第56話 一部 ※ 6月8日 作者メモに追記あり
カチリと牙を鳴らした衝撃で、電気が発生し毛並みを伝う。骨格が露わとなった。体長は大人よりも2倍程度大きそうだ。
細い鼻先に向かって、3つの切長の眼が付いている。その内の1つは、額にあった。
毛並みは静電気によって、それぞれが針のように尖っている。
「オゥゥ」
立ち塞がるのは、闇に紛れる黒い身体をした狼型の獣だ。脚は6本あり、尖った毛並みは時折バチバチと音を立て、電気を纏っている。
細長い顔立ちで、鼻先に掛けてやたらと吊り目な3つの瞳が彼らを捉えている。
「クィエ、こいつもストックにする。やれるな?」
「うん、任せて。お兄様」
「き、気を付けてね……何かコイツ、他のと雰囲気違うよ!?」
「分かっている。コイツの情報はないのか?」
「黒い見た目……お咎め様の呪いかも知れない。それ以外は知らない!」
お咎め様の呪い。森の秩序を守っているとか、いないとか。森の異物を排除する存在だ。
「でも、それにしては普通過ぎるような……?」
アイネは疑問を口にしつつ、走って後方に下がった。
「クィエ、やれ。但し、加減はしろよ」
「はい、お兄様」
クィエは大浪を捉えると、広範囲に霧を展開した。それは敵の視界を奪うと同時に、氷の刃が出現させる。
大浪へ攻撃を開始する。
地面や木々を支点とし、生えた氷の刃が大浪を襲う。大浪は後方へ大きく飛び跳ねて交わした。
それは臨戦態勢を取り、牙を鳴らす。
「行け!」
キャビーが大浪に指をさすと、顕現化した大百足が出撃する。クィエの飽和攻撃も続き、地面を鋭く這う大百足は大浪に絡み付いた。
「キィィイイッ──!!」
大百足の金切り声と共に、絡み付いた2頭は転げ、暴れ回る。大浪は強靭な顎を使って応戦し、大百足の硬い殻を食い千切っていた。
「クィエ、これを使え」
続けて、
キャビーは加工されたコアの欠片を、握り潰す。手の中で弾けたそれは、青い閃光を放った。彼は前方に投げ捨て両手を翳すと──
コアが放った青い輝きが、大量の水に変換された。
アイネが大百足戦で行った戦法だ。
「お兄様。やってみる」
大量の水はクィエによって倍加され、空中で膜のように広がる。絡み付いた2頭を狙い、大百足ごとそれらを覆い尽くす。
水が寸前まで迫ったところで、しかし──
カチンッと音がした。その瞬間、強烈な稲妻が迸る。
包み込もうとした大量の水は瞬時に弾け飛び、霧を伝播して周囲の木々を破壊した。稲妻はキャビー達の付近にも着弾し、地面が爆発する。
「やはりクィエとは相性が悪いか」
「う、うん。ごめんなさい、お兄様ぁ」
クィエは口を歪めて、悲しそうな顔をする。
「気にするな。私が言うまで待機していろ」
クィエは頷くと霧が解除され、視界が晴れる。彼女はそのまま、アイネの元へ向かった。
大浪が纏っていた微弱な電気では、大百足は怯まなかった。だが、先程の強力な放電は、大百足の耐久性を凌駕し、身体を破裂させてしまった。
倒された顕現体は、擬似魂が外部に出てしまい、自然消滅するまで顕現が出来ない。擬似魂であっても、成仏しなければならないのだ。
辺りを一掃した大浪は、顎をカチカチと小刻みに鳴らす。毛並みに沿って電流が走っている。
「あの歯が電流の発生源だな」
歯を当てた瞬間、火花が散った。あの生物の種族的な特徴なのか、それとも魔法なのか──
「ガルゥゥ」
大浪は、戦闘の意思を見せる少年に唸り声を上げる。すると、少年の傍の空間が歪み始める。大きな翼が顕現し、ドラゴンに似た様相の巨体が着地する。
「グゥオオオオオオッ──!!」
大浪の唸り声に対し、ドラゴンモドキ──スキゥーエルが咆哮した。
大浪の歯軋りは激しくなり、再びカチンッと歯を鳴らす。
電流が発生し、それの身体に伝播していく。6本の力強い脚が曲がり、大浪が低い姿勢を取った。周囲の空気が焼き切れ、放電を伴った突進が繰り出される。
キャビーの前に立ったスキゥーエルが、前脚を上げ、大きな翼で羽ばたく。
片翼は破れてしまっている為、生前のそれではないが、旋風を巻き起こした。風の中には、カマイタチの見えない斬撃が含まれ、大浪を襲う。
