第9話 誰がために鐘が鳴るのか

今日も元気に登校する。


教室に着くなり、早速、神崎さおりさんとコンタクトをとる。


「おはよう、神崎さん」


「えっ、お、おはようございます。橿原さん、私に何か用ですか?」


「ごめんね、用があるわけじゃないんだけど、只の朝の挨拶だよ。文化部委員会はどうでしたか?何かありました?」


「えっと、顔合わせと年間の予定を教えてもらったくらいですかね。そういえば何人かに橿原さんのことを聞かれました」


「はっ、ってどういうことを聞かれたんです?私なんかやらかしましたかね」


「いえ、男子からは彼氏はいるのかとか、仲はいいのかとかですね。若干、女子にも同じことを聞かれました。あと、先輩女子からは山上の生徒会長とはどういう関係だとかですかね」


「なんか色々すみません。注目されるような人間ではないんですが、なぜか悪目立ちしてる感じですね」


「委員長会議では何かあったんですか?姉がなんか酷く疲れて帰ってきたんですが」


「まさか、お姉さんって山上の会長と仲良くなりたいとかって思ってませんよね?昨日の会議の後で山上の会長に逢わせたので、幻滅してたんじゃないかと思います」


「山上の生徒会長と言えば、姉に以前、聞いた話ですと、生徒のことを大切にする良い生徒会長だと聞いていますが」


「なるほどね、では昨日の山上の会長は神崎会長の想像している人とは別人ですね。自分で言うのもなんですが“橿原瑞希好き好きオーラ”しか出てませんでしたから、言い換えれば只の変態です」


「好き好きオーラって……、そりゃあ橿原さんは魅力的ですけど、あからさますぎますね。橿原さんはそういうのに敏感なんですか?」


「えっ、…ああ、毎日、放課後の学校に押しかけて来るくらいですから敏感じゃなくても察しますよ」


「うんうん、橿原瑞希は押しに弱いと…、(メモメモ)継続は力なりね」

神崎さんはどこからともなくメモ帳を取り出して記帳しだした。


「おはよう瑞希、神崎さん」「美咲、おはよ」「おはようございます樟葉さん」

神崎さんと話していたら美咲が寄ってきた。


「瑞希、神崎さんと親しくなったんだね。何、話してたの?」


「神崎会長と山上の生徒会長の事、美咲も混ざる?」


「神崎会長って神崎さんのお姉さんだよね。神崎、神崎でややこしいからって呼んでいい?私のことは美咲って呼んで」(さすが美咲だ距離の詰め方がうまい、私もいっちょう乗っとくか)


「じゃあ、私も瑞希で、さおりこれからよろしく」と強引に友達認定して連絡先の交換を三人で交わした。心なしかさおりの顔が赤かった。(本当に私に憧れてるのか)



朝のHR前にさおりとの親交を深め、自分の席に戻り美咲と話をする。


「というわけで、学校交流会の前に生徒会同士で親交を深めようってことになったのよ」昨日の放課後の話を大まかに美咲に説明する。


「で、瑞希が生徒会に入るってことなのね」


「いやいや、どういう風に聞けば私が生徒会に入るってなるのよ」


「さっきの話だと、瑞希が中心になって交流会が進行する感じなんだけど、ひょっとして神崎会長にはめられてない?」


「私を生徒会に入れようという話で山上の会長と結託はしたかも」


やはり、生徒会会長、神崎彩月は怖いな、昨日も利用された感は否めない。



お昼休み、天気がいいので、美咲とさおりを連れて中庭に向かう。

今日は運がいいのか、いつも人気の東屋が空いていた。


「珍しいね、ここ、いつも誰かいるのに」と言って三人で椅子に腰を下ろした。

お弁当をひろげ、さあ食べようというところで声を掛けられた。


「橿原さん、私もご一緒していいかしら?」顔を上げると昨日ぶりの美人さん神崎彩月が居た。


「神崎会長、こんにちは。私は別にいいですよ。美咲はいい?さおりは聞くまでもないよね」美咲もさおりも首肯する。

それを見て神崎彩月は空いている席、私の隣に腰を下ろした。


「ありがとう橿原さん。妹と仲良くしてくれているんですね」


「いやいや、こちらこそです。さおりと友達になれてよかったと思ってます」

さおりも神崎彩月に似て美人で頭がいい、前回の世界ではきっと委員長だったはず

(知らんけど)それにしても私の周りには綺麗な人が多い謎だが。


なんせ後から中庭に来た生徒たちは必ず私たちのことを見る。

東屋という特別な空間に居ることは否めないが、それを差し引いてもこの空間は異常だ。美人率が天元突破だ。


「あっそうだ、橿原さん、樟葉さん、私とも連絡先交換していただけないかしら」

神崎彩月がそう言ってスマホを出した。

さおりの手前、断ることは出来ないので、連絡先を交換することにしたが嫌々が顔に出てたようで、さおりが気の毒そうにしていた。

(何かあったら美咲とさおりも巻き込もうと思うと意外と気が楽になったが)


