第5話
花蓮の母、香苗さんは快く迎え入れてくれた。平日のため家にいるのは彼女だけだった。
友里の写真が置かれている花蓮のお仏壇に挨拶をし、香苗さんが飲み物を用意してくれている間、ざっと部屋を見渡した。妹が一人のと、両親が写っているのはあったが、花蓮が映っている写真は一枚も飾られていなかった。思い出すのが辛くて外したのかもしれない。
僕が持ってきたお菓子と用意してくれたジュース片手に昔話に花を咲かせた。どの思い出も僕が覚えているものと一致した。アルバムを見せてくれるようにうまく茉実が話を運んでいく。
思い出させることになり断られるかと思ったが、香苗さんは嫌な顔一つせず承諾してくれた。
開かれたアルバムを見てゾッとした。
花蓮がいたであろうその場所にあの棺で眠っていた友里そっくりな人が写っていた。母親の表情を盗み見ても怪しい点はなく、それが花蓮だと信じ切っているようだった。
茉実が花蓮の部屋を見たがると、まだ部屋がそのままだからと見せてくれた。香苗さんはこの部屋もたまには人が使った方がいいのよ、ゆっくりしていってとも言ってくれて、もう大学生なんだからやっぱジュースじゃなくてコーヒーの方がいいよね、とコーヒーも入れて持って来てくれた。香苗さんは僕らが花蓮に会いに来てくれたことがなんだか嬉しそうだった。
部屋は前来た時と変わったところは見当たらなかった。入って左側が窓で右側がクローゼット。入口のすぐ左に白い四段のチェストがあり、その隣に壁に向かって学習机が置かれていて、奥の壁はベッドが置かれていた。
僕はベッドに腰かけた。茉実は興味深くじっくりと部屋を観察している。チェストの上にも机の上にも前回同様写真は飾られていなかった。茉実は机の中やチェストやクローゼットの中も丹念に調べ始めた。
「あんまりいじくり回さない方が……、お母さん戻ってきちゃうよ」
「足音でわかるから」
あったといいチェストの中から取り出したのはピンクの生地に黒のレースが縫い付けられている上下の下着だった。茉実は自分の胸に当てながらつぶやいた。
「花蓮さん私よりも大きい」
僕のことをちらりとみて、茉実はショーツを自分に当てながら聞いてきた。
「ねっ、似合っている?」
花蓮がそれをはいているところを想像してしまい思わず目を背けた。
「やめなよ」
「蒼汰君ってこういうのが趣味なの?」
茉実の下着姿なら何度も見ているのにここまでの反応はなかった。顔が赤くなっているのが鏡を見なくても分かる。
それは生地の面積が用途を得ていないほど小さかった。花蓮は翔真のためにその下着を買い揃えたのだろうか、と思うとやるせない。感情を隠すようにぶっきらぼうに答えた。
「別に」
花蓮がもしそれを付けて迫ってきたら――そんなことは絶対にないが——、僕は彼女を縛り付け、動けないようにしてクローゼットにでも押し込むだろう。そうでもしないと頭の回路がショートしてしまいそうだ。それほどそれは危険な武器だ。今目の前にいるのが茉実でよかったと思った。
「そう」
感情のない声でそう答える茉実は下着を元の場所に戻した。
「茉実?」
振り返った彼女は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「私のこともちゃんと見てよ」
ベッドに腰かけている僕の首に腕をかけ、足をまたいで上に座った。
「ちゃんと見て」
と目を潤ませ囁く茉実。柔らかい唇を重ねてきた。
茉実はTシャツを脱ぎ捨て、僕のシャツのボタンを外し始めた。ここは花蓮のベッドだ。こんなことはしてはいけない。それに見つかったら大変なことになる。なんとかして彼女を抑えようとしたが、しまったはずの隠し持っていた花蓮のショーツで手を後ろに縛り上げられた。
「早くしないと、お母さん様子見に来ちゃうよ」
茉実は意地悪そうな笑みを浮かべてそう言った。彼女はこの状況を楽しんでいる。ここで拒否するともっと大胆な行動をとりそうだと思い、僕は諦めてされるがままになった。早く終わってくれと思った。いつも茉実が誘ってきて僕が応えているだけ。
いつか飽きられるだろう。それでもいいと思っていたが、なぜか彼女はますます僕を求めてくる。それが少し苦痛だった。
こんなことを友人に話したら、何で付き合ってんだよと叱咤されたがそれは僕にもわからないことだった。たぶん、茉実じゃなくても誰でもよかったのかもしれない。花蓮を忘れさせてくれるなら。
だが、茉実と肌を重ねるたびに花蓮を思い出していた。彼女もこんな感じでしていたのかなと。そう思うとされている最中、苦痛が少し取れる気がする。
いつも以上に激しい動きを見せる茉実が終わりを迎えようとしている時、部屋がノックされた。
血の気が一気に引いていく。茉実の荒々しい息づかいやらのせいで上がって来る足音に気付かなかった。これにはさすがに彼女も飛び跳ねるように僕から降りて服を着始めた。僕は後ろ手を固定されているため動けない。
「茉実、早くこれを」と手を動かして訴えるが僕のシャツを投げてよこすだけで自分の服を着るのに精いっぱいだった。
「誰かいるの?」
香苗さんじゃない。この声は花蓮の三つ下の妹の
扉がゆっくりと開いた。
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