第3話 美少女Mは振り向かない

…………眠い。


結局、美咲とのメッセージのやり取りを夜中の2時ごろまでしてしまった為、お肌の天敵、寝不足となってしまった。



午前中の授業は全く頭に入ってこないまま時間が過ぎた。


昼休憩の時間に中庭のベンチでお弁当を食べることにして、その後は少し仮眠を取ろうかと考えていたが、中庭に来てベンチどころか芝生の上も空いていないという現実に予定が狂った為、思考能力が低下した私は、校庭のベンチのありそうなところを彷徨うという愚行をしてしまった。


やっと見つけたのが裏庭のベンチだが、ここは日陰者が屯するいわば無法地帯。

(とりあえずここで昼ご飯を食べよう)思考能力の低下した私はそう考えた。


ベンチに座りお弁当を広げたところでワイワイと賑やかしい声が聞こえてきた。


反射的にベンチの後ろの植え込みのところに身を隠した。


「お前、1年だろ橿原瑞希って知ってる?可愛いよな」(私の噂話か)


「俺、金蹴り動画、何回も見てるぜ。俺も守られたい!!」(こいつが視聴数伸ばしてるのか)


「なぁなぁ、1年、橿原の写メとか無いの?俺、金出してもいいから撮ってきてくれよエロいんだったら一万出してもいい」(エロいって何?)


「先輩、がっつき過ぎですよ。俺らそのうち落とそうと思ってますから楽しみにしてください」(自称イケメン君が自信満々に何を言ってるのかな、私があんたに落とされる訳ないじゃん)


「そうそう、こいつが本気出したらイチコロだって」(ほう、大した自身だね、って他人事ひとごとだよね)


「じゃあ、誰が橿原瑞希を落とすか勝負すっか。エロ動画撮ったもんが勝ちな」

(どんだけ私のエロ動画見たいんだよ。スケベが)


「そんな事でいいんすか。俺の勝ちっすね。同学年だから機会も多そうですし、中学の時から俺モテてましたから自信あるんすよ。すぐに向こうから寄ってきますよ」

(誰か知らないけどこいつ絶対小物だ。す、す、言ってるもん。でも、このまま隠れてたらお昼ご飯食べる時間無くなっちゃうな、しょうがない出て行くか)


植え込みから姿を現した私を見て、同級生の自称イケメン君とその友達(二人共、名前を知らない同級生なのも疑問なのだが)と先輩3人は一斉に私を見て固まった。


「なんで橿原瑞希がこんなところに居るんだよ」と自称イケメン(いや待てよ私が勝手に自称イケメン言ってるだけだわ、実際は変態小物野郎かな)


「君、すぐに向こうから寄ってくるって言ってたよね来てやったけど、勝手に人の話で盛り上がってんじゃねえよ変態、で、私のエロ動画ってどうやって撮るの?ここでプレゼンしてみてよ評価してやるから」と挑発してにらみつけると5人全員股間を抑えて直立していた。(金蹴りを警戒しているのか)


「おいっ、そこ写メ撮るんじゃない。金、取るぞ」(私は安くないんだよ)

もう一人の同級生?に注意すると「ごめんなさい。お金払いますので…金玉取らないでぇ~」(金蹴りから金取りに代わってるよ。何なら私が金〇取られたっての。今、気付いたわ、三日も経てばすっかり思考も女子になってしまったのか、思考の中の一人称が俺から私になってるな)


「プレゼンしないならどっかに行ってほしいんだけど。お昼ごはん食べたいから」と言って再びベンチに腰掛けた。


まだ、5人は口々に「橿原瑞希ってこんな女子なのか」「俺のイメージが…」とか言っていたが私に対する印象が変わろうがそんなことはどうでいい。

それより股間を抑えて私の前に居ること自体が不愉快なんだがとか考えていたら、突然、何を思ったか自称同級生イケメンもどき変態小物野郎(長いな)が「橿原瑞希さん、あなたに惚れました。付き合ってください」と言ってきた。


残りの4人は急に告白してきた同級生らしいイケメンもどきに注目した。

(全員が鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているそれにどこに惚れる要素があった)


「ほう、君のプレゼンは告白か」(それより他の4人の反応も面白いな)


他の4人も慌てて、「俺も君に惚れた」「彼女になってほしい」「俺が絶対幸せにする」「退屈させない自信がある付き合ってください」とか言ってきた。

何をとち狂ったのか、いつの間にか告白タイムになっている。


(だから、どこに惚れる要素があるのか集団告白って、何考えてんだかこいつら)


