第12話2024年9月

 目覚めると、椅子に足を組んで座る京一と真っ直ぐ目が合った。アレックスは立ち上がろうとして、椅子に体を拘束されていることに気づく。猿ぐつわまで。できるだけ顔をあげて、高圧的に京一を睨む。

「アレックス、君には感謝しているんだ。あの震災の日、僕に言ってくれたことも。僕は致命的に一般社会とそりが合わなくてね、ずっと相容れない違和感を感じていた。ここに来るまでのことは全部他人が決めたことに従っただけだ。仕事も、結婚もね。だけど君と会って、なぜか救われた気がした。なぜだろう、君が安楽死にきた顧客をたまにこっそり連れ出して自分好みに殺すときも、はたまた希望通りに穏やかに逝かせるときも、やっぱりやめたいと言った人を、そっと帰してやるときも、見ていて美しいと思ってしまったんだ。いつしか妻よりずっと、君に心酔していたんだ。でも、それは君も同じだったんじゃないか? 僕をずっと傍においたからね。だけど僕に惹かれるということは、空っぽだということだよ」

 京一はアレックスの部屋にあった小型ナイフで、拘束を解いた。その瞬間、アレックスは京一の首を絞めた。なぜか彼は抵抗しないままだった。とーー、テーブルに置かれた二つのグラスに目がとまった。京一のほうのグラスにはまだ少し液体が残っている。はっと、手を緩める。その色、それは有名なカルトが集団自殺を図ったときに飲んだ飲み物。アレックスが冗談半分に作って保管してあったものだ。

「そうだよ、僕も、君にも飲ませた」

 途端に息が苦しくなる。視界が歪み、京一に被さるようにして倒れた。最後に聞こえたのは、ありがとう、という声だった。

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