第75話 メニァレィビス戦④


 メニァレィビスの大元が地中から出現し、アイネ達の馬車を破壊した。



 その直前、大百足が彼女達の馬車に侵入し、とぐろを巻いて側面を保護する。上部にはクィエの氷が張られて、メニァレィビスの攻撃を完全に防ぐことに成功する。



「アイネお嬢様!! アイネお嬢様!!」



 馬車の破壊に伴った轟音で、アイネは悲鳴を上げて頭を抱えていた。そんな怯える彼女に、メリーは危険が去ったことを優しく伝える。



「もう大丈夫ですよ。アイネお嬢様」



 すると、アイネは眼を開いて顔を上げた。



 図上には青空が広がっていた。周囲には黒い壁が形成され、無数の脚がカタカタと動いている。



「え……? 何がどうなったの!?」



「クィエ様が氷を張って守って下さりました。後、この……ムカデ様? も」



「ふふん。クィエ偉い?」



 クィエは腰に手を当て、得意気にしていた。取り敢えず、彼女の頭を撫でる。



「えっと……クィエちゃん。いつも有難うね」



「ふきゅぁっ」



 奇妙な笑い方をしたクィエが、頭を寄せて来る。



 アイネは深い息を吐いた。

 張っていた気が緩む。



 結局何があったのかは分からないが、兎に角助かったらしい。



「馬車。駄目になっちゃったよね……?」



「はい。恐らく」



 大百足の壁で周囲を確認出来ないが、現状馬車の床だけが残っている。



「ちょっと外の様子を──」



「ア、アイネお嬢様!? 危ないですよ」



 外はやや騒がしい。複数の獣の声がしていた。



「でも、一応見ておかないと」



 そう言った途端、図上に影が生じる。



「え……?」



 咄嗟に頭を伏せつつ、それを確かめると、黒い1つ眼をした狼型の獣だった。



 それは丁度、以前キャビーが戦った大狼と同じ種類だ。



「ちょっ──」



 剣があれば良かったのだが、生憎手元にはなかった。馬車の破壊に伴って、今は何処にあるのかすら分からない。



 ──拳で戦う?

 ──それともキャッチする?

 ──魔法で迎撃?

 ──メリーとクィエを守らないと。



 一瞬の内に様々な思考が過ぎる──ものの、魔法は間に合わず、丸腰で戦うのは自信がない。



 逡巡した結果、結局何も出来ないと察してしまった。



 アイネは衝撃に備えて、頭を寄せるクィエを抱き締めた。



 だか、やはりというか、衝撃は来なかった。その代わり、冷気が頬を掠めていく。



「え……!?」



 見れば、狼が細い氷の刃に貫かれていた。



 クィエの魔法だ。



「ク、クィエちゃんがやったの?」



 アイネが抱き締めたことで、クィエはグリグリと頭をドリルのようにしている最中だ。



 侵入して来た狼に、反応している素振りもない。



 本当にどうやっているのだろう。



 クィエと見ている、感じている世界が違う。



 アイネはメリーと顔を合わせる。



 彼女も敵の接近と、クィエの迎撃の両方に驚いている口だ。



 2人して、クィエを見た。



「クィエちゃん。霧は……?」



 彼女の魔法には、必ず霧が伴う筈であるが、上空は快晴の青空のままだ。



 霧が発生しているようには見えない。



「お兄様が言ってたの。少なくしてみろって」



「す、少なく?」



「うん。水が少ないの」



「な、なるほど……?」


  

 曰く、水の密度をかなり減らしているらしい。つまりは、クィエの魔力で覆った極小の水を少数個、広範囲にばら撒いているとのことだ。



 敵の具体的な形は把握することが出来なくなるが、敵の接近だけを知るならばそれで問題ない。電気系統の敵と戦う時は、そのようにしろ、とキャビーから教えられていたのだ。



「氷を作る場所だけ、霧いっぱい」



「そ、そう。とても起用なのね、クィエちゃんは」



「えっへん」



 とても誇らしげだった。



 すると、また影が出来た。



 クィエはドヤ顔で笑い、対象を目視せずに攻撃する。



 だが、ガキンッ! 



