閑話 追うもの達

エド達が盗賊のアジトを襲撃をした日から遡ること3日前

「モラン聞いて、ヤツらが出たわ!」

慌ただしく戻って来たミミルが、声を弾ませた。

「ヤツら? なんだ?」

モランはヤツではピンと来ない。

「オルバの名を貶めるヤツらよ!」

「出たのか、ヤツらが!」

モランは慌ててくつろいでいた椅子から慌てて立ち上がろうとして、体勢を崩したが、すぐに立て直した。

「ええ、ヤツらよ!」

ミミルは嬉しそうに繰り返した。

モランは立ち上がると、ミミルのそばに寄った。

「ヤツらが動いたんだな?」

「間違いないわ」

「わかった、場所は?」

モランは急かすように尋ねた。

「私が案内するわ」

ミミルはそう言うと、すっとモランの手を取った。

「長老の先代モラン様は、俺に名前とともに使命をくれた。長老の使命はモランの名とゴブリン族の誇りを後の世に残すこと、そして、それには悪しきオルバを斃すことも含まれる。しかし、それは俺の役目だと思っていたんだが……」

モランは少し寂しそうに呟いた。

「そう悲観的にならないで。私がいるわ」

ミミルはにっこりと微笑むと、モランの手を少し強く握った。

「そうだな。俺はいい妻を手に入れたようだ」

モランが嬉しそうに言ったとき、玄関の扉が開き、新たに1人のゴブリンがやって来た。

「モラン殿、モラン殿はおられますか!」

この寒いのに額に汗を滲ませたゴブリンは、家に入るとすぐに言った。

「どうした、そんなに慌てて」

モランが声をかけると、そのゴブリンは身体を屈めて、モランに耳打ちをした。

「モラン殿、近くのゴブリンの集落の子供が拐われました、賊はダリウスの方向へと去って行ったもようです。」

「なに!」

モランが驚愕した表情をミミルに向けると、ミミルも動揺した様子で小さく頷いた。

「ダリウスか、少し遠いが3日あれば着くと思う。子供達は無事なのか?」

モランが尋ねると、ゴブリンはモランに近付き、また耳打ちをした。

「ああ、わかった」

モランはその報告を聞いて頷いた。

「拐われた子供は全員生きているようです、ただ……」

ゴブリンは言いづらそうに言った。

「ただなんだ?」

「ダリウスに付くまで子供は売られてしまうだろうと言うことです」

「そうか」

「ダリウスへ急ぎましょう」

ミミルはモランに向き直って、そう言った。

「ああ」

モランは静かに頷いた。

「馬車を用意するように馬番に伝えて、私も後から行くわ」

ミミルがゴブリンに向かって言った。

「わかりました」

ゴブリンは頭を下げると、外に出て行った。

「どうした?」

モランが尋ねると、ミミルはダリウスで子供が拐われたことを話した。

「そうか……ミミルも行ってくれるのか」

「ええ」

「頼む」

モランはミミルの手を再度強く握った。

「それで、馬の用意をしてくれるのか?」

「そうよ、私達の足では遅いから馬車で行くわ。3日もかけてたら子供達が売られてしまう」

ミミルの決意した表情を見て、モランも頷いた。

「そうだな、わかった。すぐに出発しよう」

2人は慌ただしく準備をすると、ダリウスへと向かった。

ダリウスに着いたのは3日後であった、先行していたゴブリンアーチャーの案内で盗賊のアジトへと潜入するのであった。そして、彼らはもう1組の冒険者と出会うのであった。

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