第35話
その日の夜の中国報道。
「本日、ウイグルから南下していた青御神乱が広州市に到達。広州は火の海となりました」
「しかし、かけつけたチェン中国国家主席の説得により、この御神乱は人間に戻ったとの目撃情報があります。その後、収監されたこのウイグル人がどこへ連れて行かれたのかは、分かっておりません」
「尚、この青御神乱のターゲットは、香港にテロリストたちが陣取っているネオ・クーロンだと思われており、香港の白御神乱たちは、一時広州に大挙して移動していましたが、現在は、香港で眠っているとのことです。おそらく、香港を襲撃に来たウイグルの青御神乱を迎撃するために、テロリストたちは香港の白御神乱を移動させたものと思われます」
シーワンのSNSが更新された。
「チェン主席は、広州の青御神乱を人間に戻したと報道されてるけど、本当は違うみたいよ。彼女を人間に戻したのは、主席に同行していた夫。彼が奥さんを説得した。これが真相よ。そして、これがその時の様子」
アディルが目の前のリズワンを涙ながらに説得している様子が公開された。
「サオ司令官、モバイルの発信状況からして、同志チェンは広州付近にいるもようです」上海の諜報部を占拠していたサオの部下が言った。
「そうか。次はどこに向かうか分かるか?」
「方角的には、四川(スーチョワン)かと思われます」
「では、我々も四川へ向かうぞ」
「はっ」
「ところで、司令官、ちょっと気になることが……」
「何だ? 言ってみろ」
「チェン主席のモバイルの位置とシーワンのSNSの発信されている位置が、いつも近いんです。例えば、今回の広州の前は、カシュガルでしたし……。もしかして、シーワンQとチェン主席は、何らかの関係があるのではないかと……。それに、シーワンは、今までもずっと国家規模のセキュリティーをかいくぐれていますし、常に国家の中枢にいる人間しか知らないようなことをSNSにアップしてきました」
「じゃあ、何か? 同志チェンがシーワンQだとでも……?」
「はあ……。まあ、そこまでは言っておりませんが、何かしら関係があるのではと……」
「まさか!」
「で、でも……、もしも、次のシーワンの更新が四川であれば、もはや疑いの余地はないかとも……」
「……」考え込むサオ。
「司令官、この広州のインターチェンジで青御神乱を説得しているウイグル人の画像を見てください。シーワンのSNSです。これを映したのは、これは一体誰が撮影したんでしょう? 隣にいたシーワンしかないはずです。しかし、一体どうやってここにシーワンは行けるんでしょう? どうやって広州とか上海とかを高速で移動できているんでしょう? それは、国家首脳部の人間だからじゃないでしょうか」部下が自説を主張した。
これを聞いて、サオは考えた。
「そう言えば、あの天安門広場で、人間に戻ったウイグルの御神乱を虐殺した映像、あれだって、一体誰があれを撮影したんだ? あそこにいたのは、同志チェンだ。であれば、あのときあの場面を撮影したのは、同志チェンだということか……」
そのとき、部屋の外を見張っていた部下が、大慌てて部屋に入って来た。
「大変です! 公安の車が外に来ています」
「何!」
すると、ドカドカと階段を昇ってくる複数の足音が聞こえ、公安がなだれ込んできた。彼らは手に手に拳銃を構えていた。
「銃を捨てて降伏しろ! サオ・ハオユー」公安の一人が通告した。
「応戦しろ!」サオが言うと、サオの部下たちは、それぞれの自動小銃を身構えた。
若干のやりとりの後、公安の一人が威嚇発砲したのを皮切りに、銃撃戦になった。
しかし、拳銃と自動小銃とでは、闘いにならなった。公安は皆殺しにされ、サオの一味は部屋を出て、四川方面へと出発した。
ネオ・クーロン内、ハーが再び商談室へと出て行った。それを確認した俊作たち三人は、再びハーの部屋に忍び込んだ。
天井に貼り付けていたスマホを回収する。そして、シュングァンがゲットしたIPアドレスとキーワードをもとに太宇に再度のアクセスを試みた。
「やった! アクセスできました!」シュングァンが喜びの声をあげた。
「そうか!」俊作が言った。
「あれ? ……でも、これ……」シュングァンが不思議そうに言った。
「どうしたんです?」俊作が画面を覗き込んだ。
「このWUが覚醒(ウェイクアップ)モード、SLが睡眠(スリープ)モード、そして、このCDが人間に戻す鎮静(カームダウン)モードかと思うんですが、カームダウンボタンは、どこともリンクが張られてないんです。このボタンは、単なる画像だけなんです。これでは、御神乱たちを人間に戻すことができない!」シュングァンが説明した。