 氷は弾かれた。



「えっ!?」



 3人が一斉に顔を上げる。



 すると、大百足の上にキャビーが立っていた。



 刀を逆手にして振い、氷の刃を弾いたようだ。



 彼は大百足のとぐろの中に降り立つと、クィエの肩を持った。



 じっとクィエを睨み付けている。



「この私に攻撃するとは、良い度胸だな。クィエ」



「お、お兄様……」



「なぁ?」



 ギュッと、肩を掴む手に力が入る。



 クィエは身体を震わせ、口を開閉させていた。そんな様子を、アイネとメリーは固唾を呑んで見守る。



「お、お兄様が1番好き……好ぅきぃ──くゃあっ!?」



 キャビーに額を指で弾かれて、クィエはそのままアイネに倒れ込む。



 顔を伏せて悶絶していた。



「いつまでもそれで私の機嫌が取れると思うなよ」



 さて、



「キャビー。状況は!? 何があったの!?」



 今だに外の様子を知らないアイネは、彼に問う。



「敵の親玉が裏世界に居る。そいつが馬車を破壊したんだ。まだ外にウヨウヨいるから、絶対に顔を出すな」



「え、マジぃ」



「マジだ。クィエ、手を貸せ」



「もう怒ってなぁい……?」



「ああ。別に最初から怒ってない。だから、手を貸せ」



「ふひひ。わかた!」



 キャビーは大百足の上に戻ると、



 両腕を上げて返事をするクィエの、両腕を掴んで大百足の上まで持ち上げる。



 外の状況といえば、



 メニァレィビスの分裂体の殆どが、オエジェットの方に向かっていた。



 だが、キャビーとクィエが顔を出したことで、此方にも注意が向いたようだ。



「キリが無いから、お前が全部倒せ。だが、放電には注意しろ」



「わかた!」



 クィエはその場に座り込むと、早速殺戮を開始する。地面に薄く伸ばされた霧から、氷が突出する。



 それは三度、メニァレィビスの分裂体を殺害した。



 キャビーは満足気に頷くと、戦場に戻ろうとする。そこでふと思い出して、アイネに振り返った。



「どうしたの? キャビー」



「アイネ。お前に朗報があってな」



 彼は表情を明るくして、言う。



 だが、肝心の内容を伝える前にアイネが口を開いた。



「そうだ、キャビー。他の皆んなは大丈夫なんだよね!?」



 キャビーが上機嫌な為、外はそれ程酷い状況では無いのだろう。



 そう予想しているアイネだが、面持ちは険しい。



「兵士はオエジェットさんとレイスさん以外、死亡した。レイスさんは今、森の中を走って逃げているみたいだ。あ、それと朗報についてだが──」



「行ってキャビー!! 何をしているの!? あ、ごめんね。アタシじゃ足手纏いだから……で、でも、キャビーになら出来るでしょ!? 皆んなを助けて!! お願い!!」



 出来るからといって何でも押し付けるのはどうなのだろう。


 

 アイネはそれを理解しつつも、今は悩んでいる場合ではない。


 

「それは無──」

  


「キャビー……お願い」



 拒否しようとするキャビーだが、迫真に迫るアイネの様子に渋々「分かった」と答えた。



 キャビーはクィエの頭を撫で、



「アイネとメリーを守れ。お前自身の身もな」



 そう告げてから、大百足の壁から飛び降りた。





 レイスは支給されている赤いコアで火を灯し、森を駆け抜ける。



「はぁ……はぁ……くそっ──」



 彼を追うのは、十数体のメニァレィビスの分裂体だ。



 メニァレィビスの大元が馬車を破壊した時、一介の兵士であるレイスにはどうすることも出来なかった。



 その後、無数に現れた狼についても同様だった。



 何も出来ないのであれば、可能な限り敵を馬車から遠ざけよう。



 というのは、ただの建前である。



 彼の後悔と罪悪感が、告げてくる。



 お前はただ「生きたい」という一心で逃走を選択した。アイネ達を見捨てて、なんて情け無い奴なのか。と。



 それでも弧を描くように走り、最終的に馬車に戻ってくる──そんなルートを選んだのは、彼女達の安否を心配しているからだ。



 生きてさえくれていれば、結果的に敵を引き付けた選択は正解となる。



 自分の罪悪感を消す為の後付けの希望だが、心配しているのは本当だ。



「頼む……アイネ……っ!!」

 


