第5話 無意識のうちに
「しかし、アンタ戦えるのか?」
「いいえ?」
「え」
結局、手の空いているほとんどの冒険者が魔物討伐に参加することとなった。
討伐隊は総勢40名余り。その多数が魔物との戦闘経験があるが、新人冒険者と元フードファイターの私はこれが初陣となる。
「なんで来たんだよ」
「お金が貰えるから」
側から見たらただのヤバい奴だけど、私にはそれなりに試したいことがあったのだ。それは討伐隊を編成する際にギルド証を確認してもらった時まで遡る。
他の冒険者に習い、私はギルド証を受付嬢に渡した。この平たい板が結構便利で、魔力を通せば自分の現在のステータスや魔物の討伐数、固有スキルの確認までできる。
個人情報になるので、各ギルド支部で職員立会のもとでしか閲覧はできないが、お願いすればいつでも確認してもらえるのだ。
前回は見た目が大きく変わったせいで身分確認として使われたけど。
「これがグレンジャーさんの現在のステータスです」
*****
氏名:ローズマリー・グレンジャー
レベル:5
腕力:40
頑丈:50
俊敏:50
魔力:20
知力:40
運:30
パーティ:フードフューリアス(団長)
スキル:爆食Lv.3
*****
スキルレベルが上がっている。
本来、ステータスやスキルのレベルアップは魔物を倒して経験値を得る、または訓練などで基礎的な体力をあげることでレベルアップできる。
しかし、私がここ数日間にやったことといえば、瓦礫の撤去や炊き出しの手伝いなどなど。基礎的な体力面すら上がる可能性は低い。
いくら『爆食スキル』といえども、食料の運搬が滞っているせいで以前よりも食べる量が断然少なくなっているので「食べることでレベルアップ」なんてあり得ない。
もしかすると、急激に痩せた原因がどこかにあるのかもしれない。
「おいグレンジャー!」
「は、はい!」
「着いたぞ。この村だ」
馬車に揺られて二時間ほどで、被害に遭ったという村に到着した。見れば家々の窓や壁が破られ、至る所に血の跡が残っている。
ギルドからの情報によれば、小さな子どもにまでも死者が出ているらしい。当時の恐怖心は根強くこの地に留まり続けていた。
「援軍感謝致します。私はこの村の防衛を任されている者です」
数日何も食べていないのだろうか。彼の頬は痩け、王国軍の制服もボロボロだ。そんなこと気にする暇も無いのだろう。
「魔物の動向は?」
「毎回陽が落ちてすぐに数十体で押し寄せてきます」
「種類は?」
「ゴブリンやオーク、時にはその上位種も……」
今にも泣きそうじゃないか。
と、いうことで討伐隊は日暮まで待機となった。指揮は当然ガブリエレ・ロレンツォ。
まだ時間があるので、私はスキルの使用方法について試行錯誤してみることにした。
「スキル爆食!」
「爆食スキル起動! 作動!」
「爆食うぅ!」
何をやっても何も起こらない。
しまいには他の冒険者に白い目で見られる始末。
「何をなさっているのですか?」
「アルフレードさん」
村の駐在王国騎士であるトメト・アルフレードさんにも見られてしまった。
「これは変わったスキルですね」
どうやら彼は『鑑定スキル』を持っているようで、私のクソスキルを安易と見破ってくれた。
鑑定スキルというのは、相手のステータスを覗くことができる変態スキルだ。反対に『隠蔽スキル』があれば変態からシャットアウトできる。
「ええ、なかなか使いこなせなくて」
「なるほど。村にスキルについて研究している者がいますので、よければ役に立てるかもしれませんよ」
「本当で――」
一瞬だけグラっと気持ち悪い揺れが全身を襲った。その正体はすぐにわかった。体験したことのある感覚だったからだ。
「ドラゴンが来ます……」
「なに!?」
空を見上げると、沈みかける太陽を背中に無数のレッドドラゴンがこちらに向かってきているのが見えた。
「魔物襲来、ドラゴンだあぁ!!」
「王都に伝令を送れ!」
援軍は間に合わない。そんなこと分かっている。でも、私は冒険者。魔物を狩る者であって狩られる側じゃない。
「……絶対やってやる」
私の中で何かが沸騰しているような感覚が起きた。まるで脂まみれのチキンを食べたみたいな胸焼け感。
「おい、待て! グレンジャー!」
気がつけばドラゴンに向かって一直線に走り出していた。何もできないじゃない、やるんだ絶対に。
胸にあった熱いものは肩から腕に伝わり、手のひらにある。見えるわけじゃないけど、確かにそこにあるのだ。
もう止まれない。
「一口一勝! 消えろ爆食!」
言葉は自然と口を注いで出ていた。
私の手から放たれた青白い光は、ドラゴンの翼に直撃、群を散り散りにさせた。
「ヨシ、落ちたドラゴンを殲滅するぞ! グレンジャーに続けぇえ」
「「「おぉおおおぉお!」」」
「なんと一人で一〇体のドラゴンを倒すとは!」
「俺たちがトドメを刺せたのは嬢ちゃんのおかげさ」
「自分でも何が何だか……」
ドラゴンの討伐を終えた後、村では小さな宴会が開かれていた。今までも褒められることはあったけど、冒険者として人の役に立てるなんて思っても見なかった。
全てはこのクソ――いや、凄いスキルのおかげかな。
「そこの娘か。爆食スキルを持っているっちゅうのは」
「あ、はい。そうですけど……」
現れたのは腰が曲がりに曲がった老人の女性だった。
「着いて来い」
嫌な予感がするんですけどー。
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