第63話 誇り
数十人にも及ぶ獣人が、拠点中央に眼を向けている。そこに居るのは、人間の少年少女3人組だ。
彼らに対面するのは、四神闘気の1人──キンキとその側近のハオである。
「おい、ガキ共。話し合いは終わったのかぁ!? まだちょっと早ぇぞ。みっともなく、泣き喚いてくんねぇかなぁ」
キンキは耳に指を突っ込みながら、逆撫でするように言う。
「今はそんな時間無いの!! アタシ達は、皆んなでここを出て行くんだから」
対して少女、アイネは訴える。
「ねぇお願い。捕まってた獣人を連れて来たんだから、見逃して頂戴」
そのまま強引に逃げるという選択肢もあった。恐らくキャビーだけなら可能だ。
しかし、獣人は人間よりも身体能力が高い。魔力を使えない獣人なら兎も角だが、アイネとクィエでは、いずれ追いつかれてしまうだろう。
それ故、キンキと交渉して逃して貰う必要があった。
「話が振り出しに戻ってんぞ。人間のガキは馬鹿なのかぁ!?」
「アンタ達が強情だからよ!! もう1人、獣人の子が森を彷徨ってるの。助けに向かわなきゃいけないの!!」
それをキンキが信じる筈もない。
仮に信じたとしても、見逃してはくれないだろう。
「駄目だ。つかさ、お前らには謝罪って選択肢はねぇわけ? こっちは5人、そこのガキに殺されてんだぜ? 先ずは謝罪からだ」
「それは……」
アイネはキャビーに眼を向ける。
獣人を殺した件について、真偽を確かめたかった。
「ねぇキャビー。本当に5人も殺したの……? 1人とかじゃなく? いや、1人もダメなんだけどさ」
すると、キャビーは悪ぶれる様子もなく、寧ろ誇らしそうに言うのだった。
「ああ。勿論だ。私が5人、全て殺した」
「そ、そう……」
アイネは複雑な気分だった。
獣人と人間の死体を沢山見た所為か、5人という数字がとても小さく聞こえる。
でも、殺人は立派な罪だ。
少なくとも、アイネの価値観ではそうだ。
いくら犠牲はつきものだと言っても、それが変わることはない。
1人でも殺せば、それは重罪だ。
「どうして──」
どうして殺したのか。
アイネは問おうとした。
だが、それは今でなくていい。
アイネはキンキに向き直る。
そしてキャビーの代わりに、深く頭を下げて謝罪した。
「御免なさい。本当にごめん!!」
「あぁ? お前が謝るのかよ」
「こ、これでどう……? 本当に、申し訳ないと思っているわ」
「駄目だ。誠意がまだ足りねぇよなぁ!? 5人だぞ!? 5人」
「ど、どうすればいいのよ……」
「それはなぁ」
キンキは憎たらしそうにニヤついてみせると、地面を何度か指さした。
土下座の要求だった。
「……え?」
「なんだ、出来ねぇのかぁ?」
少しだけ狼狽したものの、アイネは手を握り締める。
「う、ううん。分かった。分かったわ。すれば許してくれるのね」
土下座をしたところで、見逃して貰える保証はない。
キンキは何も言わずに笑っている。
きっと、ただ人間のみっともない姿を見たいだけだろう。
それでも、
アイネはその場で正座をし、両手を地面に付けた。
「──!? アイネ、何をしている……?」
キャビーが問う。
しかし、アイネはそのままゆっくりと頭を下げた。やがて彼女の額は地面にピッタリとくっ付く。
「ア、アイネ……?」
「ふっ、ふふ──」
笑いを堪えたキンキの姿が、アイネには見なくても分かった。
「おい、見ろよ。マジでやったぞ、あいつ」
「だっせぇ」
「私達の同胞を殺したんでしょ!? 当然よ」
周囲に居る獣人も、ざわつき始める。
それでも、アイネは土下座を続ける。
メリーのことを思えば、これくらいの恥は安いものだ。
それに、誰かの為に行う謝罪で、誇りが失われることはない。
「ア、アイネ、やめないか──」
しかし、キャビーは言う。
アイネが平気でも、彼はそうではないらしい。
そうこうしていると、キンキが遂に吹き出してしまう。
「だぁっはっはっはぁ!! おいおい、ダッセェなぁ!? なぁ皆んなも、そう思うよなぁ!?」
