第6話 儀式の始まり
それから五分後、オーウェンは腹を括ったようだった。
「どうせ死ぬなら、腹上死がいい」
据わった目での不穏な言葉に、「死ぬのダメ!」と頭を振る。
けれど人間の雄にとって、一晩で五回も達する事がどれだけ大変なことなのか。サキュバスの私はよーく知っている。
(息切れ……血圧上昇……心臓発作……、不安……!!)
「――案ずるより何とやら、とも言うしのう。ここまで来たのじゃ。とにかく、試そう。どうせ死ぬなら、お前を抱いて死にたいというのも、若い頃からの夢よ」
「オーウェン」
「……それに、万が一、碌でもないことになっても愛してくれるって、この冒険に出る前に約束したろう」
「……! うん」
禁術に挑む覚悟を決めた彼の言葉に、私も意を決する。
私はオーウェンの絶対的最愛の恋人であると同時に、かつて吸精姫とも呼ばれたサキュバスなのだ。
この七年間、一度も使う事のなかった淫術を解き放ち、お爺ちゃんのオーウェンを五度導いてみせる――!
そして、私たちは準備を始めた。
幸いにもマンドラゴラのエキスを小瓶で所持していたため、森でスライムを仕留めるだけで材料は揃った。祭祀場で魔法陣を描き、夜を待って儀式をはじめる。
そして――
「あっ……ぁぁああッッ」
儀式を始めて、三秒。
私の体に稲妻のような快楽が走り、下腹にオーウェンへの忠誠を示すハート型の模様が浮かび上がった――!!
「いや――ちょっと、リリアナ、早すぎじゃないか!? 儂まだキスしただけじゃぞ!?」
「でもでもっ、だってぇ、願いが叶うと思うと、うれしくてぇ……っ」
気が早いかもしれないけど、期待で胸がどきどき高鳴っている。
全身がオーウェンに対してとても敏感になっていて、ちょっとの刺激でも喜びが弾けてしまうのだ。
「くそっ……儂のことが大好きか! 呪文を唱えるぞ――」
「うんっ♡」
「――――闇の申し子よ 光の花より導かれし 我と共に歩まん 我が心の深淵と 御身の深淵を結びつけ 永久の誓いを今ここに――麗しの魔乙女よ、我に従え――――」
「――――――ッ゛」
ゴ……ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴコゴ!!!
ピカァァァァ――――!!!!
凄まじい音と共に祭壇が震える。
私たちを囲む魔法陣が、眩く光り輝いた。
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