第7話 不可解と不文律

やはり、美咲と一緒にいるのは楽しい。


男だった時(前回の中学時代)に好きだった女の子、樟葉美咲。


今の私、橿原瑞希の一番の友達で何もかも許せる親友。


そんな親友がこともあろうか委員長に私を推薦してきた。


そう、先週のホームルームの時間から一週間、係委員を決めるという課題に、クラス全員が取り組む中、酸いも甘いも知っている大親友から名指しで委員長に指名されるという裏切りに絶望していた。


「では、委員長は橿原瑞希さんで決定します。それでは橿原さんここからはあなたに進行をお願いするわね」と言って担任の亜門先生は自分の席に座ってしまった。


しょうがないので壇上に向い、樟葉美咲をひとにらみしてから挨拶した。


「でわ、先生に代わりまして、進行させていただきます橿原瑞希です。学級委員長という大役を任されましたので、ここからは私の思うようにやらせてもらいますから、私を選んだこと今更、後悔しないでくださいね(ウフッ)」と不敵な笑みを浮かべる。


そこからは副委員長を決め、各委員を決めるためにスムーズに進行していくという流れだが、私の独断で、副委員長を樟葉美咲に決めた。


他の生徒からは「副委員長は男子生徒から選んだ方がいいと思います」と言われたがそんな意見なんてすべて無視の方向で、(これからは独裁者としてわがままに生きてやる)


委員の決め方も簡単で美咲が壇上に上がり黒盤に委員名を書き私が指名していくという流れにもっていく「選考基準は私です。私がこの人ならできると思った方にお願いしたいと思います。異議のある方は申し出てください」と言うと前の方の男子が「その決め方だと先週の誰がいいのか知らないで決めるのと変わらないと思います」と言った。

瑞希は、先週の話し合いで決めた一週間の人間観察を誰かに言わせようとしていた。

「はい、いい意見ですね。佐々木君。では、あなたはこの一週間クラスで見てきた人で、誰をどの委員に推薦しますか?」

佐々木と呼ばれた男子生徒はまさか瑞希に自分の名前を呼ばれるとは思ってなかったので少し顔を強張らせ「文化部委員に神崎さおりさんを推薦します」と言った。

「神崎さん、佐々木君からの推薦ですがどうしますか?」

「解りました。文化部委員をうけたいと思います」

「異議のある方はいますか?……では神崎さおりさんに文化部委員をお願い致します。神崎さん。あなたは誰をどの委員に推薦しますか?」

「そうですね。推薦してきた佐々木健也君を美化委員に推薦します」

「佐々木君、美化委員の推薦を受けますか?」

「推薦を受けます」「異議のある方はいますか?……では、佐々木君、もう一度、誰をどの委員に推薦しますか」という風に推薦者と推薦人を交互に振っていきなんの問題もなく委員の名簿が埋まった。


橿原瑞希の手腕には担任の亜門咲良も驚いていた。


ちなみにA組の生徒は34名、委員は22名で委員以外は12名となる。


日直当番は1日2名、委員以外の人は12名なのでHR担当として12日周期で回し、委員は22名なので副担当として22日周期で回すと学級委員長の瑞希が決めたことで、全員が何らかの役を受けるため、委員に選ばれたからといって誰かを恨むことはなかった。


最初に瑞希が提案した。一週間の人間観察、推薦された人が推薦していくというシステムはA組の団結力を高めるものとなった。




一日の授業が終わり、みんなが帰り支度をする中、瑞希は美咲に学級委員長推薦の経緯を追及していた。(一番、根に持っていたのは瑞希本人だったりする)

「さて、美咲さん。私を委員長に推薦した理由をおしえてくれるかな?」

「(ニコっと微笑み)そんなの決まってるよ。私が瑞希を推薦しなくても誰かが瑞希を推薦したでしょ、他の誰かがあなたを推薦したら、あなたの事だから推薦した人を副委員長にしたはず………」と言って美咲は俯いてごにょごにょ、顔を真っ赤にした。


「はいはい、そういう事ね。ごにょごにょのところもなんとなく解るからいいわ、許してあげる。とにかく、1年間、学級委員としてよろしくね」と顔を見合わせ、美咲の両側の頬に手を当て、美咲の顔で、変顔を作りながら挨拶をした。(変顔もかわいい)




最近、恒例の放課後 校門前、公開告白ショーだが、やはりというか予告通り

山上実業高等学校の生徒会長、墨田麻生が待っていた。大勢の見学者と共に。


「こんにちは、橿原瑞希さん。今日は金曜日の返事を聞きに来たわけではございません。実は、勉強会をするという噂を聞きまして「お断りします」なっ、最後まで聞いてくださいよ」また、ミジンコ以下さんのセリフを遮った。