「全くですね。ははは」
ハオが釣られて静かに笑えば、他の獣人達からも嘲笑の声が増え始める。
「お兄様ぁ……」
クィエは兄の様子に異変を感じ、寄り添う。その兄は、珍しく狼狽えてしまっていた。
「なんだ、これは……」
キャビーが土下座という行為を見たのは、前世以来だ。
ネィヴィティに向かって、地面に膝を付き頭を下げていた人間の男──彼の後ろには、沢山の怯えた女と子供が控えていた。
彼は、この村の長だったのだ。
「助けてくれ」
「どうか見逃してくれ」
彼はネィヴィティに懇願する。
「俺だけでいいから、逃してくれ」
と。対してネィヴィティは、笑っていた。
「ね、ギィ兄様。人間って可愛いでしょ?」
土下座という行為は、恥も外聞もプライドさえ捨てる。
──そんな最底辺の行為だ。
ギィーラの印象は、そうだった。
「あははははっ」
「おい見ろよ。まだ続けてやがるぞ、あいつ」
「よくやるわ」
キンキが両手を持ち上げて指示すれば、嘲笑の声は更に盛り上がりを魅せる。
高笑いと罵倒が、キャビーの頭に鳴り響く──
彼は周囲をぐるぐると見渡して、息を荒げた。
非常に不愉快だ。
「お兄様ぁ、大丈夫……?」
クィエが見上げるのを、彼は迫真の眼で見返した。
「クィエ──」
「なぁにぃ?」
「ここに居る耳の付いた人間を、全員殺せ」
「……え? じゃあ、あれも殺してい?」
クィエは後方を見て、奴隷の集団を指さした。
その中には、ミミがいる。
クィエの指は、しっかりミミに向けられていた。
「当たり前だ。全員殺せ」
「うひひ、分かったぁ」
クィエは満面の笑みで頭を擦り付けた後、身体をキュッと縮める。
すると、彼女を中心に霧が展開された。
「あぁ!?」
突然放出されたそれに、キンキは眉を顰める。その他の獣人も同様に怪訝な様子で見ていた。
霧は主に、目眩しで使用される。クィエの魔法を知らない彼らは、特にそれが危険だとは思わない。
嘲笑の声が止んだ為、アイネは顔を上げてみる。
「──えっ?」
彼女の眼に映ったのは、まるで雪景色のように染まった、白だけだった。
霧は、触れた瞬間からその者の視界を奪ってしまう。それくらい濃度の高い霧だった。
「クィエちゃん? 何をして──」
直ぐ隣に居る筈のキャビーとクィエですら、輪郭が薄くて見えづらい。
「キンキ様、何かやばそうです。下がって下さい」
「ああ、分かってる」
ハオに言われ、キンキは後ろ脚で下がっていく。
「何だこの魔法。あのガキ、何をするつもりだぁ?」
「このまま逃げるのかも知れません。どうしますか」
「ミレッタの代わりは、既に配置済みかぁ?」
「はい」
キャビーに敗れたミレッタは、その後拠点に返され、大人しく怪我の治療を行なっている。
彼女に代わって、現在は別の獣人が外を見張っていた。
「ならいい。逃げたのなら、笛を吹いて知らせる筈だ。それより警戒しろ──何か来るぞ」
その時だった。
誰かが苦しみ出した。
更に、悲鳴と逃げ惑う奴隷達の声も。
「何だ。何が起きてる──」
霧に含まれたクィエの魔力が、奴隷達の首輪に反応し、彼らを絞め殺していた。
「クィエちゃん、止めて!! み、皆んな死んじゃうから!! ミミが、死んじゃう!!」
アイネはクィエの脚にしがみ付き、言う。
しかし、クィエは満面な笑みで続けた。
霧の中でなら、大嫌いな獣人が踠き苦しむ様子が手に取るように分かるのだ。
それがとても楽しい。
「クィエちゃん!! どうして──」
クィエの獣人嫌いは、あの時始まった。
──アイネがミミに懐いてしまった。
遠征作戦が始まって以降、アイネはクィエの姉を演じてきた。彼女は、つい甘えたくなったのだ。
メリーを思い出してしまったのだ。
それがクィエの獣人嫌いを加速させるとは知らずに──
姉を取られた。
姉や兄を馬鹿にされた。
クィエはそう思う。
彼女の中で、耳の付いた人間は特に嫌悪の対象だった。
そして、ミミが大嫌いだ。
