第8話 適性魔法検査<コア写し> 前編

 キャビーの魔力暴走から半年──



「まじでセンスないにゃ。終わってるにゃ」



「うぅ……」



 カタリナ村の兵士訓練施設内の医療所にて。



 ファイは、ミャーファイナルから光魔法を教わっていた。キャビーの魔力暴走をきっかけとし、魔法が一切使えない彼女は光魔法──治癒魔法の習得を決意していた。



 私がこの子を守る──



 そう意気込んでいた割に、順調とは程遠いところに居た。



 高い光魔法適性があることは、彼女の自己申告ではあるが分かっている。にも関わらず、彼女の要領の悪さは、それを無に帰するほどであった。



「半年練習してダメなら、やっぱり無理にゃ。諦めるにゃ」



「うぅ、キャビーちゃん、どうしようぉ……」



 隣で、良い子にお座りをしているキャビーに、ファイが泣き付く。



 彼はそんな彼女を、受け入れるでもなければ、決して拒絶もしない。



 彼女との関係に亀裂を入れない。それがキャビーの、現状の行動方針だ。



「魔法の使い方ってのは、普通身体が知っいるものにゃ。勿論センスの無い奴は居るけど、お前ほどじゃないにゃ」



 野鳥は巣の作り方を知っている。魚は産卵の為、自ずと川を登る。呼吸をする、涙が出る。



 どれも誰かに教わった訳ではない。遺伝子に組み込まれた生物としての本能がそう駆り立てる。



 それは魔法も同じ。



 魔力を発生させ、感じ、コントロールし、コアに通す。一連の流れは、身体が使い方を知っている。



 心臓部にあるコアに魔力を通すことで、コアの色に応じた属性が宿る。通さなければ無属性魔法となる。



 火を付ける。水を出す。風を起こす。



 どれも発動に対するイメージは各々で違う。たとえ同じ魔法であっても、各自のイメージによって若干の効果変動がある。



 良し悪しはあれど、魔法の発動は本来教えられずとも出来るものだ。



「そもそも、お前が光魔法を使えるってのは、何で知ったのにゃ?」



「そ、それは……コ、コア写しでしょ……?」



「……怪しいにゃ。やっぱりもう一回調べるにゃ。高い適性があると言うから、もしかしたらって練習してたけど──お前を信用したみゃーが悪いにゃ」



「う、嘘なんて付いてないよぉ。どうして、そんな酷いことを……」



「へなちょこな適性だったら、脚をナイフで突き刺すにゃ」



「そ、そんなぁ……」



 ミャーファイナルはサバイバルナイフを机に置く。ギラリと瞬いて、先端がファイに向けられた。



「大丈夫にゃ。重度の損傷をしない限り、みゃーが完璧に治癒出来るにゃ」



「そ、そういう問題なの……!? キャビーちゃん、助けてよぉ」



 ファイはキャビーに身体を寄せると、我が子を盾に取る。



「みゃーの半年分を無駄にした罰にゃ。別に申告通りなら、何もしないにゃ。ちょっと待ってるにゃ」



 「この前丁度死んだ仲間からコアを引き抜いて来たにゃ」と言い残して、医療所を出て行った。



 暫くして──



 彼女は透明な水晶体を持ってきた。拳くらいの大きさをしたそれをタオルの上に起き、まるで占いでもするかのように手を翳す。



「見てるにゃ」



 すると、透明な水晶体は、緑と黄を示した。緑が6割程度を占めている。



「これがみゃーのコアにゃ」



「みゃーさんの適性は、風と雷……ってこと?? あれ、光が無いじゃない」



「みゃーは天才だからにゃ。光は別途でコアを用意してるのにゃ。いつも持ち歩いてるこのナイフに付けてるのにゃ」



 彼女が机に置いたサバイバルナイフに、小さな水晶体が輝く。柄に嵌め込まれたそれは、白と緑で色分けされている。



「そ、そうだったんだ。あれ、でも生まれ付き持っていない属性は──」



「言いたいことは分かるにゃ。身体が知らない魔法は、体外にコアを用意しようと発動出来ないにゃ」



 但し、火を付けたり、水を出したり等──生活魔法程度であれば、練習次第で発動自体は可能である。



「みゃーが奴隷から解放され、アルトラル王国の兵士になれたのは、光魔法のセンスが奇跡的にずば抜けていたからにゃ。つまり、天才にゃ」



「みゃーさん……」



「ま、偶然出来ただけにゃ。本来適性外の魔法を訓練するのは、非効率にゃ。ささ、お前のコアも見せるにゃ」



 死亡した後に心臓から抜き取られたコアは色を失う。属性を有したコアを引き抜く場合は、死亡前か直後でないとならない。



 透明になったコアに価値は無いが、属性の付与された魔力を通すことで、間接的に自分のコアを確認出来た。


 

 <コア写し>と呼ばれる、検査方法だ。



「やり方は分かってるだろうにゃ?」



「え、ええ……じゃあ、行きます!」



 意気込んだファイは、目前にある水晶体に手を翳した。祈るように魔力を込めていく。


 

 すると──



 優しい輝きが水晶体に溢れ、やがて全てが真っ白に染まる。濁りのない、初雪よりも綺麗な白を、そこに描いた。



「し、白一色……っ!? す、凄い適性じゃないかにゃ」



「あ、あはは……そうみたい」



「おい、一度見てるんじゃなかったのかにゃ!?」



「え、えっと……それは、うん──」



 隣で、キャビーも思わず声を漏らす。転生して1年が経過し、辿々しい言葉を発するようになっていた。



「すごい……」



 母が写した<単色のコア>──



 適性がひとつしか無い代わりに、その色が宿様々な魔法を高次元で行使可能とする。



 適性属性が多ければその分、力は分散されてしまう。



 あぁ──



 不意に、魔族としての純粋な殺意が心に現れた。



 ──いつか、母の心臓から抜き取ってしまいたい。



『作者メモ』



 タイトルを付けた方が、この話で何をしたいのかを示せて分かりやすいでしょうか。


 一応付けていく予定です。



 良ければ、ご自由にコメントして下さい。


 分かりにくい箇所とか、これ微妙じゃない?って箇所があれば教えて下さい。

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