第13話 顕現魔法 ② 5月5日改稿

 キャビーは、黒い単色のコアを体内に所有している。つまり闇魔法に限り、最高レベルの適性を持っている。


 

 闇魔法が司るのは主に<発現・消失・吸収・裏・空間・魂・影・?>など、幾つかの系統に分類される。



 適性が高いほど、多くの系統を所有している。



 例えば「裏」。



 世界には「表世界」と「裏世界」、そして「異空間」が存在している。本来はその存在を身体や脳が知覚することは不可能だ。



 しかし、闇魔法に適性を持ち、尚且つ「裏」の系統を所有していれば、「裏世界」の知覚が可能となる。



 魔法は身体が使い方を知っている。



 闇魔法適性を所有していれば、該当の系統に関することを自然と知覚出来る。



 キャビーは、生前の適性(火と光)の感覚が残ってしまっており、闇魔法を上手く扱えていなかった。



 だが試行錯誤を重ね、最近になって少しずつ闇魔法特有の空間や裏世界の知覚が可能になった。特に「空間、魂、発現」の系統は、彼の得意分野だ。



 キャビーは、コアに魔力を通す。



 闇魔法の司る「空間」の知覚。



 動いているモノ、止まっているモノ──周囲のありとあらゆるモノが、



 どのような形で、何処に位置しているのかを把握できる。眼を閉じていても、衝突することなく、歩くことが可能となる。



 それから──



 石を拾い、真上に投げる。すると、途中でそれは消えた。



 ほんの僅かに開いた「裏」世界に入ったのだ。



 少しして、石はキャビーの脚元へ。



 落ちた衝撃や音はあった。しかし、それは黒い影を残しているだけで、表世界からは本体の石は見えない。



 裏と表は表裏一体。まるで鏡合わせのような存在だ。その境界となるのが、影だ。



 だから、裏に存在するものは、表では影となって現れる。



 もう一度、裏世界を小さく開く。



 すると、投げた石があった。表世界に戻す。


  

 次に石を指でなぞると、それはゆっくりと「消失」し、跡形もなく消えてしまった。



 最後に異空間を開き、新たな小さな石を取り出した。



 今は未だ、闇魔法を上手く使用出来ない。先程も述べた通り、それは生前持っていた火と光の記憶が混ざってしまっているからである。



 身体は使い方を分かっているのだろうが、脳が理解していない状態だった。



 今後は、それらを結び付ける必要があった。


★ 

(※12話の続きです)


 キャビーは1匹の死結蝶を、肩の上に出現させた。



「い、生き返った!? でも、ちょっと違う……?」



 それは死結蝶と瓜二つの姿をしているが、身体の色が違っている。



 翅は透明でなく、初めから黒く染まっている。赤い複眼を持ち、じっとアイネのことを伺っていた。


 

 彼女はそれと眼を合わせ、尋ねる。



「キャビー、これは……? 魔法なの?」



「<顕現魔法>という」



 闇魔法の「発現」「魂」「空間」を利用した魔法──顕現魔法。



 具現化した肉体に擬似魂を入れ、生前のそれを模倣させる。


 

