第2話

真吾と一成は、高校の同級生で、同じ剣道部に所属し、県大会の団体戦では、真吾が先鋒で一成が大将だった。結果は、準々決勝敗退だったが、それだけ仲が良く、クラブの合宿を一緒にさぼったり、二人で隠れてビールも呑んだ。勿論、真吾と一成は親友関係で、真吾とあゆみの結婚式にも、主席する程の仲だったのに。一成のことを

(あのアホ)

としか、真吾には思えなかつた。

あゆみは、辺りを見ながら

「ここでは、話せないわ」

と言って、真吾の腕を引っ張ると、真吾が

「何処へ連れて行くんや」

「お願い、付いて来て」

と、近所の喫茶店へ。二人が席に付くと、コーヒーの注文もそこそこに、あゆみは、目に涙を浮かべながら、小さな声で

「これだけは、真吾さんに理解してもらいたいと思って。私、一成に犯されたの。あなたが、一成を家に呼んだことがあったでしょ。あなたが酔いつぶれたあとで」

「えー」

真吾の大きな声に、付近のコーヒを飲んでいた客が、みんな振り向く程。

「あの男はあの日、あなたに酒をおもいきり呑ませておいて、自分はほとんど呑んでなかったみたいなの。そして、あなたが酔いつぶれたあと、私に刃を向けたの」

「・・・」

「そして私、あなたのすぐ横で、何度も何度も犯されてしまって。こんなに汚れた身体では、もうあなたに逢えないと思って、家を出たの」

「そうやったんか」

(そうやったんか、初めて知った。あゆみが、俺を裏切ったとばかり思ってたのに)

「で、今はどうしてるんや」

「・・・」

あゆみは、うつむいたままで答えようとはしないが、あゆみの膝に大粒の涙が。真吾は、立ち上がってテーブル越しに、あゆみの両肩を持って揺すると、テーブルの上の、コーヒがカップから溢れた。

「どうして答えれんのや」

あゆみは、ハンカチで自分の涙を拭きながら

「私。今、風俗で働いて、一成を食べさせてるの」

「何やとー」

真吾がまた、大きな声を出したので、喫茶店のウエイトレスが

「静かにしてくれませんか」

と、注意してくる程。

真吾は

(うーん、一成ィ)

真吾の怒りは、頂点に。

真吾は

(俺は、何というアホな奴や。目の前にいるあゆみ独りを護れないばかりか、そのあゆみを、裏切り者と思ってしまって。そして、俺は一成という男を、信用して家に呼んだばっかりに・・・。一成は、あゆみをずっと狙ってたんや、絶対。そして、俺が一成を家に呼んだ時から、あゆみを自分のものにする計画を立ててたんや)

「あゆみ、すまなかった」

自分は、あゆみに素直に頭を下げた。あゆみは

「えっ、どうして真吾さんが頭を下げるの。悪いのは、みんな一成なのよ。そして、その一成から逃げられないている私なのよ」

「いや、おまえを信用してなかった俺が悪いんや。なぁ、あゆみ。今からでも遅くはないから、俺のところへもう一度、戻ってきてくれ」

あゆみは、しばらく考え、冷めたコーヒを口に含んでから

「私みたいな、汚れきった女でも、いいの」

「当たり前や、俺でええんやったらやけど。俺、おまえがいなくなってから、ずっと独り身のままやし。元の鞘に納まるだけやから」

「嬉しい。嬉しいわ真吾さん、その気持ちだけ頂くわ」

真吾は

「いや、たった今から俺は、おまえを連れて帰るで、絶対に」

と言って真吾は、あゆみをじっと見つめた。

その真吾の、真剣なにごりのない瞳を見たあゆみは

「本当なのね。本当に私を、ゆるしてくれるのね」

「ほんまや。悪いのは、一成ひとりや。それを知らんといて俺自身が、おまえも俺を裏切ったんやと思い込んでたんや」

真吾は、もう一度あゆみに頭を下げて

「だから、黙って俺に付いて来てくれ。たのむ、やり直そ」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る