 すると、誰かが横を通り過ぎた。



 いや、通り過ぎたのはレイスの方だ。



「レイスさん。やっと来ましたね」



「何──っ!?」



 思わず脚を止める。



「キャビー!?」



 身の丈に合わない長い刀を構え、迫り来る狼の大群をものともしない。



 そんな少年が立っていた。



 キャビーはレイスの逃走ルートを逆算して、彼の救援に向かっていたのだ。


 

 先行するメニァレィビスの最小個体が、キャビーの横を通り過ぎる。



 すると、レイスの脚元に首が切断され死体が転がってきた。



 まるで演舞でも見ているかのように、彼の剣戟は無骨な兵士達のそれとは違う。計算された刀の動きを持って、全ての敵を葬っていく。



 最後の1体を地面に突き刺すと、彼はレイスに向き直った。



「何をボーッとしているんですか。手伝って下さいよ」



「え……? な、何を……?」



 惚けた声でレイスが言う。



 もう既に、敵は居ない。



「まだまだ現れるので、手伝って下さい。武器はどうしたんですか!?」



 レイスの手には、炎が灯った赤色のコアだけだ。



「捨てたよ……逃げるのに必死だったから」



「ふーん。まぁ無理もないですか。では、アイネ達の元で待機していて下さい。足手纏いは邪魔です」



「アイネは生きているのか!?」



「当然でしょう。クィエが付いているんですから」



 レイスの顔に希望が満ちる。



「そ、そうか……良かった。本当に──お、俺も戦うよ。武器ならほら」



 と、腰に刺したナイフを取り出した。



「これがある。俺はまだ戦える」



「そうですか。では、馬車の方に戻ります。敵は沢山出現しますが、無限ではありません」



「わ、分かった」



 彼らは急いで馬車に戻る。



 すると、敵が集まっている箇所があった。その中心には、オエジェットが立っている。



「隊長!!」



 オエジェットの身体に、2体の狼が噛み付いていた。次々に襲ってくる敵を斬り伏せてはいるが、限界が近いかも知れない。



「幻影魔法が効いていないのか!? キャビー、助けに向かうぞ!!」



 しかし、キャビーは立ち止まる。



「キャビー……!? 何してる。ほら、行くぞ!!」



「…………もぅ、仕方ないですねぇ」



 キャビーとレイスは、敵を蹴散らしつつ、オエジェットの元に辿り着く。



「遅いじゃないか」



 草臥れた笑みを浮かべた、オエジェットが言う。



「隊長!! 遅れて、申し訳御座いません」



 謝罪をしながら、噛み付いた2体の狼を斬り殺す。



「いいや、助かったよ。レイス」



 次にオエジェットは、キャビーを見て言う。



「キャビネット君も来てくれたのか。これは心強いね」



「貴方には私を兵士として取り次いで貰う必要がありますから。仕方なくです」



「そうか。良かった」



 言っている間に、次々と現れるメニァレィビスの分裂体が彼らを囲う。



 3人は互いに背中合わせとなった。



「隊長。幻影魔法はどうしたんですか?」



「あー。看破されたよ。はっはっは」



「え、本当ですか!? 笑い事じゃありませんよ」



「そうだね。外で私を伺っている個体が居てね。恐らく視界か思考を共有しているのだろうね」



