第8話 ふたりの生徒会長

昨日の学級委員長選抜会議で1年A組、学級委員長 橿原瑞希として生まれ変わった私は、さっそく昨日のうちに委員長として最初の仕事、委員会の委員を決めた。


今日は各学年の学級委員長が集合する委員長会議だ。


急な会議になったのは選考期日ギリギリまで委員を決めなかった1年A組だけだった。


他の委員のみんなも委員会会議があるが選考が遅くなったことを咎めるものは誰もいなかった。



委員長会議だが、まず生徒会長以下、生徒会役員が挨拶をして、3年生から順番に委員長が挨拶をする。所謂、顔合わせというやつだ。


うちの学校の生徒会長は3年生の女子生徒で神崎彩月かんざきさつき、うちのクラスの神崎さおりの姉だ。


二人共、顔立ちがとても綺麗に整っておりサラサラのロングの髪、「可愛い」よりも「綺麗」「かっこいい」といった要素を備えており姉妹そろって美人さんだ。


彼女は入学式で挨拶をしたので顔は知っている。


生徒会の役員は彼女を含めて7名、会長が1名、副会長、会計、書記が2名づつで構成されていた。


委員長は各学年のA組からF組の18名うち男子11名、女子7名という割合だ。


私は生徒会長以外の生徒は全く分らなかったが、私の顔は配信動画の件もあって全員が知っていた。(美咲の言ってた学園の有名人って話だ。会長より知名度が高いかも)


今回の会議は自己紹介と年間行事の報告、それだけで終わりだと思っていた。


「橿原瑞希さんちょっといいですか?」と解散する前に、生徒会長 神崎彩月さんに声をかけられた。


「何ですか?神崎会長」と返したものの今、会長に声をかけられるのは、ろくな事じゃないと思う。


「橿原さんは山上実業高等学校の生徒会長さんと仲がいいのかしら?」(放課後の公開告白のことか)


「いえ、全く仲良くありません。仲良くなりたくもありませんが」と完全否定した。


「そう、(少し残念そうな顔)知り合いだったら今度、学校交流会を開こうという企画が上がってるんだけど声をかけるきっかけをいただけたらと思いましてね」


「そんなことでしたら毎日放課後に校門のところに来てますから、いくらでも声をかければいいと思いますよ。神崎会長は美人なので、鼻の下を伸ばして喜ぶと思います。言葉フェチの変態なので」と軽くディスる。


「私が聞いてる山上実業高等学校の生徒会長さんの印象と随分違いますね」


「さあ、どちらが本当の姿なんでしょうね。私の友達もそんなこと言ってました」


「やはり、橿原さんは仲がいいんじゃないですか。では、放課後、私と一緒に山上実業高等学校の生徒会長さんに会いに行ってくれませんか?」(何をどう受け止めれば仲良しになるの)


「仲良くはありませんが、一緒に行くぐらいは良いですよ」


「それではお願いします。それと私の妹とも仲良くしてあげてくださいね。あなたに憧れているっぽいので」(神崎さおりさんが私に憧れている?そんな風には見えないんだが、神崎会長の勘違いでしょ)


「解りました。さおりさんに今度、声をかけてみます。でも私は憧れられる存在ではないんで、神崎会長の勘違いだと思いますが」


「うちでは、橿原さんが何をしたって話題が良く上がるんですよ。だから、今日の委員長会議は橿原さんに逢えることが楽しみでしたから」


「今日のって私、昨日委員長になったばかりですが」


「妹の中では橿原さんは入学式の時から委員長でしたから、必ず今日の委員長会議は橿原瑞希委員長として出席するって言ってましたよ」(また、美咲の言う通りか。美咲が推薦しなくても神崎さおりさんが私を推薦してただろう)




放課後の校門前、やはりというか恒例のように山上実業高等学校の生徒会長、墨田麻生がいた。


天成学園の生徒会長、神崎彩月さんを連れて山上実業高等学校の生徒会長のもとに向う。


「こんにちは、橿原さん。そちらの綺麗な「うちの生徒会の神崎会長です」だ、また先に言う、最近、私の言動を邪魔することを楽しんでませんか?」


「いえ、綺麗と言った時点で長くなりそうだったので」(確かにセリフを遮ることを楽しんでいるが)


「初めまして、山上実業高等学校の生徒会長、墨田さん。私は天成学園生徒会会長、神崎彩月と申します。以後、お見知りおきを」


「初めまして、神崎彩月さん、私に何か御用ですか?まさか、橿原さんとの「違います」…また邪魔をする。でもあえて言おう。橿原瑞希さんとの束の間の逢瀬を邪魔するというのですか」(遮ったのに言い切りやがった)