「じゃあ、今日から私も友達ね。瑞希と美咲と呼ぶわ、彩月と呼んでね」

(これ、さっき、私がさおりにした手段だ。意外と彩月さんとは似てるのかな。なんとなく彩月と書いてみずきと呼びそうになる)


「では、彩月さん改めてよろしくお願いします。でも、生徒会には入りませんが」


「フフフ(苦笑い)、よろしくね」不敵な笑みを浮かべる美人さんって、……なんか怖い。


「お姉ちゃんがなんかごめん」(さおりに謝られた、美人なのでなんか許す)


その後、お弁当を食べながら他愛のないことを話す。


4人の中で誰が一番モテるかとか、私の肌がきれいなのは何をしてるかとか、さおりの男性の好みとか、生徒会長をして面白いエピソードとか、もっともっと聞きたいことがあったが残念ながら、お昼休憩終了の鐘が終わりを告げた。


「時間なくて中途半端で終わってしまって消化不良なので今度、女子会を開きましょう。瑞希と美咲を神崎家に招待しますので、お泊り会をしましょう」そう言って彩月さんはこの場を閉めた。(有無を言わさぬ、どうやら決定事項のようだ)



何故か、中庭の東屋が神聖化された昼休みが終わり、午後、最初の授業は移動教室で行われる選択科目の美術だ。


橿原瑞希と樟葉美咲、神崎さおりの三人は一学期は美術を選択していた。

選択科目は三組の生徒が同時に受ける。

美術と音楽と書道の三教科でA、B、Cの三組が3教科に分かれて学習する。

因みに学期ごとに選択教科も変わるので三教科は一年で学習することとなる。


目当ての美少女がいる1年A組に、見た目は真面目そうなお坊ちゃん風、インテリ眼鏡の美術教師、仙賀康彦せんがやすひこ独身26歳は気合いを入れていた。


「今日の美術は、人物画のデッサンを描いてもらいます。ただし、男女でペアになって下さいね。丁度このクラスは男子と女子の割合が17:17なので適当にでも友達同士でも組んでください」突然の提案に瑞希たちは躊躇したが周りの男子はここぞとばかりに瑞希や美咲、さおりといった美少女たちに声をかけ始めた。

「橿原さんモデルになったください」「樟葉さん僕と組んでもらえますか」「神崎さおりさん君に決めた」などなど、三人に集まる男子はアイドルに群がるファンのようになっていた。


「ところで先生このクラスの男女の割合って16:17じゃあないですか」と美咲は冷静に先生に質問した。


「そう、生徒はね、でも僕を入れたら17:17だ」と仙賀康彦はデッサンの参加の意思を示した。


「先生も人物画を描くんですか?余った女子と組むってことですよね」と瑞希は聞いたが仙賀康彦はさも当たり前のように「僕は橿原君と組むよ」と言った。


当然、このクラスの美少女の一角である橿原瑞希を名指しされた男子は大ブーイングだ。

「職権乱用だ」とか「教育委員会に訴えてやる」とか「ロリコン教師」とか騒いでいたが先生の一言「橿原はA組の委員長だからな。このクラスには橿原しか委員長はいないからな」というセリフで強引に男子の抗議をねじ伏せた。


瑞希は委員長と美術の人物画モデルと関係あるのか、と思ったがこの教師の目は何か企んでいる風に見えるので、このまま先生と組むことにした。


美咲とさおりにはメッセージで『なんか怪しいので先生の作戦にのってみるね』と送った。


仙賀康彦は密かに橿原瑞希を狙っていた。

入学式の日、新入生代表をした橿原の凛とした態度、見栄えの良さに一目ぼれしていた。それに加えて担任の亜門咲良から聞く彼女のクラスでの振る舞い、配信動画での正義感、放課後の他校の生徒会長を相手取る公開告白ショー、橿原瑞希の何もかもが仙賀康彦の心を鷲掴みにしていた。


「仙賀先生、デッサンを始めますか」と瑞希に声を掛けられ他のことを思考していた仙賀康彦は我に戻った。


「じゃあ、始めようか。橿原はどういうポーズがいい?俺は描くのが速いから最初はお前の好きなポーズを作れるぞ」と(厭らしく)笑う。(瑞希にはそう見える)


「普通でいいですよ。私、そんなに上手に描けないから、どんなポーズっていうのもないです。それより先生、他の生徒は見なくていいんですか」


「ああ、大丈夫だ。後で絵を見れば大体の授業態度が判るから、それよりお前との時間の方が大事だ」(何言ってんだこの先生、やっぱりヤバい系って事か)キモっ!


終始、厭らしい視線(瑞希にはそう見える)にさらされながら美術の授業を受けたが、幸い人物画のデッサンの授業は今日だけなので授業終了の鐘と共に瑞希の気持ち悪い時間は終わりを迎えた。




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