 幻影魔法の範囲外からオエジェットを伺ったところで、実際に動くのは範囲内に居る個体である為、その行為に殆ど意味をなさない。



 だが、何度も彼に斬り殺された経験と、範囲外からの視界によって、メニァレィビスは幻影魔法の渦中に居て彼の位置を割り出したのだ。



「だから、今は解除してるよ。大変だからね」



「それは……相性が悪かったですね」



「ああ。さ、来るよ。互いに援護しつつ、敵を確実に倒すんだ」



「はい。分かりました」



 表に出ているメニァレィビスは、6体の集合体が最大の大きさであった。統率された彼らは、息を合わせてそれぞれに飛び掛かろうとしている。



 そして、第一陣、第二陣と、順に攻めてきた。



 長い刀を所有するキャビーは、やや前方に飛び出して敵を引き付けつつ、斬り倒していく。



 180度以上の範囲をキャビーが引き受け、残りをオエジェットとレイスが捌く。



「た、隊長。助かりました」



「ああ。まだまだ来るよ。集中して──」



「はい!」



 レイスは短いナイフを用いて、飛んで来る狼の首を貫いた。石を飛ばす投石魔法を使用し、敵の勢いを殺す。



 オエジェットは手負でありながらも、戦力は兵士数人分に登る。迫る全ての敵を叩き斬った。



 敵は減るたびに地中から生えてきた。



「こいつら、一体どれだけいるんだ」



「さぁね。キャビネット君はどう思う?」



「知りませんよ」



 戦闘の中で、3人はそれぞれの戦い方を理解し、連携が取れ始める。



 というより、キャビーが振り回す刀に、彼らが慣れてきた。というべきだろうか。



 殆どをキャビーの大振りに任せて、2人が刀の届かない敵を倒す。時にはしゃがんで、刀を交わすこともあった。



 やがて呼吸はひとつとなり、一糸乱れず武器が振るわれた。



 そして、メニァレィビスの攻撃が止まる。



「攻撃が止んだ……?」



 3人は顔を見合わせる。



「グググゥゥ──」



 メニァレィビスが悔しそうに唸り声を上げた。今にも飛び出しそうな個体も居るが、逡巡した挙句、彼女達は散開していく。



「……!?」



「か、勝ったのか!?」



 レイスが言う。



「分からない。だが、取り敢えず退けたようだね。今のうちに逃げる準備をするよ」



「わ、分かりました!」



 幸い、馬車は1台無事である。馬に関しても、逃げて散らばっている。



 メニァレィビスの狙いは人間だけで、馬には手を出していないようだ。



 レイスは走り、早速馬の回収に向かう。



 その間、キャビーはクィエ達の元に戻った。



 氷の針を掻い潜っていき、クィエの元の到達する。



「クィエ。何だか楽しそうだな」



「あ、お兄様だぁ」



 鼻歌を刻みつつ、クィエが指を振ると狼が刺し殺された。



 彼女の周辺には、キャビー達を囲っていた狼と同等の数が、氷で貫かれていた。



 その殆どが見事に心臓をひと突きされ、即死している。



「敵は強かったか?」



「ううん。全然ー」



「流石は私の妹だな」



「んひゃぁ」

 

 

 毛量の多い癖っ毛をポンポンと叩く。すると、クィエはそんな声を発し、頭を抱えて喜んでいた。



 アイネとメリーも勿論無事だ。


 