 必要なのは、肉体の情報と、魂の情報。それと、個体に備わった能力の情報。



 対象に触れて、肉体の構造及び、魂の形を知る。見て、聞いて、それの能力を知る。



 肉体と魂さえ正しく出力出来れば、後は付加した能力──今回の場合は、神経毒をキャビーの魔力を用いて、蝶が勝手に合成してくれるのだ。



「これはいい。とてもしっくり来る」



「顕現……? どういう意味?」



「……つまり、複製体を作ってる」



「何それ、凄いね。アタシにも出来るかな!?」



「知らない」



「えー、なんで。教えてよ、やり方」



「……お前、闇に適性はあるのか?」



「アタシは、火と雷と風! どぉ? 3つもあるんだよ、凄いでしょ」



「話にならない。帰る」



 キャビーは虫網を持ち、踵を返した。



 アイネは立ちはだかるように、彼を止める。



「待ってよ。もうちょっと、それ見せて」



 キャビーの肩に乗った、顕現化された蝶──それはゆっくりと翅を開閉している。



「カッコいい。ねぇキャビー、カッコいいねこれ」



「カッコいい……?」



「うん。赤と黒、カッコいい」



「そうか……ふーん」



「ん? あれ?」



 アイネは嬉しそうに、でも素直になれずちょっと恥ずかしそうにするキャビーに気付いた。



「……めちゃめちゃカッコいいよ、キャビー」



 もう一度、褒めちぎってみる。

 カッコいいという言葉は、魔族にとって至高の褒め言葉だ。



「……じゃあ、特別に触らせてやる」



「え、いいの!? やった」



「うん」



 キャビーの肩から蝶が飛び立ち、アイネの腕に止まった。彼女は嬉しくなって、奴隷の元へ駆け出して行く。



「メリー見てこれ。貸して貰ったよ」



 ついさっき「メリーなんて嫌い」と言った彼女だが、すっかり忘れているらしい。



 メリーは微笑み、言う。



「良かったですね、アイネお嬢様」



「うん! ──あれ?」



 すると、アイネは蝶の異変に気付く。



 それは、アイネの掌を注視しているようだ。



「どうしたの? アタシの手が気になる?」



 腕に止まった蝶に、掌を広げて見せてあげた。



 その時になって、アイネは自身の手に血が付着していることに気付く。



 メリーの血液が未だ残ってるのだ。



 既に乾いて固くなっているそれに、蝶は近付いていく。



 ストローを伸ばし、血を吸おうと試みる。



「あはは、くすぐったい。ねぇ、キャビー。この蝶って食事するの?」



 彼女は振り返り、キャビーに尋ねる。



「いいや。必要ない筈だが──」



「そうなんだ。じゃあ、これは──痛っ!!??」



 アイネは手に激痛が生じ、叫んだ。反射的に蝶を振り払う。



「ア、アイネお嬢様!?」



 しかし、蝶はその場から離れず、アイネの右手に引っ付いたままだ。



「い、いい痛い痛い痛い──っ!?」



「ど、どうしたんですかっ!? 見せて下さい」



「ま、待って本当に痛いっ!! うぅ、無理無理──」



 アイネは蝶を振り払おうと、腕を振ってみたり、反対の手で叩いてみるが、頑なに離れようとしない。



「アイネお嬢様、腕をお見せ下さい!」



「は、早くなんとかして!! メリー!!」



 彼女は、痛みのあまりその場で座り込み、腕を強く押さえ込む。その隙に、メリーは彼女の容態を確認する。



「こ、これは──」



 蝶は、普段隠している顎を使い、アイネの皮膚を噛んでいた。噛まれたところが圧迫され、赤紫色に腫れている。



 更にストローが差し込まれ、血を吸い上げていた。



「じっとしてくださいね。い、今、取りますから」



 メリーは蝶を掴み、引っ張る。



「い、いい痛い!! 痛いって、メリーのバカっ!!」



 蝶の顎が、がっちりと彼女の皮膚を捉えて離さない。



「そ、そんな。どうすれば……」



 メリーは奴隷である手前、キャビーの所有物である蝶に、傷を付けられない。



 だがもう、蝶を殺す以外に方法は──



 確認の為、彼に尋ねてみよう。

 そう思い、眼をやる。



 キャビーは、愉快そうに笑っていた。



「……え?」



 メリーは怖くなって、キャビーに話し掛けられなかった。



 しかし、主人であるアイネを助ける為、蝶を握り潰した。



「ア、アイネお嬢様……大丈夫ですか?」



 蝶の顎は、肉を挟んだまま残っている。注射器のような針も刺さったままだ。



 血を吸われていないからか、痛みは幾分かマシになり、アイネは顔を上げる。



 涙を浮かべていた。



「メリーのバカっ」



「も、申し訳御座いません。遅くなってしまい」



「噛まれたのだって、アンタの血のせいじゃない!! ホント嫌い」



「申し訳御座いません……」



 痛みは続いているものの、落ち着きを取り戻したアイネは、キャビーに問い掛ける。



「ねぇアンタならこれ、消せるんじゃないの!? アンタの魔法なんでしょ!?」



「うん」



「だ、だったらもっと早くしてよ。痛かったんだから」



 キャビーは蝶の残骸に手を翳すと、それを消滅させる。



「毒までは消せない。私は今度こそ帰る」



「ど、毒は私にお任せ下さい!」



 メリーがサッと近付いてきて、言う。先程の失敗を取り戻そうと、意気込んでいるようだ。



 キャビーは少し気になって、脚を止めた。



「ホ、ホントに大丈夫……?」



「お任せ下さい! 手を出して下さい」



 アイネの差し出した右腕に、メリーは両手を翳した。腕の周りに円を作るように、翳した両手を動かしていく。



 アイネの右手から、青白い輝きが放たれる。メリーの強い念に呼応し、アイネの腕から水滴が生じ始めた。



 やがてそれは集まり、大きな水泡を形成する。



「では、無毒化してから吸い出します。ちょっと痛みますが……」



「う、うぅ……」



 水の塊に、ぶくぶくと気泡が現れる。まるで沸騰するかのように、泡が生じていく。



「浄化魔法。凄く珍しい魔法だ」



 思わずキャビーも見入ってしまう。



「え、えへへ……」



「ど、どうして頬を赤らめているの!? この子、3歳なのよ!?」



「も、申し訳御座いません。つ、つい……褒められるのって慣れてなく──あっ」



「ひぃっ──!?」



 水泡に水流が発生し、毒素だけを吸い出すのが本来の方法だった。



 しかし、気を散らしたメリーは、アイネの血液ごと吸い出してしまい、透明な水泡を真っ赤に染めた。



 大した血の量ではないが、水泡全体に広がったお陰で見た目のインパクトが強く、アイネにショックを与えてしまった。



 結果、気を失ったアイネは、ばたりとその場に倒れ込む。



「う、うそ。アイネお嬢様!?」



「私は知らないからな」



「ま、待って! キャビー様!!」




『作者メモ』


 顕現魔法とか、闇魔法とか何言ってるか分からないかも知れません。


 取り敢えず、コピーを出せると思って下さい。


 空間とか裏とか、本来人間が知覚出来ないことを闇魔法なら感じ取れる。闇魔法なら、というか闇に適性を持っていたら、感覚で分かる。みたいな感じです。


 何となくで大丈夫です。

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