大浪は風の勢いに突進を止めざるを得ない。斬撃は全て命中した筈だが、帯電する鋭い毛並みを一部切り落とし、顔や手脚に切り傷を与える。
続いて、スキゥーエルは前脚を降ろすと同時に、地面を叩いた。同時に炎の柱が幾つも出現し、大浪を襲う。
氷のそれとは違い、触れただけでダメージを負う。スキゥーエルの攻撃は、大浪の逃げ場を奪いつつ、炎の柱を発生させる。
「なんだ……?」
大浪は魔力を覆っている。多少炎に触れただけでは怯まず、強引に攻撃を避けていた。
その最中、大浪はもう一度、突進の兆しを見せた。しかし、今度のは少し様子が違う。
「毛並みが変わったか?」
針のような毛並みが、全て前方に向いていた。
カチリと歯を鳴らす度、それは帯電を繰り返し、スキゥーエルの攻撃を飛び跳ねて交わし続ける。
大浪の身体から電気が漏れる。
刹那、炎の柱から飛び出てきた大浪が、放電する。放電は、それの額の先一点に集まり、光線が放たれた。
「──!!」
高出力かつ高速の一線は、避ける間もなくキャビーを襲う。
彼は両腕を交差させ、魔力を全開で放出する。一点集中型の攻撃を、彼も一点で受け止めた。
「キャビー!!」
「お兄様……っ」
光線は周囲にも甚大な被害を及ぼし、彼の背後に陣取ったアイネとクィエを襲う。
「きゃっ!!」
地面を燃やし、木々は破壊され、川が爆発する。
すぐさま、光線はスキゥーエルによって遮られた。自らの身体をもってして、光線を防いだのだ。
スキゥーエルは身体を貫かれ、そこで大浪の攻撃が止んだ。
「痛ったぁ……っ。有難う、クィエちゃん。貴方は大丈夫?」
「びりびり、しびれりゅぅ」
「あー、これは大丈夫みたいね」
「それより、キャビーは!? 大丈夫!?」
キャビーは片膝を付きながらも、手を挙げて無事を伝えた。
今まで眼にしたこともない高出力な攻撃だった。それはネィヴィティと上級冒険者との戦闘を間近に見た時でさえ、あのような魔法は放っていなかった。
凄まじいパワーにも関わらず、大浪は平気な様子だ。反動が殆ど無いらしい。
電気を溜めていたようだが、周囲に放電していたそれを、ただ中央に集めただけだ。大浪にとっては通常攻撃と、さして変わらないのだろう。
──欲しい。あれが欲しい。
身体強化によって光線を防ぐことに成功した。純粋なダメージは全くない。しかし、電気による痺れは残っている。近接戦は当分難しそうだ。
「やってみるか……」
大型の生物を捕らえるのは難しい。大百足やクィエの氷に頼る必要がある。もしくは、キャビーがそれに張り付いてしまうかだ。
だが、今回は電気を纏う大浪だ。大人よりも大きなそれを受け止めようと思えば、全身がそれと触れ合ってしまう。
そうなれば、キャビーの身体は電気による痺れを引き起こすだろう。勿論、魔力を全身に覆えば、強引に張り付くことは可能なのかも知れない。しかし、ストック化に伴う魂と肉体の解析に、集中できなければ意味がない。
キャビーは顕現体を新たに左右に配置し、待機させる。大浪の毛並みが元に戻る。それの身体に残った電気は、鋭角に波打ち、空気を燃やして消え去った。
改めて準備が整えた大浪は、今度こそ突進を少年に向けて放つ。
麻痺が残っている腕では、受け止められない。彼は地面を転げ、噛みつこうとした牙を、ギリギリで回避した。
しかし、大浪の矛先は後方で待機していたアイネとクィエに向く。
「え?」
アイネは呆然と声を漏らす。気付いて後退しようとするが、間に合う筈も無かった。
彼女の眼は、大浪から逸れて傍に居たクィエに向く。霧を展開していないクィエは、常備している水筒の水で防ぐしかない。
だが、戦闘の際の彼女は、キャビーの指示がないと動かない。更に言えば、彼女は電気で痺れている。
凡ゆることが一瞬で脳内を駆け巡る。クィエの安全を最優先としているアイネは、クィエを突き飛ばした。
その時、雷を纏った巨体がアイネに迫る。
せめてもの抵抗として眼を瞑った彼女だが、衝撃が訪れることは無かった。
大浪がキャビーを過ぎた瞬間、左右から鋼鉄の如き糸が伸び、大浪を捕らえたのだ。
「ギリギリ。割と危なかった」
キャビーの声が聞こえて、アイネは片目を開いた。すると、大浪の鼻先が視界いっぱいに広がっていた。それの3つの瞳が、アイネを殺そうと狙っている。