「誰と誰の逢瀬ですか。あえて言う必要さえ分かりませんから」


「橿原さん、あなたの言っていたことが分かった気がします。私の認識が間違っていました」神崎会長は私に謝罪した。


「逢瀬の邪魔をしに来たわけではないんですね。では、何用ですか?」


「(残念なものを見る目で)いえ、墨田会長。今度、うちの高校と山上実業高等学校で交流会をしませんかという提案なんです」


「それは願ってもない提案ですね。今は少し時期が良くないですが、いずれ交流会を行いましょう。と言っても私の一存で決めることではないので持ち帰りますが」


「ええそうですね。うちもまだ企画段階ですので、いずれまたそちらの高校にお邪魔したいと思います」


「ところで、橿原さんは生徒会に入られたんですか?」


「いえ、私は学級委員です。生徒会に入る予定もないですし」


「そうですか残念です。生徒会同士でしたら、いずれ本当の私を見ていただけると思っていたのですが」(いやいや明らかに今のあなたが本当の姿だと思いますよ。勘違いしてますよぉ~)


「神崎会長、それでは私は帰ります。あとは、生徒会のお若い方同士でお話しください」いそいそと、その場から退散する。が、がしっと神崎彩月が肩を掴んできた。


「カシハラサン、コノジョウキョウデカエレルトデモ(橿原さん、この状況で帰れるとでも)」と私にだけ聞こえるように話す。


「ええ、問題ないかと」「待って下さい。私と彼を一対一にするつもりですか?」

「そのつもりですけど」「いやいやいや、今の墨田会長は明らかにヘンタイデス」最後のほう聞こえませんでしたが。


「何を二人で話してるんですか?」


「あ、えっと橿原さんを生徒会に勧誘しようと思って……、ね、橿原さん」

「何を言ってるんですか。私が入って何をするんですか。今の話の流れ的に私が生徒会に入ったら墨田会長が喜ぶだけですよ」(苦し紛れに何を言っているのか、この会長は、意外と変態態勢が低いようだ)


「名案ですね。私も推薦しますよ。他校の生徒会会長の推薦なんてそうないと思いますよ」(まったくうれしくないのだが)


「私の意見は聞かずに、また話を進める。神崎会長も止めてくださいよ」一応、念を押しておくが、この会長は生徒会に引き込みかねないなと思った。


「橿原さんの生徒会入りは置いとくとして、互いの生徒会の交流会を学校交流の前にでもしますか。それくらいの事を決める権限ならありますから」と墨田麻生は提案してきた。


「そうですね。生徒会同士が交流をした後で学校交流会を決めるのもいいですね。では、日を改めましょう。連絡先は橿原さんに聞けばわかりますね」


「神崎会長、笑えない冗談はしてください。どういう経緯で山上実業の生徒会長の連絡先を知るというんですか」


「普通に仲が良さそうなのでお互い連絡先を交換した仲かと思ってましたが」


「そうですね。神崎会長もそう言ってますし「嫌です」連絡先交換しますか?」今度は無視して言い切ったか。


「会長同士で交換すればいいじゃないですか、なんで私を間に挟もうとするんですか、…伝言ゲームですか、わざと間違った伝言しますよ。やっぱり、私、帰ります。失礼します」と言ってプンプン怒りながら帰って行った。




家に帰ると、妹の要が帰っていて、リビングで寛いでいた。


「お姉ちゃんお帰り。なんか機嫌悪そうだけどなんかあった?」


冷蔵庫からお茶を出して飲もうとしていたら声を掛けてきた。


「なんでわかるの、顔に出てた?」


「解るよ。姉妹だもん、お姉ちゃんのことは一番近くで見てるからさ、なんか悩み事あったら聞くよ」(どっちが姉何だか。しっかりした妹を持つと姉の立場がない)


「ありがとう、要も悩み事あったら言ってね。にできることは何でもするから」お姉ちゃんを強調してみた。


「いいの?あのね、最近、よく告白されるんだけど、どうしたらいいと思う」


「おお、恋愛相談か、…たぶんね、3年生になったからあと一年で卒業でしょ、思い出作り的な彼女が欲しいんだと思うけど、要が嫌なら断ればいいと思うし真剣に付き合いたい子が居るんならお姉ちゃんは応援するよ」


「お姉ちゃんは告白とかされないの?天成学園で最近、放課後、公開告白ショーが開催されてるって中学でも噂だけどお姉ちゃん知ってる?私も見てみたいんだけど、中学生でも見れるのかな?見た人の妹が面白いって言ってた」(当事者にそれ聞く、困ったな、それ私だよって言っていいのか。でも、妹に嘘ついてもしょうがないし嘘はつきたくない)


「…要、…それ、お姉ちゃんだったらどうする?」恐る恐る聞いてみたが

「お姉ちゃんなんだ」すぐに見破られた。


「いやいや、お姉ちゃんだったらどうするって聞いたんだけど」


「だけど、お姉ちゃんなんでしょ、わかるよ。やっぱり、お姉ちゃんは面白いね。そうやって自分を見せて、みんなを喜ばせてるんでしょ。私の自慢の姉だよ」


「見せたくって見せてるわけじゃないんだけど、いつの間にかそうなったていうか、そういう風に持っていかれたというか」そこではっとした。そうかあの茶番は山上実業の会長が仕向けたんだ。


守ってくれているかもという昨日の考察と公開告白ショーの真意、やっぱり山上実業高等学校の生徒会会長、墨田麻生に聞くしかないか。


私は“はぁ~”と溜息を吐いた。

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