あまりに訳の分からない行動に、頭抱えて考える振りをしてから

「ごめんなさい。変態と付き合う趣味はないんで」と返した。


あからさまに5人全員がショックを受けていたが、そもそも付き合えると思っていたのかと思うと頭が痛くなってきた。(きっと寝不足のせいだ)


「あのさぁ~、集団告白って一番断られる確率高いと思うよ。…評価するって言った以上、無下にする気はないけど、今度告白するときは成功率を上げるため、せめて普通に話せる相手になることが大事だと思うよ。私、君らの名前も知らないからね。気に入った子が居たら、まずは知り合いになりなよ。知らない人からの告白なんて恐怖以外の何物でもないから。自分自身のアピールも大事だから普段から自分磨きを忘れないように長所をのばすこと、ちなみに私は君たちみたいな頭の中ピンク一色の男は無理なので他を当たってください。以上」瑞希の恋愛講座みたいなのをしてたら昼休憩が終わった。(結局、お昼食べそこなってしまった)



午後一の授業が終わって授業間休憩の時間、昼休憩の時に食べ損ねたお弁当を食べようと思ったらイケメンもどき以下略が近づいてきた。


「あの~、橿原さん。とりあえず友達になってもらえませんか?」

恐る恐るそんなことを言ってきたが

「お昼の話では私のこと落とすって言ったよね。それに、とりあえず友達って君の友達ってそんなに軽いものなんだね。あと名前、未だに名乗ってないでしょ君、誰?」

またまた昼ご飯を邪魔された為、かなりきつい口調で言ってしまった。


「あっ、お、俺、C組の田邊浩輔たなべこうすけです。長所は小さい時からサッカー得意なんで高校でも結構いいところまで行けると思います。少しづつでもいいんで俺のこと知ってもらえればと思います。よろしくお願いします」

「ふ~~ん」と全く興味なさげに返事をする。


そこで前の高校時代の記憶が思い出された。


サッカー部のエースでイケメンって樟葉美咲の彼氏がそんな人物だったような気がする高校が違ったので噂しか知らないけど、多分こいつがそうだろう。

なんで私に声かけてんだろ。


こちらの方を見て美咲を見てる風でもなかったので試しに美咲を呼んでみた。


「美咲、ちょっといい?」田邊の方をちらっと見て私の方に寄ってきた。


「瑞希、何?」田邊も美咲を見ている風だが気になっている様子はない。



「帰りに美咲の家に行っていい?お弁当食べ損なっちゃったんで美咲の家で食べていい?あと昨日の話の続きしよ」


「いいよ、瑞希が来るとお母さんもお父さんも喜ぶんだ」


「なんで喜ぶのか、この際聞かないけど歓迎されてるってことでプラスにとらえるわ」


「じゃあ今日も一緒に帰ろう」


「ごめんね。お弁当残すと母さんたちが心配するんだ。なんせ可愛い娘なんで(てへっ!)」って美咲に最高の笑顔を送る。


「わかるぅ~。それでさ瑞希………」と美咲との話に夢中になって何か忘れていることをすっかり忘れてしまっていた。(さっきまで何かいたような気がするが)


美咲との話に夢中になっていると隣にいた何かがスゥ~~と教室から出て行った気がした。



「じゃあ、美咲また帰りね」「OK」と会話を交わし、美咲は自分の席に戻って行った。



授業が終わり放課後、美咲と一緒に帰る途中またまた、校門のところで昨日の山上実業高等学校の生徒会長の墨田麻生が今日は一人で待ち伏せしていた。(芸能人の出待ちか何かか)


「橿原さん、昨日は忙しいところ有り難うございました。あの後、2人を連れて被害者の家に謝罪に行ってきました。それで向こうの両親も橿原さんに御礼がしたいということで僕が伝言を伝えに来ました。もし、良かったら、これから被害者の家に一緒に行きませんか?」(生徒会長というものは本当に暇なのか)


「御礼をしてもらいに行くという行動の意味が解らないので結構です。それに、と一緒に行く意味も解らない。私はこれから用事がありますので失礼します」と強い口調で断りを入れ、その場を後にしようとしたが、また山上実業高等学校の生徒会長の墨田麻生に引き留められた。


「僕は橿原さんを連れて来るって向こうの両親と約束しました。これは僕らの謝罪の一つだと考えています。なので…出来たら一緒に来ていただけたらと提案しています。時間は取らせませんのでお願いできますか?」