クィエの怒りと嫌悪、そして愉悦が、霧をもっともっと広げていく。
そこに兄の期待が混ざれば、完成だ。
「クィエ、いけるな」
「はい、お兄様」
頭上で、白い靄が生じ始める。
クィエの殺意が練り込まれた魔力の塊だ。
視界が失われていようとも、この場に居る全ての者が、それを感じ取れた。
やがて白い靄は、刺々しい氷塊に変貌する。
「クィエちゃん、止めて……」
アイネの言葉は届かない──
「皆んな逃げて……皆んな逃げてぇっ!!」
「クィエ、全員殺せっ!!」
アイネの叫びと同時に、キャビーが命令を下した。
「うひひぃ」
氷の棘は緩やかに伸び始め──
その後、急速に加速し、全ての獣人に向けて放たれた。
★
霧に触れ、首輪を持つ獣人が死んだ。
氷の棘が突き刺さり、獣人が死んだ。
「死ね。死ね。死ね──死ねぇっ!!」
クィエは魔法に集中するあまり、座り込んでいる。両手で地面を叩いて、「死ね」と声を発した。
多くの獣人が死んだとて、生き残ったものはまだ居るようだ。
「キンキ様ぁっ!!」
氷の棘を弾いた後、次は地面から氷の刃が出現し、生存者を襲う。
絶え間なく、それは放たれた。
ハオは、避ける途中で見失ってしまったキンキを探す。
「ハオ、無事か!?」
キンキは無事だった。
ハオはそれだけで安堵する。
声のした方向へ走っていき、彼女らは合流する。
その間も、氷は迫り来る。
地面から突き出た氷を交わし、その氷から突き出た氷を交わし──
それが永遠と続けられていく。
クィエの魔法の唯一の弱点は、何かを支えにしないと氷の刃を出現させれないことだ。
拠点の木は全て切り落としている為、氷の刃は地面から生えるか、氷から生えるか、の2パターンしかない。
それを見抜いたキンキとハオは、互いに背中合わせを取った。
「デタラメ過ぎます。何ですか、この魔法のレベルは──」
「さぁな。それより、あのチビはどうやってこっちの位置を把握してんだぁ?」
「きっと探知の効果が、この霧にはあるのでしょう」
「霧に探知ぃ? 聞いたことねぇぞ」
霧を放出させるだけでは、本来探知が出来ない。
しかし、
「霧を全て操っていれば可能です。その上で、更に氷の魔法も放ってますが……」
「有り得ねぇだろ。ちっ、才能に巡らまれただけのガキが」
キンキは両手に嵌めたナックルで、氷を破壊する。ハオは、自身の土魔法で出現させたゴーレムを盾にした。
「キリがねぇ。流石にこれが続くとやべぇ」
あらゆる方向から氷の生じる音が聞こえてくる。同胞の悲鳴も、同時に鳴っていた。
霧の所為で、何処に立っているかもあやふやな状況だ。氷による攻撃が、どの程度の規模で行われているか、キンキには分からない。
まさか、全ての獣人に牙が向けられているのは、思いたくないが──
「仕方ねぇ。俺がやる──」
「キンキ様、お待ち下さい。国へ帰る為に、力を温存しておかないと。王国の国境でも、戦闘があるんですよ!?」
「一瞬で片付けりゃ、いい話だろ!!」
「しかし──」
キンキは構わず、己の周囲に円形の炎を纏い始める。
そして──
「炎上ォオオオオッ──!!」
雄叫びを上げた。
★
突然、勇ましい叫びと同時に、白い霧の中に赤が生じた。
その赤は円形に広がっていき、先ずは熱風となってキャビー達を襲う。
「な、何──!?」
「火だ。アイネはクィエの後ろへ」
熱風の後、本陣である炎が一面に燃え広がった。
キャビーは顕現させた獣を盾にし、それを防いだ。
炎が彼らを過ぎ去ると、前方の霧はすっかり晴れてしまっていた。
炎を放った犯人──四神闘気のキンキが見えた。直ぐ後ろには、土で身を守ったハオが居た。
「ほら、上手くいったろ!?」
燃えるように揺らめく髪をしたキンキが、言う。今も尚、彼女は炎を纏っている。
「キンキ様。周りを──」
「あぁ? なっ──!?」
霧が晴れたことによって、辺りの状況を漸く把握することが出来た。
少年少女の上部に出来た大きな氷塊から、全方位に氷が伸びている。
