゆみが自分の元を、わずか半年で去っていったかを、真吾は考えてみたが、わかりはしない。
勿論、あゆみは無断欠勤が続いた為、会社を懲戒免職に。
(あゆみの方から、付き合ってくれと言ったはず)
真吾は、わずか半年の新婚生活を思い出しながら
(ずっと、楽しい結婚生活やった。俺は、あゆみに不自由な思いはさせてないし、家庭も満足してたはずや。それなのに、いったい何が)
真吾は、あゆみが去ってから、ずっと悩み続けた。そして、あゆみとの日々のことを思い出しながら、あゆみが喜んでくれた真吾が得意料理を作った日のことを。
「あゆみ、たまには俺が、夜の料理を、作るわ」
真吾の、その言葉を聞いてあゆみは、目を輝かせて
「わぁ、何を作ってくれるの」
真吾とあゆみは、夫婦共稼ぎなので、あゆみをたまには休ませてあげたいと思って、真吾が
「まあ、ゆっくりしといて」
と、あゆみの背中を押して、あゆみを台所から追い出して、あらかじめ真吾が仕事帰りにスーパーで買ってきた具材を台所に並べた。
(包丁を持つのって、久しぶりやわ)
真吾は、そんなことを考えながら、白菜や豆腐を切ってゆき、そしてしばらくして鍋の用意が整い、真吾はテーブルの上にカセットコンロを置いて火を付けた。しかし、鍋の上には蓋があって、鍋の中は見えない。あゆみは
「何の鍋?」
「出来上がるまでの、秘密」
あゆみは、真吾を軽く睨んで
「もったいぶるわね」
「それだけ、美味しいと思うよ」
「ほんとう?」
「俺、嘘付かないから」
「楽しみにしてます」
しばらくして、あゆみが鼻を上げてクンクンとして
「いい匂いしてきた」
真吾は、ニコッとして鍋蓋を取って、出来上がりを確認してから
「よーし」
と、真吾が自分とあゆみのお椀に、具材を注ぎ入れて、あゆみに
「召し上がれ」
「はい、いただきます」
と言って、あゆみが箸を持ってから出汁をすすると、真吾を見て
「美味しい」
と。真吾は
「だろ、嘘は付きませんと、言いましたけど」
「何なの、この出汁?」
「とり野菜味噌と酒粕を混ぜて、それに豚肉と白菜と豆腐を入れたんや」
「ほんとうに美味しい」
あゆみの満足そうな顔を見て
「良かった。いっぱい食べてや」
「うん」
真吾は、あゆみとの新婚旅行も思い出した。あゆみが、トワイライトエクスプレスに乗りたいと言うので、日本旅行に頼み、大阪から札幌までロイヤルスイートのひとつ格下のロイヤルを申し込んで。ロイヤルスイートは中々チケットが取れない、がロイヤルなら何とかチケットを取ることが出来。
勿論、夕食は日本海を見ながらのフランス料理のフルコースを、食堂車であるダイナープレヤデスで食べ、札幌から小樽、ニセコとレンタカーで移動した。特にトワイライトエクスプレスでの車中は、あゆみが乗りたいと言ったのだが、真吾も興味があったので、車中で二人は、一睡もしない程、盛り上がったのだった。
真吾は、今考えても
「あの時が、いちばん楽しかった」
だからこそ、どう考えてもあゆみの裏切りが、真吾には理解出来ない。
あゆみがいなくなってから、真吾の性格は暗くなる一方で、職場では同僚も気を使って声を掛けられないでいる。
そんな時、真吾とあゆみの結婚式に出席した二人の上司でもある警備隊長が
「香山君、君は有給休暇がたくさん有るから、しばらく休んで、旅行でも行ってくるか」
と言ってくれたが、真吾は
「ありがとうございます。けど私は、この仕事が好きなんで」
「そうか。それやったらええけど」
真吾は
(心遣い、ありがとうございます。けど、仕事が忙しい方が、あゆみを忘れることが出来るんで)
隊長が
「じゃあ、明日一杯行こうや」
「はい」
そして真吾が、泊りの仕事を終えた非番で、朝から開いている近所の職場の居酒屋へ。
「どうや?あゆみさんのこと、忘れられたか。あっ、ごめん。ストレートに聞いてしまってな」
と、隊長は真吾を見たが
「い、いいですよ。あゆみのことは、忘れようとしてるんですが、忘れることが出来ません。まるっきり、わからないんです。何故、俺の元からいなくなったのか。あいつの方から付き合ってくれと言ってきたのに。俺が悪いんやったら、諦めもあるんですが」
隊長は、両手をひろげ
「まあまあ。女心というもんは、わからんもんやし」
「そうなんですけど、悔しくて」
「時間が解決してくれるわ。けどくれぐれも自暴自棄になったらあかんぞ」
「はい、それだけは」
と、真吾はキッパリ言った。その明くる日の勤務で、モニターに一成の姿が。
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