第3話

真吾は、あゆみを目の前にして、5年前の初めてのあゆみとの出会いを、思い出した。


山形あゆみは、真吾の勤めている警備会社に、新入社員として就職してきた。身長は170cm近くあり、目鼻立ちもハッキリしていて、美人のうえにスラッとして、胸も腰周りも程よい大きさだ。そのような女性が、警備員の制服を着て歩いているだけで、男どころか、女性もそのスラッとした姿に、思わず振り返ってしまうくらいだ。それに比べて真吾は、身長は、160cm足らずで、小太りで目は細く、鼻も低く男前とは決して言えない。あゆみは、3日間の新人警備研修を終えて、真吾のいるビルの警備に配属されてきた。そのあゆみの指導をしたのが、真吾である。

真吾は、あゆみが会社の同僚から、チヤホヤされていることに対して、歯痒く思っていたので、厳しく指導をした。あゆみは、真吾のあまりに厳しい指導に

「香山さん、もう少し私に優しくしてくれませんか」

すると真吾は

「仕事に、優しさもくそもあるもんか。君は、警備という仕事を、甘く考えてないか。もし刃物を持っている者と一対一で対峙したとしたら、どうするつもりや。下手をすると君自身の命に関わることになるんやぞ。このビルには、クライアントに、それにお客さんも来る。自分の命を護れない者は、その人たちの命も絶対に護れないんやぞ」

と、そう言って真吾はあゆみを睨み付けた。

「そうなんですけど」

最初あゆみは、真吾がわざと意地悪で、厳しくしているんだと思ったんだが、その日からのあゆみの、真吾を見る目が、少しずつ変わっていった。そして、あゆみの1ヶ月に及ぶ見習い期間が終わり、非番で真吾はあゆみを職場の近くの、昼から開いている居酒屋へ連れて行き、ビールで乾杯した後

「お疲れ様。山形さん、明日からはもう一人前の警備員としてやっていくことになる。今まで君に厳しく接してきたけど、勘弁してや」

真吾の、突然の一杯の誘いに、最初は緊張していたあゆみも、急にニコッとして

「いえ、私のことを思ってのことだと、我慢してました」

「それやったらええけど。まあ、ゆっくり呑もうや」

真吾が、鯖の塩焼きに箸をつけている所で

「はい。あの、香山さんは結婚されてるんですか」

「独身やけど、それが何か?」

と、真吾が箸を皿に一旦置いて、あゆみに向き直ると

「彼女は?」

「彼女いない歴、28年」

「えっ、じゃあ今まで誰とも付き合ってないんですか」

「そうや。それがどうかした?」

はっきり言って真吾は、女性にモテないことを、さも自慢してるかのように。

「・・・」

あゆみは、真吾の指導の元、1ヶ月の徹夜の勤務で、警備という仕事に対し、真摯に向き合う真吾の姿に引かれてしまい、真吾をじっと見つめた後

「あの、もし良かったら私を、彼女にしてくれませんか」

「えっ」

と言って、真吾があゆみを見ると、あゆみが

「よろしくお願いします」

と、真吾に向かって頭を下げた。まさに青天の霹靂だ。

「俺みたいな男を、なんで」

真吾は、警備員をしている時の、真剣な顔になって聞くと

「私、今までこんなに仕事に真摯に取り組んでいる方を、初めて見ました。私の周りの男友達の中で、香山さんみたいな方は、ひとりもいなかったんです。それで、それで好きになってしまいました」

真吾は、店の中を見回してから、あゆみに

「俺の取り柄といったら、警備の仕事しかないんやで」

「そのことは、1ヶ月も一緒に仕事をしていて、十分わかりました」

冗談だと思っている真吾は、定員にビールの追加をたのんで

「山形さん、もう酔ったんちゃう?」

「そんな事ないですよ」

「まあ、ゆっくり呑もうや。あっ、非番で眠いからかな」

「大丈夫です。香山さんと一緒だから」

「そこが酔ったんちゃうかと、言ってるんや。俺、今まで女のひとから付き合ってくれなんて、言われたことないから」

その真吾の言葉に、あゆみは頬笑んだ。店は、昼の12時になって急に混み出したので、真吾とあゆみは店を出ることに。

あゆみは、仕事の緊張感から解放されたのとアルコールで、激しく酔ってしまい、真吾があゆみを家に送って行くことに。

「香山さん、すいません」

「いいよ。自分が呑みに行こうって誘ったんやし、自分にも責任あるから」

真吾は、あゆみに肩を貸すまでではないが、外の風にあたったり、駅のホームのベンチで、真吾が買ってやったお茶を飲ませたりしながら、あゆみがひとりで住んでいるアパートまで、何とか連れて行き、真吾は

(キレイなアパートやなぁ。築5年も経ってないやろ。俺とこみたいに築30年くらい経ってるボロアパートとえらい違いや)

真吾は、あゆみから受け取った鍵で玄関を開けて、あゆみの靴を脱がせにかかると、あゆみのミニスカートのあいだから、白いパンティがチラッと。真吾は

(あっ、あかん)

と、目を逸らして、家に入ったばかりの所にあるソファーにあゆみを寝かし付けた。

真吾は、生まれて初めて入った女性の家で、鼻で部屋の空気を吸って

(やっぱり、女性の部屋は匂いが違うわ)

奥の部屋は、半分開いた扉の隙間から、ベッドが見える。真吾は

(あそこで、山形さんはいつも寝てるんや)

「ゴクッ」

と、生唾を飲み込んだ。そして、ソファーで横になっているあゆみの耳元へ

「山形さん、これで帰るから」

と言って、真吾が帰ろうとすると、あゆみは黙って真吾の手を握り、自分の方へ引っ張った。そのはずみで真吾は、あゆみにもたれかかってしまい、真吾の手があゆみのお尻に触れ

「えっ」

と思った直後、あゆみの方から身体全体で、真吾にもたれかかってきた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る