伸びた先には獣人がおり、貫かれて息を絶やしていた。
仮にそれを生き延びたとしても、次々に襲い来た氷によって、
貫かれ、潰され、切断され──
獣人の殆どが既に死亡していた。
キンキとハオだけじゃなかった。彼女らに放っていた氷と、同じだけの氷を全ての獣人に放っていた。
幸い、一つひとつの攻撃は、大したことがない。物理的な防御手段が有れば、それを突破する程の攻撃力は有していない。
だが、霧で視界を奪われ、その中で正確に襲い来る氷を全て防ぐのは困難だ。
先ず、第一陣での氷で死亡した獣人が大半だった。
「そんな……酷い……」
驚いているのは、アイネも同じだ。
先程、キャビーの殺人に心を傷めていたというのに。
これは次元が違っている。
「クィエのを、よくも──!!」
クィエはまだ戦闘態勢を維持している。
「早く止めさせないと……」
しかし、アイネはハッとして振り返った。
「ミミ……!?」
ミミにも首輪が付いているのを思い出した。クィエの霧に触れれば、一発でアウトだ。
アイネは彼女を探そうとするも、後方の霧はまだ濃いままで、何も見えなかった。
もう一度、彼女は前方に眼を向ける。
すると、キンキの身体に宿る炎が勢いを増していた。
「やってくれたな、ガキ共。もう許さねぇ──全員、ぶっ殺す!!」
彼女が腕を横に振れば、赤い炎が黄色に変わる。強烈な熱気が、アイネの元まで伝わってきた。
「ま、待って!! これ以上は!!」
アイネは戦いを止めさせようと、叫ぶ。
「──きゃあっ!?」
だがその途端、キンキの放出した熱風によって、吹き飛ばされてしまった。
「アイネお姉さん!? ──んもぉぉ」
クィエがキンキを睨み付ける。
もう一度、霧が生じていく。
だが、今度のそれは自身の周囲だけに留めた。
上空に残っている氷を変形させると、それは砕け散る。破片が、幾つかの氷の槍へと変わった。
「来いよ!! チビガキがぃ!!」
クィエは、それをキンキに投げ付けた。
投擲された鋭い槍は、しかしキンキの熱を突破することはない。
彼女の炎を前に、氷は溶けてしまった。
「もうっ、なんでぇ──!!」
クィエは、地面を何度も叩いて悔しがる。
「へっ。そんなもんかぁ!? ウォームアップにもなんねぇぞ!!」
「うぅぅー」
クィエは唸り、新たに1本の槍が生成された。それは今までよりも遥かに冷たくて、硬いものだ。
キンキの熱気に対抗するように、青白い冷気が放出された。冷気は地面に流れ、そこに霜を作った。
「さ、寒い……な、何これ。しかも、痛い──クィエちゃん。もう大丈夫だから、やめよ?」
あまりの寒さに、アイネは両腕で自分の身体を抱いた。クィエに問い掛けても、彼女は見向きもしない。
姉の言葉はもう届かない。
「もっと。もっと──」
より固く、より冷たく、そしてより凶暴に──
「──? クィエ、待て。それ以上は──」
氷の槍に触れた空気は、その瞬間から音を立てて凍り始めた。槍とは別に、透明な氷の結晶が形成されていく。
そこから降り立つ冷気には、針が混ぜられたような痛みを伴った。髪やまつ毛は凍り、肌の水分が奪われていく。
現時点で出せる、クィエの全力が槍に込められていた。
「クィエ、止めろ!!」
その時だった。
突然、クィエは胸に鈍痛を覚えた。
「うっ。かはっ、げほっ──」
むせ返り、彼女はその場で縮こまってしまう。
「な、何!? ちょっと、どうしちゃったの……!?」
クィエに異変が生じたことで、彼女からの魔力供給は終える。
上空に出来た槍のような、氷のモニュメントのような物体は、その時点で活動を停止する筈だった。
しかしそれは、自我を持ったように付近の時間を止め、無差別に凍らせ始めたのだ。
キャビーは、それを見て驚愕する。
「──何だ、これは!?」
まるで、コアを重ねがけした無限魔力増幅のような現象だ。
「ま、不味い。アイネ、来い!!」
彼は直ぐに危険を察知しすると、行動に移す。
