第15話 カロリー摂取の為だけの食事は楽しくない

「それは災難だったな」


 事の顛末を伝えると、ガウェインは唸るようにして首を傾げた。私の『情報源』というのがそもそも信用に値するのかどうか、もし事実だとしても帝国がそこまでして彼女たちを狙った理由がわからない。


「でも貴方は帝国の人間だ。それも騎士団所属の副団長様には耳の痛い話でしょうね」

「俺も奴隷制度については寛容な立場だが、今回の件はどうも裏がありそうだ」


 ガウェインが内部から探ってみることを約束してくれたことで、帝国内の強力な助っ人も獲得できた。私は別で捜索していたミアと合流した後、情報屋からのメッセージを待つことにした。


 やがて陽が落ち夜が淡々と過ぎていく。しかし、待てども待てども何の音沙汰も無い。

 失敗したのか、騙されたのか。宿屋の一室から外を眺めながら諦めにも似た不安感が渦巻く。そんな時、それまで感じなかった隙間風が私の足元を誘った。


「誰だ!」

「……ご報告」


 振り返ると、そこには闇に紛れた二つの眼があった。全身黒ずくめのその者は自身を「八咫烏」と名乗った。


「情報屋の使いか」


「その通り。お探しの奴隷三名は、いずれもデルソニー城の地下一階奴隷用個室にて半監禁状態。そして主犯は皇帝の右腕、宰相『ムーサ・ケントベッカー』なる者」


 宰相が絡んでいるとなると、やはりこの件はただの誘拐事件ではなさそうだ。王国民の彼女たちが帝国に恨まれるようなことは無いはずだけど。


「この件、王国内部の貴族からも手引きしている者がいるようだ」

「王国も絡んでいるのか……」


 下手に嗅ぎ回っても二国を敵に回すだけ。下手をしたら戦争にもなりかねない。


「王国の貴族は誰だ?」

「不明。しかし、主人殿は依頼主殿に全面的に協力すると申していた。よって八咫烏も同様に」


「それならその貴族の名を突き止めてくれ」

「御意」


 これでアリアの帰りが遅いのも納得だ。帝国と王国が裏で繋がっていたとなれば、捜索要請も何も出せるはずも無い。やはりここは彼らを頼るしかないのか。


 翌日、私は一人である酒場にやってきた。そこは冒険者が多く集まっており、年中無休で朝から晩まで開いている酒場なのだ。そのせいか昼間から呑んだくれている奴もチラホラ。


「依頼をしたいんだけど」

「それはギルドでやってくれ。ここはただの酒場だぜ」

「表には出せない依頼なんだ。もちろん店主さんにも相当の仲介料を払う」


 店主は少し考えた後、簡易鑑定板を差し出した。ギルド支部に置いてある物より少し小さい。手作りだろうか。


「身分確認だ」


 店主の言う通り、私はその上にギルド証を置く。



*****

氏名:ローズマリー・グレンジャー

レベル:5

腕力:46

頑丈:53

俊敏:50

魔力:25

知力:50

運:29


パーティ:フードフューリアス(団長)

スキル:爆食Lv.4

*****


 ステータスが少しだけ上がってる。爆食スキルのレベルも上がってるし、特に何をしたわけでもないのにどうしてこんなに上がるんだろう。


「フードフューリアスってあの大食いのか?!」

「ええ、そうです」

「俺は昔から大ファンなんだよ。随分綺麗になってたから気付かなかったよ!」


「それで、受けてもらえるかな」

「ああもちろんだ。信用できる奴を用意しよう」


 店主だけに詳細な説明をし、その中で隠密に長けた秘密を守れる者を選んでもらった。彼が選んだのは剣士スキルのエルリック、盗賊スキルのエレーナだ。


「エルリックは剣士だが、得意なのは短剣だし身体能力も高い。エレーナは隠密行動に長けているし罠設置や解除もできる」

「分かった。お代はこれで」

「ありがとうよ!」


 この二人には詳しい説明はしない。だが、戦争の引き金ともなり得る危険な仕事だとだけ伝えた。


「俺たちは何をしたら良い?」


「エルリックは安全確保と、もしもの時にエレーナを助ける役よ。エレーナは少し危険なのだけど、デルソニー城の地下に行ってほしい」

 

「はぁ?! さすがに危険すぎるよ。見つかったら全員もれなく極刑よ?」

「私が囮になっている間に行けばいい」

「囮ってどうしてそこまで……」


 詮索はするな、というように首を振って見せる。そして二人にはそれぞれ金貨六枚を渡した。


「これに見合った仕事を頼むよ」


 少々強引な作戦だけど、これ以上待っている時間は無い。彼女たちの安全が保障されていない以上、一分一秒でも無駄にしたくない。


 決行は今夜。

 私は一旦宿に帰り、宝珠で八咫烏を呼び出して作戦を伝えた。


「して、我は何をすれば」

「もしも冒険者二人が裏切ったら殺せ」

「……御意」


 そして重要な腹ごしらえだ。良いカロリーは良い油から、ということで高級焼肉店へやって来た。食べるのはサーロイン、リブロース、ハラミなどなど。とにかくカロリーの高そうな肉は全部腹に押し込める。


 食べている間にも自身の身体が変化していくのがわかる。


「お代はこちらになります」

「おうっぷ……」


 ひとりで金貨一枚はなかなかだ。でもこれから私の戦争が始まるのだ。背に腹は変えられぬってことで。


「じゃあ二人ともよろしく頼むよ」

「「おう」」


 まずは囮役の私が派手にやって――。

 全カロリーを矢のように、いやもっと、神矢の如く強大なエネルギーをギリギリまで溜めて一気に放出する。


 目標は約二キロ離れたデルソニー城。


「さん、にい、いち――」


『一口一勝! 消えろ爆食!』







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