「ミジンコ以下の山上実業高等学校の生徒会長、墨田麻生さん。私たちはの試験勉強をしようと考えてます。ミジンコ以下さんはではないですよね」

「確かにではないですが、山上実業高等学校の生徒に教えることは出来ますよ。いい提案でしょ。それに生徒同士の勉強会なんて橿原瑞希さんと交流を深めるチャンスじゃないですか。そんなイベントを僕が見逃すとでも、それと、大竹亜沙美さんと伏見聖羅さんには許可を頂いてますのでご心配なく」(外堀を埋めてきたか)

「解りました。彼女たちが良いというのなら仕方ありませんね。私は企画しただけですので、では、日程等は大竹さんか伏見さんに聞いてください。それでは、失礼します」冷たく言い放ち、樟葉美咲と手をつなぎ帰路に就いた。



美咲のタワーマンションの入り口まで来たら、見覚えのある男女が言い争いをしていた。大竹亜沙美と巣鴨智久だ。

見過ごすわけにもいかないので、近づいて行き二人に挨拶をすることにした。

「亜沙美、どうかした?」二人、一斉にこちらを見た。

「み、瑞希と美咲。…と、巣鴨君が勉強会、嫌だって言うんだよ」

「巣鴨君、挨拶をするのは初めてだよね。橿原瑞希です。こっちは樟葉美咲。私たちも勉強会、参加するんだけど巣鴨君もどうかな?」と巣鴨智久を美咲と二人で見つめながら笑顔で勉強会に誘うと「えっと、それじゃあ参加しようかな」と目を泳がせながらだが、あっさりと了承した。(美少女×2+笑顔=最強)

「私が誘っても嫌がってたのに何で瑞希が誘うとOKするのよ」と亜沙美を怒らせてしまったので巣鴨智久は慌てて帰って行った。


「ところで、亜沙美さん、君の学校の生徒会長も参加することになってるんですが、どうしてかな?」怒っていた亜沙美が今度は顔を伏せ小声で言った。

「ジツハフシミセイラガカイチョウノコトガスキナンデス(実は伏見聖羅が会長のことが好きなんです)」

であっさり会長に懐柔されたという事ですか。

「やはりあの男は危険ですね。どうにかして瑞希に近づこうとしてきますね。ツブシテオカナイト」(美咲さん小声で怖いこと言いませんでした)

「では、ミジンコ会長は伏見さんに任せましょう」

「ミジンコ会長?」亜沙美は不思議そうな顔をした。

「あっ、ミジンコ以下会長です」(間違いを訂正)

「えっ、瑞希は墨田会長をミジンコ以下と言ってるんですか。山上の生徒が聞いたら殺されますよ。特に女子生徒に」亜沙美の言葉に驚いて

「前に人気があるとは聞いてましたが、そんなに人気なんですか、只の“言葉フェチ”かと思ってましたよ」(私の前でかっこいいところなんて一度も見せてないのだが学校内と外では違うってことかな)


「墨田会長は“言葉フェチ”かどうかはわかりませんけど、この前の件でもそうですが、生徒の話を聞いてくれて、色々気配りができる人ですね。良い生徒会長だとは思いますよ」褒めてはいるが亜沙美の言葉は何故かシックリこなかった。


「マンションの入り口で立ち話もなんだから、また家にでも寄っていく?」

美咲にそう聞かれたが、気になることがあったので、今日は帰ることにした。



自宅に戻って部屋で着替えた後、少し考えた。


山上実業の生徒会長墨田の話では柔道部の三人組は私に恨みがあると言っていた。

しかし、今のところ何もしてこない。

前回の世界では女子生徒を襲ったほどの男たちがなぜ?という疑問。


毎日、私に会いに来る会長も何か引っかかる。

無理に会いに来る理由を作っているように感じる。

今日がそうだ、金曜日の返事を先延ばしにしてどうでもいい勉強会の参加の話を持ってきた。

大体、わざわざ会いに来て少し会話するだけっていうのは効率が悪い。


そう思いながら可能性を考えた。


例えば、もうすでに三人組との話は決着がついている。

停学処分を受けて反省している。

NOだ、ありえない。


生徒会長が亜沙美の言うような人間だとしたら、毎日来るのは生徒会長が私を三人組から、守ってくれている。

(ボディーガードの提案はすでに実行している?)

そちらの方があり得る。

少しの会話っていうのも私が嫌がらない程度にか。


そう考えると生徒会長をミジンコ以下と言っている自分がすごく嫌な人間に思える。


少し、見直してやってもいいかもしれない。(それでも上から目線)



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