「うわっ!?」
驚き、今度はしっかり後退った。
「な、なな何なの!?」
大浪の身体には、真っ白な糸が絡み付いている。口が重点的に巻き付かれており、その糸は3体の大蜘蛛から出ている。
大蜘蛛は、尻を反らせて前方に糸を飛ばしている。脚を使って尻から出た糸を掴み取り、新たな糸を飛ばす。そうやって幾つも糸を巻き付け、大浪の動きを完全に止めていた。
キャビーは糸の硬度を確かめつつ、大浪に歩み寄って行く。
「キャビー、これ……」
「完璧な硬さだ」
彼は糸の硬度に満足し、笑みを浮かべた。
大浪の鋭い眼光は彼を捉えている。すると、それは纏っていた全ての電気を放出し、糸を焼き切ろうとした。
「きゃっ!? まだ元気あるじゃない!!」
だが、糸が焼かれる心配は無い。少なくとも、口を縛ったことで新たな電気は生成出来ず、残ったそれでは糸を切れない。
キャビーは、大蜘蛛の糸に魔力を纏わせていたのだ。
顕現化された生物は、主人の一定の魔力を使い、肉体を保っている。一度顕現すれば、魔力消費はない。但し、沢山の個体を顕現をさせ続けるには、集中力を必要とし、精神の安定は必須となる。
顕現体が保有する能力──大蜘蛛の場合は「糸」になる。生前のそれは様々な物質から混合し生成されるが、顕現体の場合は主人の魔力によって生成される。
能力の使用には魔力が消費されるのだ。
キャビーは、その時に消費される魔力を大きくし、より強力な能力を出力させようと、試みたことがある。
結果から言うと、それは出来なかった。消費魔力を大きくしたところで、それを能力に変換し出力するのは顕現体自身である。生前以上のことは出来ないのだ。
だが、その試みの副産物として、出力後の能力に主人の魔力を負荷することは可能だった。
今回は、それを行ったのだ。
ただ、糸を電気から守ったに過ぎないが、上手くいったようだ。
余談だが、顕現体が能力を出力する際は、顕現体がオートで実行してくれる。今回のように魔力を纏わせるのは、主人が自ら行う必要がある。
前者の、魔力消費を自動で増加してもらい、能力の強化を顕現体の意思で出来れば、最善だった。
「クィエ、アイネお姉さんに嫌われた。嫌われた。嫌われた……」
クィエは地面に大の字で倒れながら、ヒトデのように腕を揺らし、いじけている。
突き飛ばされたのが、ショックだったらしい。
「ちょっ!? クィエちゃん、違うよ。助けようとしたの。ほ、ほら、ワンちゃんが迫ってたでしょ!?」
アイネは必死に弁明する。クィエは彼女を見据えると、手を取るように伝えた。
「え? あ、はい」
アイネは彼女の手を取って、起き上がらせる。
「嫌ってなぃ……?」
「当たり前でしょ。アタシがクィエちゃんを嫌うなんて、有り得ないよ」
「うひひ。じゃちゅーしよ。ちゅぅー」
クィエがタコのような口になっている。アイネは顔を逸らし、キャビーに助けを求めた。
「ねぇ、この子キス魔になっちゃった」
「お前の所為だ」
キャビーは一蹴すると、大浪の身体に触れる。
電気を失った毛並みは、元気を無くし折れ曲がっている。静電気のお陰で立っていたらしい。
「おかしい。なんだこいつ……」
身体に触れながら、キャビーは解析を進める。しかし、それの中にある魂が、通常よりも明らかにおかしかった。
「グゥゥ」
大浪が唸る。少しでも隙があればキャビーを噛み殺そうと、付け狙っている。野生の生存本能は今でも勝利を諦めていない。
「キャビー? コピーするなら、早くした方がいいんじゃない?」
「お姉さん。ぶちゅー」
「ああ、分かっている」
そうは言っても、魂が変なのだ。
大浪のそれは、あまりにも小さく、歪だった。まるで加工されたコアと同じで、欠片のようだ。
すると、大浪は怯えたようにプルプルと震え始めた。
「こ、今度は何っ!?」
アイネが驚くのも無理はない。その震え方は、怯えるにしても物理的におかしかった。
顔や胴、脚を糸が巻き付いている。本来ならば、震えることすら許さない。がっちりと固定されている。
しかし、大浪は凡ゆる糸の隙間から、まるで原型を失う寸前のスライムのように、震え始めたのだ。
キャビーは咄嗟に手を引き、後方へ退がる。
