第21話

「北京で何が起きているんだ?」ワンが部下に聞いた。

「どういうわけか、巨大化した白御神乱が中南海に出現して、核融合火焔で次々とウイグルからの御神乱を倒していってるんです」

「我々の育て上げたのとは別の白御神乱だと言うのか?」

「はい。そうとしか考えられません」


 ルークの火焔は、残り二体のうちの一体の頭を撃ちぬいた。

 しかし、その直後、もう一体の御神乱が放った核融合火焔がルークの右足に当たった。崩れ落ちて片膝をついたルーク。

「ルーク!」それを見ていたクルムが叫んだ。

 間髪を入れず、一体残った御神乱の火焔がルークの肩を射抜いた。咆哮をあげて倒れ込むルーク。「ズシーン!」大きな地鳴りを上げて、ルークは中南海の池の中に倒れ込んだ。

「ああ、ルークさんがやられる!」リウが言った。

 残り一体となったウイグルの御神乱は、中南海のすぐそばへと迫って来た。おそらくルークにとどめを刺すのだと思えた。ついに、中南海の炎上する建造物を見下ろす位置に来た御神乱。倒れているルークを見下ろしていた。

「ルーク! 死なないで!」クルムが叫んだ。

 ルークは、力を振り絞って頭をもたげ、残った力を全て吐き出すように頭上の御神乱めがけて火焔を吐いた。頭を吹き飛ばされ、後方に倒れていく御神乱。

「やった! ルークさんがやっつけた!」俊作が興奮気味に言った。

「ルーク! ルーク!」クルムは半狂乱になってルークの名前を叫んでいた。

「井上大臣、こちらの状況を報告します……」リウは和磨へ連絡を入れた。


「北京を攻撃させた御神乱からの通信が全て消えました。全滅です」ネオ・クーロン内、部下がワンに報告した。

「そうか……。まあ、こちらには白御神乱もまだあるし、このシステムもこちらの手にあるから問題は無いのだがな。……ただ、商品イメージには、若干の影響が出るな」

「そうですね……」


 燃え盛る北京の上空、立ち上る上昇気流に抗うように、一体の攻撃ヘリが西の空に現れた。アディルの乗ったヘリだ。リアンが銃を突きつけられながら操縦していた。

「北京はすごいことになってるな。どれだけ犠牲者が出ているんだろう?」アディルが北京の惨状を目にしながら言った。

「中南海だ。降りられるか?」

「ああ、様相がかなり変わっているが、何とか探してみる」リアンが応えた。


 紅蓮の炎の中、いくつもの御神乱の遺体が確認できた。

「まもなく中南海だ」リアンが言った。「そこの建物の屋上に降りれる」

 黒煙の中、中南海にある数少ない鉄筋の建造物の屋上に攻撃ヘリが降下してきた。

 クルムの電話が鳴った。アディルからだった。

「姉さん、見えるか? 今、中南海の建物の屋上に降りた」

「見えてるわ。私の姿が見える? 今、ルークと一緒にいる」ヘリが着陸した建物の屋上を見上げながら、クルムは言った。

 アディルたちは、中南海の池に横たわっている巨大な白御神乱とその傍らに寄り添うようにして立っている女性を目に留めた。瀕死のルークは、背中の光も、息も絶え絶えといったように不規則に点滅していた。そのすぐそばには、俊作とリウの姿もあった。

「見えるよ」アディルが屋上から見下ろして言った。

「じゃあ、ここに向かってルークに見えるように謝罪して頂戴」


「北京を襲撃していた全ての御神乱は息絶えたとの報告がありました。外の衝撃音は収まったみたいですし、そろそろ外に出てみましょう」シェルター内のサオが言った。

「そうだな」

「部下に連絡して、ここに迎えに来てもらうことにしますので」

 そう言うと、サオは部下に連絡をし始めた。そうして、二人は、シャルターの部屋を出て、ゆっくりと外に向かって歩き始めた。


「出ろ!」アディルがヘリの中にいる男たちに言った。

 リアンを先頭に、二人のテロリストたちが銃を突きつけられながら出て来た。そして、クルムをレイプしたテロリストは向こう側で横たわっているルークに向かった土下座させられた。