 メニァレィビスが出現しなくなったのを見て、大百足のとぐろが解放される。



 アイネは初めて外の状況を確認し、顔を強張らせた。



「な、何なのよ。これ……外はこんなことになってたの!? え、皆んなは……?」



「ア、アイネお嬢様……落ち付いて下さい」



 メリーの静止を受け付けず、アイネは立ち上がった。



「メリー離して。え、嘘……そんな。あれ、カイシンさんとログさん!?」



 死んだとは聞いていたが、酷く損傷した死体だった。



 すると、泣き叫ぶ声がある。



「あ゛ぁああああッ──」



 それは丁度、カイシンが食い荒らされた死体の傍で。



 ミャーファイナルの叫びだった。



「ごめんにゃ。ごめんにゃぁあ゛ああッ──」



「みゃーを守って、こんな……バカにゃ!! お前、バカにゃ!!」



 怪我の治療に当たっていたミャーファイナルに結界魔法を付与し、カイシンは死亡した。その後、彼女は馬車の中でずっと隠れていたのだ。



「逃げれば良かったんにゃ……みゃーなんか放って置いて……ああああ」



 死体の前で膝を崩し、上を向いて泣き叫ぶ。そんな彼女をレイスは介抱し、馬車に運んで行く。



「みゃーさん……」



 アイネは、ミャーファイナルの叫びに思わず涙ぐむ。呑気に隠れていた自分が、とても恥ずかしくなった。



 何か出来ることはあったんじゃないか、と。やはり後悔せざるを得ない。



「メリーぃ。アタシ……」



「アイネお嬢様……」



 その時、アイネはふと気付いた。



「キャビー。アタシのお父さんは……?」



 キャビーに尋ねてみると、彼はこの場に似つかわしくない明るい口調で言う。



「ああ。それのことなんだが、アイネ──」



「レイス。トッドさんを探せ!!」



 すると、キャビーが言い終える前に、オエジェットが言う。



「……え?」



 アイネは床だけになった馬車から飛び降りて、直ぐにオエジェットの元に向かう。



「お、おい。アイネ……」



 キャビーの声は聴こえていないようだ。



 アイネの顔は想像と違っていた。



 それは丁度、メリーの死亡を聞いた時と同じだった。



 絶望、不安、心配。その全てが混ざり合って、彼女の顔は黒く塗り潰されていた。



 唇が震え、今にも叫び出しそうなのを堪えている。



 ──何故?



 キャビーは怪訝に思う。



 どうしてそのような顔をするのだろう。



 アイネのそんな顔が見たくて、報告しようと思ったんじゃない。



 ミャーファイナルについてもそうだ。



 沢山仲間が既に死んでいるのに、どうして今になって泣き叫んでいるのか。



 この胸が詰まる感覚は、一体なにものだ。



 アイネはオエジェットに対し、言う。



「アタシもお父さんを探す!! 何処に行ったか分かったりする!?」



「申し訳ない。私のミスだ。きっとあの森の向こうだとは思うが……でも、大丈夫だよ。きっと生きているから」



 オエジェットは元気付けようと、彼女の肩を叩く。彼女もそれに応え、無理やり笑っていた。



「そ、そうだよね」



「アイネお嬢様。私も一緒に探します。皆んなで探せば、きっと見つかります」



 キャビーの横を通り過ぎ、メリーがアイネを抱き締める。



「有難う。メリー。お父さんのことだから、どうせ隠れてるよね。大丈夫だよね」



「はい。驚かせに行きましょう」



「アイネ君。探すのは構わないが、急ごう。いつ敵が襲って来るか分からないからね」



 アイネはゴクリと唾を呑む。



「わ、分かったわ。今すぐ行こう」


 

 それから彼女はキャビーの元に戻って来て、手を取る。



「キャビーも手伝ってくれるよね?」



「わ、私は……」



「クィエは嫌や」



 キャビーに抱き着いているクィエは、口を曲げていた。彼女はトッドのことが大嫌いなのだ。



 アイネはクスリと笑う。



「えー、お願い。一緒に行こ? ついて来るだけでいいからぁ」



 と、膝を曲げて頼み込む。



「うぅ……わかたー」



「やった。有難う──さ、キャビーも行こ」



 アイネはキャビーの手をグィッと引っ張り、連れて行く。キャビーの固まった脚が、倒れるように動く。



「アイネ……その──」



「どうしたのキャビー? ごめんね。いつも頼りっぱなしで……でも、最後に力を貸して欲しい」



 キャビーは本当のことを伝えることが出来ず、「……分かった」と眼を逸らして返した。



「有難う! キャビー大好き」



 キャビーに抱き着き、アイネは準備が整ったことをオエジェットに伝える。



「よし。レイスと私が端に付く。君達は等間隔に並んで森を歩こう」



「分かったわ」



 オエジェットに言われた通り、それぞれが並び、森を歩き始めたのだった。



『作者メモ』


 キャビーさん、やってしまいましたね。意気揚々とトッドを見殺しにしたはいいけれど、アイネの反応は違ったようです。


 若干レイスが情けないですが、人間そんなものですよね。と、リアル思考で彼を描いているつもりです。


 流石のミャーファイナも、自分を庇ってエグい死に方をした同僚には、取り乱してしまいました。でもカイシンは電気でビリビリしていたので、苦痛は少ないようです。


 オエジェットはちょっと弱く書き過ぎたかも知れませんが、幻影魔法あっての強さでもあるので、大量の獣を無双出来る力はありません。キャビーも闇魔法の空間認識能力が無ければ、さほど強くないので、そんなものでしょうか。

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