第6話

 愛しの我が家に二日続けて不審者が居座っていたならばそれはもうとんでもない異常事態である。我が家と称されるのがたまたま美遊の夢の中であったと言うだけの話であって。

「どうしてまた私の夢の中にいるんですか!?」

「あんたが起きたら解放されるって話だったじゃん!」

 美遊は寝不足を解消するために落ちた昼寝の先で再び先日の不審者と出会った。不審者の名は彼女の話を信じるならばキリコ・シュヴァリエ、美遊の知らない人物である。しかし、昨日と違う点を挙げるなら今日は夢の中でも正常に会話ができると言う事であろうか。

「……あれ?今日は普通に会話できますね?」

 互いに指を指して叫んだ後、しばらくしてから美遊はそのことに気づいた。

「今日も何もしばらく前からあんたの声だけは聞こえてたんだけど?」

「え?いつぐらいからですか?」

 キリコを名乗る不審者がいることを除いて美遊の夢に変化は見られない。こればっかりは彼女自身の感覚的なものに過ぎないが、夢の世界、つまるところ美遊の精神世界が他者によって干渉されている感覚は感じられないし、仮にそうだったとしてもそこまで手間のかかる真似をして美遊を操るだけの理由が美遊自身には思い当たらない。たまたま夢魔の血が隔世的に発現した一介の女子高生である。そんな小娘を操ったところで出来ることなどたかが知れているだろう。

 だからきっと目の前の不審者にこの現象の原因があるはずなのだけれど。

「こういう場所だから時間感覚に自信はないけどさ、たぶん数日前だと思うんだよね。あんたの気配を強く感じる時が何度かあったけど、それはあんたがこっち側に来ている時でしょ?その回数を数えれば一週間に満たない事ぐらいはなんとなく分かるわ」

 昨日やり取りした時点ではあまり夢魔の事情に詳しくない様子だったキリコだがその推論は意外と的確だった。確かに美遊は睡眠中、自身の身体から意識を切り離した状態でないと夢の世界へと来ることが出来ない。その回数を数えればだいたいの日数を予測する事は出来るだろう。

「……それはちょっと良くない状況かも知れません」

 話を聞いた美遊はしばらく考え込んだ後でそんなことを呟いた。

「どういう意味?」

「キリコさん、夢の世界に来てから一度でも目を覚ました事はありますか?」

 それまでの様子を一変させて美遊は真剣な眼差しで問いかける。

「……無いわ。確かにこれはまずい状況かも」

 そう答えたキリコも美遊の懸念する事案に思い当たる節があったらしい。

「あなたの身体は今どうなっていますか?」

「それが分かるならここに取り残されたりなんかはしないわ」

 キリコが答える。事態はどうやら思っているよりも厄介な状況らしい。

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