アイネとクィエも、戯れ合いは止めて、それに向き直った。
「お兄様、これ何」
「キャビー、どうする!?」
資料には載っていない未知の生物。何をしてくるか分からない。
「クィエ、準備しろ。まだ解析が済んでいない。殺すなよ」
「はい、お兄様」
クィエが霧を展開したその時だった。
プルプルと震えていた大浪は、身体を分解し、文字通り3体に分裂したのだ。
「は、はいぃ!?」
脚がそれぞれ1対ずつになり、眼は額にたった1つだけしか無い。縦方向に伸びた瞳が、ジロジロと辺りを伺う。
「な、何なの、気持ち悪い……」
キャビー達に向かって、それらは吠え始める。耳を塞ぎたくなるような甲高い喚き声だった。
「う、うっさいわね、もう!」
しかし、突然吠えるのを止めた。まるで何かを察知したかのように耳を立て、3体の動きはシンクロする。
全員右回りで背を向けた。
逃げようとしているらしい。しかし、立ち塞がるのは、同じく3体の蜘蛛だ。
キャビーはサバイバルナイフを取り出し、顕現体に合図を送る。
「クィエ、逃がすな。全て捕獲する」
「う、うん!」
大蜘蛛は命令に従い、一斉攻撃を開始する。各自、糸を発射した。
更にクィエの出現させた氷が、小さくなった狼を挟み討ちする。
大蜘蛛による糸が、クィエの氷が、確実に狼を捉えた。糸は絡み付き、氷の牢屋が被さろうとする。
だがその瞬間、狼を追いかけていたキャビーには見えた。
糸も氷も、全てが空を切ったのだ。3体の狼は、完全に姿を消していた。
「──!?」
クィエが驚き、目を見開く。意味もなく、辺りをキョロキョロと見回した。霧による探知で、それの位置を把握していた彼女だが、突然見失ってしまった。
狼が何処にも見当たらない。
「お、お兄様……っ」
「クィエ、私に着いて来い!」
「え……っ!? あ、はい」
キャビーは消えた瞬間を間近で見ていた。
狼は、地中に潜っていた。
いや、地面に溶けたといってもいいだろう。
夜の闇よりも黒い影が3つ、地面に残っている。それは地面を移動し始めた。
キャビーは影を追って、走る。
所持していたナイフを、影に向かって投げてみる。命中はしたものの、それは止まることなく移動を続ける。
まるで実体がない。
それはもう、この世界には存在していないみたいに思える。
「アイネお姉さんも、早く!」
「え!?」
「抱っこ!」
クィエは有無を言わさず抱きかかえて貰い、キャビーの後を追った。
すると、キャビーは立ち止まり、腕を突き出していた。
手には黒色が混ざったコアを所持している。獣人から抜き取ったものだ。※すいません。描写漏れです。昨夜3人が狩りへ出掛けた時に、獣人との戦闘で抜き取ったことにして下さい。すっかり描写を忘れてました。
彼は腕の中で、コアを握りつぶした。
黒い稲妻と閃光が迸る。
強大なエネルギーが溢れ出した。
彼は膝を地面に落とすと、突き出した腕をもう片方で支える。
「はぁっ!!」
声と同時に、辺りは彼を中心として、真っ黒なドーム状の空間に覆われた。
「こ、今度は何よぉっ!?」
巻き込まれたアイネが立ち止まる。
広がった黒い膜の内側で天地がひっくり返えり、落下する感覚を覚える。しかし、次の瞬間には地面の上に立っていた。
「な、何が起きたの!?」
空は赤く、木は白く──
円形の謎の空間で、キャビーは片腕を突き出し、動こうとしないのでは無く、
空間を安定させるまで、動けなかった。
そんな状況で、彼は叫ぶ。
「クィエ!!」
「任せて、お兄様」
クィエは現象にも動じず、霧を発生させる。アイネにお姫様抱っこをされたまま、手を横に薙ぎ払う。
目標を狼に、氷が迫る。
当の狼らはというと、天地がひっくり返った段階で地面から炙り出されていた。何が起きたのかを理解できず、右往左往して混乱している。
クィエの氷はキャビーを通り過ぎて、敵に襲い掛かった。脚を捕らえ、口を塞ぎ、身体を覆い尽くした。
今度こそ身動きを取らせない、厳重な檻を形成した。
「クィエ。良くやった……っ」
「うん!」
キャビーは震える手を支えつつ、狼らにゆっくり近付く。氷の隙間から手を入れ、それぞれ解析を行なっていく。
