第8話 花の御伽話
その晩、童女になった私は、青年インキュバスとなった恋人にけちょんけちょんにされた。
翌朝、オーウェンはぐったりとした私を軽々と抱き上げると、川辺に運んで清めてくれた。驚きだ。この七年間、むしろ私がオーウェンを抱え上げる事の方が多かったのに。
ついでのように洗濯も済ませたあと、私たちは焚火を熾し、服が乾くまで身を寄せ合って暖を取り始めた。
「今度は、私が元の年齢に戻る魔術を探さなくちゃ……」
「思い当たる節は?」
「ないぃい……」
「ううむ」
オーウェンは若返ったけれど、お爺さん口調を今更戻すのは難しいらしい。私もすっかり聞き慣れてしまった。
「まあ、儂も魔族になったし。……二千年くらい生きれそうな気がするし、のんびり探せば良かろう」
「……うん!」
彼の大きな手が私の髪を撫でる。
額に唇が触れ、ちゅ、と柔らかい音が鳴った。
「リリアナ」
「なあに」
「あの日、花を摘みに行ったこと、ずっと後悔していたじゃろう」
「うん、そりゃあ……」
「はは。けれど、花の御伽話は本当じゃったな」
「――」
「儂は死に際にお前と過ごせるだけで充分じゃ、身に余る幸福じゃと自分に言い聞かせて生きてきたが」
「うん」
「……こうしてお前と同じ魔族になれて、今、とても嬉しい。リリアナ。あの日、エターナを摘みに行ってくれてありがとう」
「――――!」
頬が熱った。
かつての後悔が、朝の日差しと恋人の腕の中で、融けていく。
私は大きく大きく頷いて、思い切りオーウェンに頬擦りをした。
恋人の体温を慈しみ、その肌の香りを深く吸い込む。
オーウェン。私の大好きな、唯一無二の恋人。
ずっと一緒にいたい。貴方もそう願っていると、私は信じている。
「どういたしまして、オーウェン。――これからも、末永くよろしくね」
おしまい
ぽんこつサキュバス娘、最愛の恋人に会いに人間界に戻ってきたら、うっかり50年経ってた?! よながねね @nanukazame
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます