第9話 適性魔法検査<コア写し> 後編
「ファイ。このガキのコアは、もう調べたのかにゃ?」
「いえ、まだだけど」
「折角だし調べると良いにゃ。お前の血を引いているなら、高い適性を持ってるかも知れないにゃ。絶望的なセンスも引き継いでるかも知れないけどにゃ」
「うぅ……だってさ、キャビーちゃん、やってみる?」
尋ねられたキャビーは、即答する。
「いやです」
半年前に起きた魔力暴走──
あれは誤ってコアに魔力を通したことで起きたのだ。
言わずもがなコア写しは、自身のコアに魔力を通さなければならない。
キャビーはあれからたったの一度も、コアに魔力を通していない。つまり、属性魔法を使用したことがない。
「キャビーちゃん、どうして? 別に怖くないのよ。見ておいた方がお得だよぉ〜」
「やっ!」
キャビーは外方を向き、断固拒否の構えを取る。
「ええっ!? み、見ないの? お母さん見てみたいなぁ〜。キャビーちゃんのここ。見てみたいけどなぁ〜」
キャビーの胸に、ファイの手が触れる。
「別に見てもお得じゃないのにゃ」
「ちょっ!? ミャーさん、余計なこと言わないでください!」
「本当のことを言っただけにゃ。そのガキはクライン家の長男にゃ……つまるところ農家の後継になるのにゃ──
その為に、生んだ子供だにゃ」
「……っ」
キャビーの心臓がピクリと、1度だけ大きく鼓動する。彼女がたった今口にした言葉に、強いストレスを生じた。
本の1年と少し前に、聞いたことのある言葉だ。
胸が響めき出す。暗雲のような何かが、胸の中を行ったり来たり、掻き乱してくる。
突如出現する理解不能な感情。
「お前はその為だけに存在している」
子を生んだのであれば、至極当然のことだ。子は親の所有物。父に報いる為、人類を抹殺する。又は、その助力となる。それが魔族という種に生まれた、魔王の子として生まれたキャビーの崇高なる使命であり──
確かに本心からの願いでもあった。
だが、当時よりも更に強く、自覚出来るほど強力に、彼は感じるのだ。
恐怖と不安、そして何故か悲しみまでも。
助けを求めたい訳じゃない。どのように思っているのか、確かめたかった訳でもない──
しかし思わず、本当に自然な流れで、キャビーはファイに顔を向けていた。
キャビーが自分の胸に手を当てたのを見て、ファイはその上から閉じるように手を重ねる。
「キャビーちゃん……?」
震えた手。徐々に高鳴る心臓。僅かに露わになった彼の本心──
怯えている。
どうして怯えているのかは分からない。ただ、守ってあげなければ、とファイは思い至る。だから、彼を安心させる為の言葉を紡いでいく。
「大丈夫だよ、キャビーちゃん」
「はい……」
「キャビーちゃんは、何にでもなれるんだ。貴方が望むものなら、何にでも。たとえ勇者であっても、きっと──だから、ね?」
微笑む母に、キャビーは表情を作れなかった。だがしかし、とても複雑に心が揺れている。
キャビーはファイから眼を逸らさなかった。
「だから跡を継ぐ必要は無いってかにゃ? それじゃあ、何の為に子を生んだのか分からないにゃ。金が掛かるだけにゃ」
「うん……ほら、やっぱり好きなこと、して欲しいじゃない?」
「……悪いとは言わないにゃ。でも、やっぱりお前、変にゃ。人間じゃないにゃ」
「う、うぅ……」
どういう理由で作るにしろ、子供に何かをさせたい、という親の願いは必ず存在する。アルトラル王国でのその殆どは、自分の跡を継がせることにあった。特に長男であれば、尚のことだ。
子に道を示す。これも親の役割だ。
そういった意味でも、ミャーファイナルは彼女を常人とは違う、と言っている。
「と、とにかく! 今はキャビーちゃんのコアを見るんだから!」
「嫌がってるにゃ」
「嫌がってるけど!」
ファイは頑なだった。
彼女はキャビーを持ち上げると、自身の膝に座らせた。彼の細い腕を持ち「ねーねー」と語り掛ける。
「どうして嫌なの? 怖いの?」
コクッとキャビーは頷く。
「不気味なコイツも、ちゃんとガキなんだにゃ」
「な、ななんてこと言うの!?」
ファイはうーんと悩み、そしてふと思い付く。
「──あ、そうだキャビーちゃん。私ね、魔法は使えないけど、不思議なことが出来るの」
彼女はそう言うと、コアに魔力を通し始める。
すると、儚い白が彼女らを包み込み、ファイの背に6枚の翼を生やした。それは光り輝き、大きく広げられる。
「お、お前……魔法は、使えないんじゃなかったのかにゃ!? それより、これは──」
「あはは……これね、見た目だけで、使い方よく分からないの」
「だとしても、これは列記とした魔法にゃ。お前、一体何者にゃ……?」
ミャーファイナルの鋭い眼を前に、ファイは誤魔化すように苦笑する。
「ね、キャビーちゃん。どう? お母さん、凄いでしょう?」
初めて見た魔法だった。火を飛ばしたり、風を操ったりと、そういった類いの魔法では無い。
単色のコアだから成せるワザだろう。
キャビーの身体に秘められた才能、そして彼女の持つ珍しい単色のコア。それらを踏まえると、彼女は母体として優れている。
何故彼女がそうまで特別なのかについては、保留にするとして──
「すごいです」
「でしょでしょ! えへへ」
魔法の使い方は身体が知っている。身体が、脳が、無意識的に理解している。
その為、「実は水魔法にも適性があった」なんて言うケースは、稀である。
さて、キャビーの場合だが──
前世の記憶が混在しているのが原因だった。
前世で適性があったのは、火と光。その使い方が、なまじ記憶に残っている所為で、現在の身体に宿っている属性魔法の使い方が分からずにいた。
魔力暴走の恐怖もある。それに加えて使い方が分からないとあれば、属性魔法の練習も難しい。
一度でも発動させれば、直ぐにコツは掴めるのかも知れない。しかし、事前に適性のある魔法を知っているのと、そうでないのとでは、初期の習熟に差が生まれる。
またキャビーの場合に限り、知らない適性魔法が生まれる可能性は、大いにあった。
「はは、うえ」
「はい、お母さんですよぉ」
「そのままでいてください」
「え? うん、任せて!」
改めて、キャビーは透明なコアに向き合った。
如何してか。ファイの発する天使を模した光は、「頑張ろう」という気にさせて来る。それが勇気であることを、彼は未だ知らない。
「コアをみます」
「キャビーちゃん……分かった。ゆっくりでいいからね」
ファイは後ろからキャビーを支えるように抱き締め、準備が整うのを待っている。
以前と比べ、魔力操作は随分と向上している。子供の身体は、前世の記憶がある点を踏まえても、成長に眼を見張るものがある。
しかし、痛みが蘇ってくる。胸が破裂するような、そんな嫌な感覚──もう2度と味わいたくない。
これほど脆弱な精神力だったとは、知らなかった。いや、人間になったからだろうか。何処か精神も幼く、幼稚だ。
しかし、人間となって1年。魔族としての自分に、折り合いを付けなければならない。
これも魔族の為、乗り越えなければならない。
「いきます」
「うん」
ファイから発せられるのは、今にも消えてしまいそうな儚い輝きではあったが──
妙な心地良さも感じていた。
6枚の翼は一度大きく羽ばたくと、花びらのように舞った羽が、光りの波紋を残して地面に消えた。
まるで希望を具現化したような輝きは、キャビーに理解し難い高鳴りを与える。
6枚の翼とファイの腕が、キャビーを繭のようにキャビーを包み込んだ。
キャビーは、両手を水晶体に翳す。
針に糸を通すように、自身のコアにごく少量の魔力を注入していく。グルグルと魔力が増幅し、一気に吹き荒れる。
あの時とは違い、暴発はしなかった。
属性の付与された魔力を、腕から手に──そして、透明な水晶体に入れていく。
すると水晶体は反応を見せた。
中心から、煙のように色が生じていく。増幅した強い魔力により、ピキリとコアにヒビが生じた。
「──ば、化け物にゃ」
ミャーファイナルが漏らす。キャビー自身も驚愕を禁じ得なかった。
一切の光を通さない深い闇が、水晶体に映し出されていた。
闇魔法に高い適性を持つ黒一色のコア。
魔王より受け継いだ身体でさえ、単色にはなり得なかった。コアの質自体も、それを凌駕している。
「お前達何者にゃ。父親は誰なのにゃ」
ミャーファイナルの言葉に返すものは居ない。
「化け物にゃ……」
キャビーとファイは、禍々しい闇に眼を奪われていた。
「キャビーちゃん。凄く綺麗ねぇ」
水晶を覗き込んでファイは言う。初めてキャビーを抱いた時と同様にうっとりとした表情を浮かべていた。
「はい」
彼も静かに同意を示すのだった。
『作者メモ』
こ、こんな感じでどうでしょう。ちょっと丁寧過ぎますかね?
魔法の説明ってどうしても必要ですが、読者が見たいのはここじゃないですよね。当作品は、ファイとキャビーの関係に重きを置きつつ、他の転生作品のように戦闘や無双、勘違い、等そういった部分もちゃんと描いていきますから、ゆっくりお待ち下さい。
質問、感想、良いところ、直して欲しいところ、何でもコメント下さいね。
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