第11話
会話の邪魔にならないようにとマナーモードにしていたスマホを取り出して画面をチェックするとメッセージが来ていた。花蓮と茉実から。僕は花蓮の方から見た。
『そう君って人を好きになったことある?』
久しぶりのメッセージがこれか。返事をしたって見ないくせに。花蓮が次のメッセージを送ってきていても前に送った僕のはなぜか未読のままだった。
誰かを愛おしいと思ったことは一度もないし、どういった感情なのかも理解できない。僕は『ない』と答えた。
茉実の方からは友里との様子を伺うようなものだった。それには、収穫があった、後で話す、とだけ送っておいた。
もう五時になろうとしていた。日が落ちてからそんな奇妙な神社に行くのはさすがに気が滅入る。僕は急いだ。
そこは写真の通り錆びたところだった。
朽ちた木の鳥居が斜めになっていて、草深い奥に小さな拝殿があるだけ。
その扉の前に使いかけの消しゴムが置かれていた。誰かが願掛けに来たのだろうか。
お社の周りを一周してみたが怪しい点はなかった。くまのヘアピンも落ちていない。僕は失礼を承知ながら、「すみません、失礼します」と詫びを入れてからお社の小さな扉を開けた。
中は湿気が充満していて、生暖かいような生臭いようなにおいがむわっと出てきた。思わず息を止める。風通しが心ばかりかよくなってから呼吸を再開し中にスマホのライトを当ててみた。
そこには蛇がどくろを巻いた錆びた銅像が置かれていた。今にも動き出しそうな異様な気配を感じた。この蛇は僕の手をまずは齧るだろう。恐れ多くなり、そっと扉を閉めた。
ゆっくりと踵を返そうとした時スマホが鳴った。「わっ」と思わず大きな声が出た。誰にも聞かれていないか周りを見回す。カラスが一匹木の上に佇んでいるだけだった。
画面を見ると花蓮からだった。こんな短時間に続けてくるのは初めてだった。
『私とキスした場所覚えている?』
忘れるわけがない。僕のファーストキスが奪われた場所だから。それにそこは――。返答する前にもう一度送られてきた。
『そこに来て』
もう日が落ちてきている。でも今行かないといけない気がした。
神社を出ようとしたところ、小さな蛇が上にいたカラスに突かれていた。カラスを刺激して反撃されるかもという恐怖があったが、素通りできるほど僕の心はまだ凍っていなかった。
落ちていた木の枝で適当にカラスを追い払った。身構えたがカラスは反撃もせずどこかへ行った。蛇は怪我をしていた。
僕は持っていた飲みかけのペットボトルの水を開け、上からかけた。これが果たして怪我に効果があるのかはわからないが。それからコンビニで水を買ったときについでに買ったハート型のグミを数個、蛇の前に置いた。これは多分違う。だが今の僕がこの蛇にできることはこれが精いっぱいだった。穴に埋めてあげようかとも思ったがそれはもっと違うと思った。
あとは本人に任せようと、神社を後にした。
あの場所に花蓮がいるかもしれない。
茉実が心配して何通かメッセージを送ってきていた。花蓮からかと思ってみたら茉実からで少しがっかりした。僕は既読もつけず返事も返さなかった。花蓮との繋がりを切らしたくないと思ったから。
僕のファーストキスが奪われた場所は花蓮が亡くなった場所でもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます