第6話 日曜日の使者

昨日の女子会は日付が変わるまで行われ、同じマンションの亜沙美は普通に帰ったが、駅向こうの住宅地に住む私は、お父さんに迎えに来てもらった。


父と娘で自宅まで歩きながら話をする。


前の世界で親父とこんな風に話したことがなかった私は、女子になってよかったと思った。



このま~ま どこか遠~く 連れて~って くれないか~

君は~ 君こそは~ 日曜~日 よりの~使者♪


突然父が歌いだした。


「ごめんね、お父さん。遊び過ぎて迷惑かけちゃって」

「娘が迷惑なんて気にするな。俺は、お前を安全に連れて帰るために送られてきた使者なんだから」

「お母さんに言われてきたの?」

「ハハハ、そういうことだ。だから気にするな」


それでも、お父さんはまだお風呂に入ってないのか、いつも使っている香水のにおいがした。

(何も言わないけど心配させちゃったな)


「こういう時、彼氏が居たら便利なのにね」ちょっと皮肉を込めて言うと

「男を物の様に扱うな!痛い目に合うのはお前なんだぞ」と怒られた。


「私にさ、恋人が出来たらお父さんどうする?」

「はぁ~、お前に恋人なんて出来るわけないだろ。男勝りの性格してるのに」

「でも、私、結構、人気あるんだよ。すぐに彼氏できるかも」

「その時はその時だ、それでもお前は、俺の大事な娘だから…」そう言うとお父さんは黙って私より速いペースで歩き出した。


家に着くなり、お母さんからお小言を頂いたのは言うまでもない。




結局、午前二時ごろまで起きていたせいで今朝起きたのは十時を回っていた。

生活パターンがずれたことで昼までダラダラしてたらお昼ご飯の担当になったため。

早速、昨日買った本を取り出し“ギンチボクムバ”という韓国のキムチチャーハンを作ることにした。(丁度、冷蔵庫にキムチがあったからなんだけど)


【瑞希特製“ギンチボクムバ”】一人前の材料は 白菜のキムチ 50g~100g(お好みで)、 キムチの汁 大さじ3、 温かいご飯 茶碗1杯、 豚バラ肉 3枚、 長ネギ 1/3本、 卵 1個

作り方なんだけど、長ネギと豚ばら肉は細かく切ります。

フライパンに長ネギと豚ばら肉を炒めます。(豚のばら肉の代わりにハムやツナを入れても美味しいです)

豚肉に火が通ったらキムチとキムチの汁を入れてさらに炒めます。(ご飯を入れる前にキムチを汁と一緒に炒める事でこくが有るチャーハンに仕上がります)

キムチの汁が無くなったら温かいご飯を入れよく解しながら炒めます。

ご飯がしっかり混ざったら皿に盛り付けて、目玉焼きを半熟に焼いて上にのせれば出来上がり。(どう、簡単でしょ♡)


家族分のギンチボクムバを皿に盛り付け、わかめのスープを入れ、みんなで食卓を囲んでいただきますと言って食べた。(我ながら上出来)みんな美味しいと言ってくれた。


一応、お昼ご飯の当番なので食器洗いから、かたずけまですべて済ませた。


今日はこれといった用事もないし、昨日は遅くまで女子会で盛り上がったので大人しく家でダラダラするのも悪くないかなと考えていた。


自分の部屋に戻り、自分の顔を鏡で見る。

紛れもない美少女がそこに居る。

(う~ん、なんでこんな事になったんだろ、元の世界の私はどうなったんだろ)

それにしてもこの世界は微妙に違う。


私がかかわった人の人生を変えているような気がする。


身近な存在で言えば両親、前の世界も共働きだったが、もっとあくせく働いていたような気がする。

今は二人とも会社では偉い立場の人の様で生活もかなり余裕がある。

なんせ車が軽自動車だったのがレクサスになっていた。


次に妹のかなめだが、中学校でも成績がトップで高校は超有名進学校に行けるレベルなのに私と同じ天成学園に進むらしい。

前は、山上実業高等学校に通っていたので成績で言うと並から特上に上がったくらいの違いがある。


それから、樟葉美咲は前も天成学園に通っていたが私との関りはなく当然、中学も友達ではなかった、今は親友で一番の理解者だ。

それに、前はあったこともなかった美咲の両親だが、今は世間話をするほど仲がいい、娘の美咲以上に可愛がってくれる。


大竹亜沙美は前の世界では、多分自殺している。

思い出した記憶だがゲームセンターの暴行事件の後、襲われた女子生徒のうちの一人はマンションの踊り場から投身自殺している。

伏見聖羅はそんなタイプに見えないので亜沙美が自殺した女子生徒だと思う。

大竹先生はというか娘を亡くした父親は、あのゲームセンターで暴行事件の犯人、男子学生三人に殺人未遂事件を起こして逮捕された。

その後、悲劇の起こったゲームセンターは閉鎖になったのだと思う。


田邊浩輔は、前の世界では、私の予想だが美咲の彼氏、サッカー部のイケメンだろう。今はなぜか私に告白してきた。


告白と言えば墨田麻生、前の世界では全くかかわりがなく、今も山上実業高等学校の生徒会長ってくらいの情報、亜沙美が言うには学校内では結構人気があるそうだが関わりあいたいとは思わない。


前の親友でこちらの世界に来る前も交流があった巣鴨智久だが、今は亜沙美の好きな人ってくらいしか情報がない。ゲームセンターの時以来、見掛けてすらいない。

勉強会で会うのが楽しみではある。


私、橿原瑞希は前世では家の近くのコンビニで雇われ店長として働く26歳独身男性で彼女いない歴26年の冴えないおっさんだった。

この世界では、天成学園高等部、1年A組で学ぶ15歳の美少女JK。

美咲曰くいわく“無自覚な人たらし”らしい。


思い出した前回の高校1年の時の記憶と今回、関わった人たちの変化、一番変わったのは私を含む私の家族だが、もし亜沙美が自殺した女の子だとしたら救えたことが、私が女子高生になった、この一週間の最大の成果だろう。








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