狼の小さな身体の割に時間が掛かったのは、この空間を維持しているからだ。
汗が額から頬へ流れる。眉間に寄った皺が解消され、穏やかな表情に戻った彼は言う。
「クィエ……もう、殺していいぞ」
「うん」
狼を囲った氷は膨張していき、中にいたそれらを圧死させた。
ドーム内は、もう一度ひっくり返り、星空へと戻る。現実世界に戻ってきたようだ。
アイネは、目の前で起きたことについて、キャビーに問い掛ける。
「ね、ねぇ、ちょっと。今のって一体何なのさ……」
「闇魔法の一種だ」
「いや、それは何となく分かるけど……いつも突然じゃない。びっくりしたよぉ。結局、何がどうなったの?」
「闇魔法は、裏と影を司っている。あれは、このどちらかの魔法を使用していた」
『裏』による有名な魔法は、裏世界魔法だ。『影』による有名な魔法は、影魔法だ。
前者は裏世界──現実と反転した世界に行くことが出来る。後者は影の中に入ることが出来る。勿論、影を操ったりも出来るが、その辺りは人それぞれだ。
「今回は影の魔法じゃなかった」
夜に現れる影は、月明かりによるものだ。現在月は、聳え立つ巨木から顔を出しており、キャビー達の立っている場所は、光と影の両方が存在している。
「狼どもは影を伝って移動している訳では無かった。影になっていない地面に、黒い影が移動していからな」
「へぇ、よく見てるねぇ。ってことは、あれは裏世界を移動してたのね」
「そうだ」
表と裏は表裏一体。影は、丁度その境目となる。裏に存在するものは、必ず表世界に影を残すのだ。
「異空間魔法で異界化させて閉じ込め、その中だけを反転させて、裏世界に強制的に引き摺り込んだんだ」
「え……ちょっと、言ってること凄すぎない!? アンタ、そんな魔法使えたの!?」
「お兄様、しゅごい」
「いや、コアを破壊してようやく展開出来ただけだ。維持するだけでギリギリな上に、魔力消費も段違いだった。魔力増幅率が高いとはいえ、流石の私もキツかった」
それに黒いコアは、あれしか残っていない。
ギィーラ時代──人間の前線基地を襲撃する為に、裏世界に入ったことがあった。また、異界化に関しても初見ではない。
裏と異空間を応用した、先の魔法については初めて使用した。だが、決して今考えた訳じゃない。
以前──
「キャビーちゃんはいっぱい思い付くのね。凄いなぁ。羨ましいなぁ。ねぇ、他には??」
「え? えっとですね。後は、裏と異空間を併用してみたりなんかして──」
ファイと寝る前に魔法の組み合わせを話したことがあった。その時に思い付いたものだ。今回、偶然それが合致したに過ぎない。
「そっかぁ」
アイネは地面に落ちたコアの破片を見る。明らかに破片の量が多く、加工したコアでは無く、生物から抜き取った本来のコアを破壊したことが分かる。
馬車に積んでいたものだろうかと、アイネは推測しているが、本当は昨夜戦闘した獣人から抜き取ったものだ。
「でも本当に凄いね。キャビーが居なかったら、ここまでスムーズに進まなかったよ」
「ねぇクィエは!? クィエはどぉ!?」
アイネに見えるよう、クィエは手を挙げて飛び跳ねる。
はいはい、とアイネは言って、頭を撫でた。
「クィエちゃんも、凄いよ! 来てくれて有難うね」
「いひひぃ」
キャビーは相当疲れてしまったのか、草臥れた身体を大蜘蛛に預けた。
そうして、一向は拠点に急ぐのであった。
★
遠く。闇に紛れた彼女が、じっと何かを観察していた。
「コンナ浅瀬二人間ガ居タトハ──」
「生キテ返スモノカ……!!」
『作者メモ』
※追記。72話まで「大狼」が「大浪」になってしまってます。
すいません。描写漏れがありました。プロットやストック段階では抜き取っていたんですが……
ドラゴンモドキって糞ダサいので、スキゥーエルって呼ぼうかしら。領域展開は、まぁ……。
後、ファイと魔法の組み合わせを語ったシーンは、過去の話に追加しようと思います。いつかね。
一番最後のシーン、喋り方とか変更の可能性ありです。※既に変更済み。
話が進んでいない上に、色々申し訳ないです。
また見て下さい!
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