新体制

「人員の再配置がいるな」

「はっ、殿の本拠は鄴でよいかと。北方の守りは田豫殿と、公孫瓚殿に」


 洛陽のドタバタでなんと幽閉されていた伯珪殿と再会できた。兗州と豫州の刺史が討たれるという事態に。兗州はそのまま我が陣営で確保できたが豫州までは手が回らない。

 そのため曹操の伝手で袁紹に豫州牧の地位を与えることにした。同じく揚州も混乱状態に陥っており、袁術が相応の兵力で盧江に入ったため、追認で揚州刺史に任じた。

 徐州は張超が反乱を起こし、抹陵の厳白虎と共闘して下邳に迫っている。青州は刺史の孔融がいろいろやらかし、反乱が起きていると聞いた。


「徐州の援軍は孫策、周瑜、太史慈らを向かわせましょう」

「ふむ、いけるか?」

「孫策の暁勇は文台殿を超える可能性があります」

「公瑾が居ればまず戦いを誤るまいな」

「然り」


 豫州方面への対策として洛陽、陳留を結ぶ拠点である官渡に大規模な城砦を築くことにした。袁紹自身は南の荊州に目を向けており、袁術も抹陵方面に兵を進めようとしていた。

 江夏に駐屯する黄祖も北から来る袁紹の兵に警戒しており背後を衝かれる心配はいらないとみての行動だ。


「なんだかんだで協力し合っているのか?」

「お互いを利用していることだけは間違いないかと」


 兗州には曹操を置くことになった。参謀に程昱、郭嘉、戯士才らが付いて陳留に駐屯する。濮陽には于禁が入った。并州には張燕を置く。丁原の元部下で、鮮卑に顔が効く。南の壺関に徐晃を置いてどの方向にも動ける機動部隊を編成した。


「青州刺史の孔融を罷免します。洛陽で官吏にするといえば断りはしないでしょう。徐州の背後を守る位置になりますので、滅多な者には任せられませんが……」


 曹操が思案顔になる。


「虔招はどうだ?」

「なるほど、良い人選かと」

 孫乾という者が仕官してきているのでそのまま虔招に付けてやった。


「さて最前線となる洛陽ですが」

「関羽しかおるまい」

「おっしゃる通りにございますな」

「荀彧、荀攸を付けて復興を進めさせるんだ」

「はっ、とりあえずはこのような感じでよろしいか?」

「うむ、ひとまずこれで行こう」

「はっ。されば……子脩!」

「はいっ!」

 曹操の従兵と思われた一人の少年が進み出た。

「こちらは?」

「我の長子で昂と申します。我の替わりに殿のお側に付けまする」

「ほう、父上に似て良き面構えであるな」

 父に似て鋭い眼光であるが、年若い故にかまだ素直さも感じる。というかどうひねくれたらこんな男になるのか。いろいろやらかしてくれる腹心を思わずじっと見つめてしまった。


「はっ、燕王殿下にお仕えでき、身に余る幸せと存じます」

「うむ、励むがよい。孟徳の後継者となれること、期待しておる」

「ははっ! 粉骨砕身の覚悟にてございます!」


 そのはきはきとした受け答えに、側に控えている趙雲も笑みを漏らした。


 そうして新体制が動き出す。洛陽太守の関羽はまず難民で悪化した治安を賊討伐で回復させた。その時に示した武勇で洛陽の民からは守り神のごとき人気を得たようだ。西の守りの主力として、函谷関には張飛を置いた。弘農郡を挟んで童関があるが、そこに呂布の軍勢が駐屯しているという情報が入ったのである。


「呂布と戦うなら命懸けだがな。兄貴のためなら否は無いぜ!」


 洛陽の混乱のさなか、内輪もめを演じ、今も対立している袁紹と袁術だが、彼らの台頭を嫌ってかなりの数の人材が領外に流出したらしい。


「この時世を顧みず、我が身のことしか考えぬ輩には従えぬ」


 要約すればこういうことを言っていた。劉曄の伝手で満寵、呂虔らが加わった。また荀彧の親族で荀爽が加わる。

 なお孫堅は故郷である江東の地へと出向いている。袁術がいろいろやらかいsているので、その状況の確認と人材登用を兼ねていた。


「推挙の条件は一つだ」

「ほう?」

「唯材」

 その一言に孫堅は目を見開いた。

「よろしいので? おそらく古老らが眉をひそめるような者を連れて参ることもありましょう」

「構わぬ。どこぞの儒者を見よ、論語の文言一つで朝から暮れまで議論しておる。そこに民草を救う道はあったか?」

「……」

「その沈黙は是と取るぞ」

「されば、是とお応え申す」

「うむ、灌漑の知識を持つ者、薬の知識を持つ者、武の才に長けたもの。どれも民を守り安んじる力を持つ者たちだ。それらを集め、漢を立て直す礎としたい」

「はっ、承知いたしました。されば……」


 孫堅の推挙から特筆すべき一つの出会いがあった。


「諸葛玄と申します」


 徐州の張超の反乱は孫策らによってあっさりと鎮圧された。その際に周瑜が用いた策をあらかじめ予見し、より効率的に運用したのが彼だというのだ。

 孫策経由で入った報告を先ほど孫堅がもたらしたわけである。

「劉玄徳である」

「わたくしをお召しと聞きました」

「うむ、貴殿の働きが見事と聞いてな。また兄の子を養っておると聞く。実は余も同じ境遇であったのだ」

「おお、劉子敬殿のお噂はかねがね聞き及んでおります」

「おお、叔父上の名は徐州まで及んでおるか」

「いえ、その名を聞いたのは燕王殿下によってでございます。功成り名を遂げた燕王殿下の育ての親として名を聞き及びました」

「そうか、であれば我が最も小さな志は果たされたということだな」

「劉子敬殿の名を高めるということでございますか」

「うむ。叔父上の死から早数年。王などと呼ばれる身になったが、それはすべて叔父上の遺徳のたまものである」

 諸葛玄は俺の言葉に涙を流した。


「貴殿は徐州牧陶謙殿の家臣であるか?」

「いえ、徐州に住まいておりますが、陶謙殿とは主従のつながりはございませぬ。此度は民のために立ち上がった次第」

「うむ、されば貴殿を家臣に迎えたい」

「……はっ、ありがたくお受けいたします」

「貴殿の甥御殿らは政庁にて教育を施そう」

「おお、我が甥ながら才があると思っておりました。殿のもとで学ぶことができればより大きな力を発揮できるに違いなし。ありがたきことにございます」


 こうして引き合わされた三人の幼子の次男と目が合った瞬間に全身を雷光が貫いたような気がした。


「そなた、名は?」

「はい、諸葛亮と申します」


 

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