第3話

10日目


 あれから少しの時間がすぎた。ミノルにたくさんの事を教わった。言葉や漢字。文章の作り方や。言葉の最後に『。』これをつけること。くてんっていうらしい。頭の中でどんどん使ってみよう。

ほかにも色々教わった。生き物の事。ボクが今までたおしてきた生き物の事。ボクががんばって生き物のとくちょうを教えると。ミノルは名前をおしえてくれる。ミノルはすごい。何でも知っている。


 そして。人間の事。


 ボクが今まで2本足と呼んでいたのは人間っていうらしい。あと。毛皮だと思っていたあざやかな物は『フク』というらしい。そしてボクも今クらしているこの場所は『家』というらしい。他の生き物にもすみかはあったけどここまで大きいものは無かったし、こんなにたくさんはなかった。

 ちなみにボクは家の中の一つの部屋の中にずっといる。ミノルにお願いされたから。ボクはここから出たらだめらしい。それにミノル以外に。見つかってもダメらしい。なんでかは分からないけれど。ミノルが言うならいうことを聞く。それに。本とかあるから。勉強するのにボクはいそがしい。ミノルが教えてくれたけど今読んでいる本は。ショウガクセイが使う本らしい。よく分からないけれど。簡単らしい。もっとむずかしい本が読みたい。


 ミノルの部屋の中にいても。家の中の声は聞こえてくる。家の中はまいにちが楽しそう。朝は低くくて大きな声がする。とてもにぎやかだった。ミノルはいつも心配そうにボクを見ながら「行ってきます」と言って。どこかへ行ってしまう。悲しいけど。ボクはミノルが帰ってくる間に少しかしこくなるためにがんばるんだ。

昼はしずか。でも人はいるらしい。何回かこの部屋の中に入って来たから。体を小さくしてかくれていた。ボクの体はべんりなんだ。部屋に入ってきた人間は大きな人間だった。あれがミノルが言っていたお母さんかな。

 夕方になると。ミノルが家に帰ってくる。ボクはそれがいつも楽しみだった。でもミノルは帰ってくるといつも元気が無さそうにしている。でもボクと話しているとだんだんとげんきになる。たまにミノルのお母さんが入ってきて。ぼくは小さくなってかくれる。ミノルとおかあさんはなんだか話をしている。話が早くてボクは聞き取れない。でもお母さんは高い大きな声を出している。朝の低くて高い声とはまたちがって。とてもにぎやかで楽しそう。でもお母さんはしばらくするとなんでかわからないけれどすごく悲しそうにしてワンワンと泣き出してしまう。ミノルはそんなお母さんの近くにずっといた。しばらくしてお母さんが部屋から出ていくと。ミノルは元気がなくなっている。ボクは意味が分からなかった。

 夜になるとミノルはご飯を食べに。部屋からまた出て行ってしまう。そしてまたにぎやかな声が聞こえてくる。今度は朝と同じの低くて大きい声だ。またとてもにぎやか。やっぱり楽しそうにしか聞こえない。でもミノルが部屋に帰ってくると元気がなくなっている。


なんで?あんなにたのしそうなのに。



11日目


 今日も夕方になってミノルが部屋に帰ってきた。ボクはいつも通り、部屋で本を読んでいる。ミノルはいつも通り元気が無さそうにベッドにたおれこんだ。


「ただいま」

 ふるえた声でミノルは声を出した。

「おかえり」

 ボクは本を読みながらそう返す。


 これもいつものあいさつだ。人間は帰ってくるたびにこれを言う決まりらしい。『行ってきます』に似たものなのかも。


 しばらくしずかな時間が続いた。なんとなく後ろから見られている気がする。ミノルが見ているのかな。


「ねえ、いつも教科書読んでて楽しい?」

「・・・楽しいよ」


 本に集中していたから。少し答えるのに時間があいた。


「偉いね・・・」

「ねえ。今日も色々教えてよ。分からないところが今日もたくさんあるんだ」


 ボクはミノルの方にふり向いてそう言うと。ミノルはベッドに顔をうめていた。おかしいな。こっちを見ているとおもったのに。


「今日・・・勉強はやめよっか」

「いやだ。ボクはもっとたくさんの事を学びたい」

「・・・」


 ミノルはベッドに顔をうずめたまま返事が返ってこなかった。困った。今日は教えてほしいところがいっぱいあるのに。


 するとミノルの方から。うなり声のような声が聞こえた。まるで動物みたいな声だった。ベッドにうずめたままだから声は小さいけど。ボクにはよく聞こえる。気になってボクはミノルに声をかけた。


「ミノル。ミノル」


「うがああああああああああ!!!!」

「・・・」


 ミノルはいきなりベッドの上で立ち上がって。いきなりそんな大きな声を出した。ボクはちょっとびっくりしたけど。あまり反応はしなかった。


「・・・」

「・・・」

「・・・ミノル。勉強しよう」

「ええ・・・」


 ミノルは何故か困った顔をしていた。でもちょっと笑っている気がする。


「まったく。ケダマには敵わないな」

「・・・?たしかにボクはミノルより強いと思うよ」

「いや、そうじゃなくてね。普通目の前でいきなり人が叫んだりしたら『どしたん?』とか『話聞こか?』とか色々あるんだよ」

「そうなの?」

「そうだよ」


 そう言って。ミノルは何も話さない。変な時間がつづいた。


「もしかして。『どうしたの』って聞いてほしいの?」


 とボクは聞いた。

 すると。ミノルは少し笑った。


「・・・ううん。大丈夫だよ」

「?・・・話を聞いてほしいんじゃないの?」

「聞いてほしいけど、多分ケダマにはまだよくわからないと思うよ」

「ボクには分からないの?」

「うん。ちょっと難しくて複雑なんだ」

「・・・?じゃあ。話を聞いてもらいたくて叫んだわけじゃないの?」

「はは。うーんなんて言えばいいかなぁ」


 ミノルはベッドからおりて。ボクの方に近づいてきた。


「ケダマ」

「何?」

「今日の僕は疲れています」

「疲れたの?」

「そう疲れたの」

「そうなんだ」


 ミノルはボクをやさしく抱き上げた。


「だから今日は勉強をお休みして、外に行きたいと思います」

「いやだ。勉強したい」

「違うよ。ケダマ。外に行くことも勉強なんだよ」

「・・・そうなの?」

「そうだよ。だから今日は『家』での勉強はお休み。今日教えてほしいところはまた明日勉強しましょう」


 ボクは抱き上げられながらちょっと考えた。もっと本で勉強したいけど。外に行くのも勉強だってミノルが言ってる。


「・・・いいよ」

「よし。いい子だ。何かご褒美とかあげたいけど、ケダマは何も食べないもんね」


 ミノルはボクを下ろして。机にかけてある。袋を持った。


「よし。早速出発しよう!」

 何だか分からないけれど。ミノルは元気になったみたいだ。


 こうしてボクは7日ぶりに外に出ることになった。



 




 

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