「私があなたと一緒に行くことが謝罪だと、それだと無理やり私を連れて行こうとした3人組と変わりませんね」


「なっ、…なるほどそう言われると痛いですね。行きたくないあなたを連れていくことは諦めます。でわ、正直に言います。僕があなたに興味があるので話がしたいと言えば付き合ってもらえますか?」


「今度は斜め上からの提案ですね。私はあなたに全く、全然、ミジンコほども興味がありませんので諦めてください」


「僕がミジンコ以下だという事ですか流石にそれは傷つきます」


「ええ、私はあなたよりミジンコのほうが興味ありますね」


「今日のところは帰ります。でも必ず橿原瑞希さんに興味を持ってもらえるよう努力したいと思います。その時はデートして下さい。でわ、また来ます。さようなら」


そう言って山上実業高等学校の生徒会長、墨田麻生は去って行った。



足早に美咲の家まで帰ってきた私は美咲のお父さんとお母さんと話しながら、お弁当を完食した後、美咲の部屋で話し込んでいた。



「お父さんとお母さんの話し相手ありがとね」


「こちらこそありがとうだよ、お父さんとお母さんとずっと一緒に居て、いいなぁ~って、いつも思うよ」


美咲の両親は服飾や空間デザインの仕事をしているので大体、家にいる。


このタワーマンションも元々はデザイン事務所として購入したのだが、美咲が天成学園に合格した為、家族でこちらに引っ越してきたらしい。


「それより、山上の生徒会長、今日もブレずにブレまくってたね。最初の話だと被害者宅に一緒に行ってくれって事だったのに最後は瑞希とデートしたいって下心駄々洩れだったね。ミジンコ以下から、どうやって努力するんだろ」と楽しそうに美咲は話すが、こちらとしては絡まれるだけうざいんだけど。


「他人事だと思って…、私、あの生徒会長に好かれるようなこと何一つしてないんだけど、むしろ辛辣な言葉しか言ってない気がするんだけどな、あの生徒会長はドMなんだろうか」


「瑞希は自覚がないかもだけど、あなたには人を惹きつける魅力があると思うの、入学式でのこともそうだけど、今日のC組の男子や生徒会長もそう、昼休みも告白されたんでしょ。たぶん無自覚に人を垂らしめているんだと思うよ」


「人たらしって、私そんなつもりないんだけどな。でも、私の一番近くで見ている美咲がそう感じるんだったらそうかもしれないな。今度から気を付けるよ」


「気を付けるのは多分無理だと思うよ。さっきも言ったけど無自覚なんだから」


「あはは、そだね。私も無理っぽい。意識してない分、厄介だものね」


「そうそう、色々含めて瑞希なんだから、今まで通りでいいと思うよ。来週の係委員を決める会では間違いなく委員長でしょうし、何なら生徒会の勧誘とかもありそうだね。ウッシッシ」(変なフラグが立った気がする)


「今、変なワードが聞こえた気がしたのだが、生徒会とは何ぞや」


「そのままだけど、天成学園生徒会。我が学園のエリート集団なり~~。なんちゃって、しばらく先の話だけどね。うちの学園は6月ごろ生徒会の選挙があるみたいよ」


「へぇ~、一年には関係なさそうだけど」


「それがそうでもなくてね、会長選挙で会長が決まるでしょ。残りの役員は会長の指名らしいの、それも余程の理由がないと断れないのよ。そういう伝統なのね。だから一年でも生徒会役員に選ばれる。そういうことで目立つ瑞希は生徒会役員に一番近い一年生だね」


「まさかと思うけど褒めてます?美咲さん。それともからかってます?どちらにせよどうすれば回避できるかな。私あまり目立ちたくないんだけど」


「無理だと思うよ。昨日も今日も校門前で目立ってたし、入学式なんか生徒代表だしね、おまけに金蹴り動画で知らない生徒がいない程有名人だもの、今更目立ちたくないなんて無理に決まってるじゃん。逆に生徒会側からしたら有名人を生徒会に引き込むことで生徒会の威厳やら名声やらが維持できてメリットしかない感じだもの、私が生徒会長だったら間違いなく瑞希を役員にするわ」


「回避が無理な感じなら、いっそ生徒会長に立候補してやろうかしら、それであっけなく敗退して生徒会入りは見送り、めでたしめでたし、っていう筋書きはどう?」


「それ面白そうだけど、今の発言で生徒会長になった瑞希のヴィジョンが見えたわ。

おめでとう。天成学園生徒会長橿原瑞希様」


「じゃあ美咲を生徒会役員に指名するからね」


そんな近い未来の話を面白おかしくしていたらすっかり本題を忘れてしまった。


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