「えっ、うん!!」
キャビーはクィエを掬い上げ、アイネに手を伸ばした。同様にアイネも手を伸ばし返し、互いの腕を掴んだ瞬間、彼女は投げ飛ばされてしまった。
「──へっ!?」
アイネは宙に浮いてから、投げ飛ばされたことに気付く。
腕を使い頭を保護した。
身体を丸めて衝撃に備える。
直後、衝撃があった。だが、さほどではない。獣人の死体がクッションとなったらしい。
彼女の身体は何度か回転した後、やがて停止した。
「あ、危なかった……ク、クィエちゃんは!?」
アイネは起き上がると、直ぐに状況を確認する。
暴走した氷は、まるで生き物のように周囲を巻き込んで大きくなっていた。
あの場に居れば、間違いなく全身が凍ってしまっていただろう。
だが、それでもあの氷には、クィエの殺意が込められている。
偶然だろうか。
それの矛先はキンキに向けられていた。
バチバチと弾けながら、彼女に迫っていく。
そして、黄色の炎を纏ったキンキと、空気を喰らい尽くす氷塊は衝突する。
大きな爆発が生じた。
空気に波紋が広がり、水蒸気が発生する。
氷が生成されては、溶け──その繰り返しは、やがて水の煙が晴れたことで、勝負の行方を表した。
「ちっ。んだよ、今のやべぇ魔法はよぉ」
姿を見せたキンキは、無傷だった。
彼女が纏った炎は一切揺らいでおらず、それどころか更にヒートアップして、白色に変わっていた。
まだまだ余裕そうだ。
「クィエ、大丈夫か?」
クィエを抱きかかえたキャビーは、無事に脱出に成功していた。
「お兄様ぁ。クィエ、胸痛い……」
苦しそうに弱った声を発するクィエは、胸をギュッと掴み、身体を丸めている。
「だからあれほど全力を出すなと言ったろ」
魔力増幅率の高いキャビーとクィエは、少量の魔力で強力な属性魔法を出力出来る。継続戦闘に於いては、限りなく最強だ。
しかし、コアに多くの魔力を注げば、コントロールを失い魔力暴走に陥りやすい。また、コアに負荷が掛かり過ぎる為、最悪の場合ヒビが入ってしまうのだ。
今回のクィエは、後者のパターンだ。
「うぅ」
「お前はアイネと一緒に休んでいろ」
「はい」
クィエはしょんぼりとして言う。すると、アイネが駆け寄って来た。
「クィエちゃんは、大丈夫なの!?」
「アイネ。お前はクィエを見ていろ」
「う、うん。分かった。でも、キャビーは?」
「あれの相手だ」
「……ね、ねぇ、もう十分じゃない? これ以上戦う必要あるの?」
アイネは傍に転がっている死体を見て言う。
「あの女は、これからが本気らしい」
キャビーに言われ、アイネはキンキの方に視線を変えた。
準備運動とばかりに、小さくジャンプしているキンキがいた。
「おーい、ガキ共。行っていいのかぁ!? この落とし前、きっちり付けてやっから覚悟しとけぇ」
眼が合ってしまい、アイネは直ぐに見るのを止めた。
「勝てるの……?」
「当たり前だ。あの馬鹿は、本当の強者との戦闘には慣れていないらしい」
「え……そ、そう。キャビーが言うなら、まぁ」
「アイネ。お前は雑魚共に気を付けていろ」
「え?」
雑魚共、というのは恐らく生き残った獣人のことを言っているのだろう。
アイネは嘆息し、頷く。
「分かった。じゃあ、頑張ってね」
「ああ」
そうして、キャビーは歩き去ろうとする。
しかし、彼は一度振り返った。
「アイネ」
「ん? どうしたの?」
「私の妹を頼む。弱っているから……それに多分、あれの相手で精一杯だし」
どういう風の吹き回しか、キャビーは少し恥じらいながらそう言うのだった。
アイネは微笑み、はっきりと述べる。
「大丈夫。クィエちゃんは必ずアタシが守るからね」
『作者メモ』
こんな時間に申し訳ない。
最近、本当に眠くて、全然集中出来ないんです。もうちょっと修正したいけど、こんな感じで勘弁です。
次回も何卒〜
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