「カームダウンモードは、そもそも存在していないということか」
「はい、もしくは、未完成だったのかも……。それと、……これは静止衛星太宇が積んでいるサーバにある白御神乱の制御システムです。ここへのアクセスはできましたが、このサーバ本体部分には、さらに上位のプログラムが存在していますが、それにアクセスできる権限は、こちらにはありません」
「あー、なるほどな。では、御神乱を止めるには……」
「白御神乱を排除できないのであれば、まずは、制御機能を止めるためにも、太宇を打ち落とすしかないと思います」シュングァンが答えた。
「打ち落とす……、か」
「あ、それと、カームダウンはできませんでしたが、とりあえず、スリープモードにロックしておきました。ウェイクアップはできないようにプログラムを書き換えてありますので、当分は、白御神乱は眠ったままです」
「良くやったな!」
「盗聴器はそのままにしておきますか?」
「うん、そうしておこう」
俊作は、和磨に報告を入れた。
「静止衛星で白御神乱を動かしていたと言うことか!」和磨が言った。
「はい、そういうことです。で、太宇を撃ち落とすことって可能でしょうか?」
「そうだな、どちらにしても、中国が所有している静止衛星だ。チェン主席に状況を説明してからだな」
「そうですよね。でも、和磨さん、しばらく御神乱は眠ったままです。もしかすると、永遠に……。ネオ・クーロンに突入して、希望ちゃんや、まだ捕えられたままのウイグル人を救出することはできると思いますが」俊作が和磨に提案した。
「よし、分かった。チェン国家主席、およびゲイル大統領と相談だ」
和磨は、すぐさまチェンに電話をかけた。
「チェン主席、そういうことです」
「分かったわ。それしかないのね。であれば、撃ち落としてもらっても良いわ」
「ええ! 良いんですか?」
「ええ、私が責任を持ちます。ただ……、どうやって撃ち落とします? 宇宙空間を高速で飛んでるんですよ」
「そうですね……」考え込む和磨だった。
「それと、突入部隊はすぐに双方で編成しましょう」チェンが言った。「これからも、お互い、知恵を縛りましょう。また連絡します」
「分かりました」
和磨は、チェンとのホットラインを切った。
中国の各都市では、それでもまだ大規模なデモが勃発していた。地方都市は及ばず、農村部での小さな暴動も含めれば、その数は、数えてもきりのないようなものであった。チェンは、それを一つ一つ丁寧に訪問していこうと考えていた。しかし、広大な中国において、それはたやすいことではなかった。チェンの長い旅は続いていた。
「とりあえず、次は、ご指示通り四川に向かいますので……」パイロットが言った。
シーワンのSNSが更新された。
「四川で大規模なデモが起きているみたいね。ここは、今までも大地震の対策とか、コロナのときの隔離とか色々あったし、住民の不満も頂点に達しているのかもね」
「サオ司令官! シーワンのSNSが更新されました。発信された場所は、……四川です!」
「もはや、疑いない事のようだな……。残念なことだ」サオがそう言った。
サオは、一つの真実に到達し、それを確信したのだった。
チェン・ハオランを乗せたヘリは、視線を目指していた。
「もうすぐ四川省に入るな」感慨深げにチェンが言った。
「はい。チェン主席は、四川にはただならぬ思い入れがお有りの様ですね」同情していた軍部の者が言った。
「うん、そこには、私が幼かった時の親友がいるんでな」チェンが言った。
「そうなんですね」「あ、あそこです。見えてきました。成都(チャンドゥ)市です。「天府広場に降りますね」眼下には、高層ビルの立ち並ぶ美しい大都市が現れた。
「成都も変わったな」チェンが、そう言った。
「そうですねー」
しかし、市街地が見えてくるにつれ、大通りを埋め尽くすデモの塊も見えてきた。
成都の中心地、天府広場に飛んで行くヘリ。
「おい、あれは政府高官用の専用ヘリだぞ。チェン主席がここへ来たんじゃないのか」「そうかもね」「俺たちと話し合いを使用ってのか?」「そうじゃないか」「上等だわね」
デモを行っている人間たちは、上空を見上げながら話していた。
そして、ここにもう一人、上空を横切っていくヘリをじっと見つめている老女がいた。
「シーハン……」そう、老女はつぶやいた。
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