「心から詫びろ」

 しばらくすると、ルークの横たわっている池の上に白い光の点が表れ始めた。その白い光は次第に増えていき、池一面が白い光に包まれ始めて、ルークの身体を包み込んでいった。


 そのとき、俊作たちのいる場所のすぐそばからサオとチェンが現れた。辺り一帯は、美しい白い光に包まれていた。

「何だこれは!」サオが声をあげた。

 その声に反応して、俊作たちもサオたちの出現に気がついた。

「あっ! サオ。それにチェンも」俊作も声をあげた。

 ルークは次第に元のヒトの姿に戻って行った。完全な人間の姿に戻ったルークは、右足の膝から下は失われており、左肩もひどく負傷していた。

 それを目にしたサオは、すかさず自動小銃の銃口をルークに向けて射殺しようとして、銃を構えたが、その銃口は別の方角から放たれたマシンガンによってはじき飛ばされた。サオが弾道の放たれた方角を見上げると、そこにはアディルがマシンガンを構えていた。

「ウイグル人か」サオがつぶやいた。

「あんたは、あのときも俺たちに対してそうやって皆殺しにしたんだ!」アディルがサオに向かって叫んだ。

「天安門のときの生き残りか」

 クルムが夫のルークの右腕を首に回し、身体を支えながら二人三脚のような体制でやって来た。近くにある建物の屋上からは、アディルたち四人の男も降りてきた。リウは和磨に状況報告をした後、SNSをチェックしていたが、依然としてシー・ワンQのティックトックは更新されていなかった。

「シー・ワンも死んだのでしょうか」リウは小さくつぶやいた。


「どうだ、反応の方は?」ネオ・クーロンのワンが部下のハーに聞いた。

「おおむね上々です。世界各地から依頼が来始めてます。想定外の出来事が起きたんで、どうかなとは思っていたんですが」

 ハーは、PCで何やらやり取りしていた。

「そうか。必ず香港に来るように言えよ。通信上だけでのやりとりは厳禁だ。その上で、日にちと場所を通知しろ」

「了解です」


 真太たちは、スティーブが拉致されている独房を探り当て、彼の房にいた。

「我々は、芹澤希望さんを探しているんです」真太がマギー達に言った。

「芹澤希望? ……誰です?」マギーが聞いた。

「大戸島から消えた女性です。彼女は、世界で唯一の御神乱ウイルスの抗体の保持者なんです」

「彼女のことはワンから聞いたよ」スティーブが言った。

「私もワンから聞いたわ。最初のうちは、彼はそれで治療薬を作って儲けるんだと言ってた」サンディがそう言った。

「そうそう。その資金を香港解放の資金にするんだと言ってたな」スティーブが言った。

「そうなんですか」マギーが言った。

「君にも希望の話が言っているものだと思ってたよ。メイリン」

「……。で、ワンはその娘とずっといっしょにいるわけなんですね。今もこのネオ・クーロン内のどこかに」マギーが聞いた。

「ええ、それはワン自身もそう言っているそうですので、間違いないと思います」

「……」マギーは、何事か考えているようだった。


 堺市庁舎、和磨はリウからの報告を聞いていた。

「俊作たちは全員無事だ。マクガイア氏も元に戻ったそうだ」和磨が真理亜と瞳に報告した。

「良かったー」瞳が言った。

「現在、彼らは中南海で、クルムさんの弟のアディル、ウイグルのテロリスト二名、そして中国がウイグルに送り込んだリアンらと共にいる。そして、チェン・ハオラン中国国家主席およびサオ・ハオユーとも遭遇している。チェンとサオは、どうも中南海のシェルター内にいたらしい」

「ええ! チェン主席と? ……大丈夫なのでしょうか」心配そうな瞳だった。

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