第11話 闇に巣食う者

ダリウスの工業街の奥まった場所の更に奥に行った片隅にある百人長屋。ここは罪人にとっての冒険者ギルド

「よう、今日も来たぜ」

「……いらっしゃいませ」

俺がいつものように顔を見せると、一見すると売春婦にしか見えない受付嬢は少しだけ驚いたように目を見開いた。

だがすぐにいつもの無表情に戻り、小さく頭を下げて出迎えてくれる。

相変わらず可愛げのない女だな。もう少し愛想良くすればいいものを……まぁそれがこの女の持ち味でもあるか。

俺はそんなことを考えながら、いつもの定位置に腰を下ろした。

そして机の上に肘を乗せると、目の前にいる女に向かって口を開く。

「おい、また新しい情報が入ってないか?」

「……はい、入っていますよ」

「本当か! どんな情報なんだ!」

「……それはですね―――」

そうして俺達はいつも通り会話を始めた。

「教導騎団のデブ様が死にました……以上でございます」

「ふむ、やはりそっちの方では動きがあったのか」

最近巷で話題になっている教導騎団のデブ死についての情報を聞いた後、俺は腕を組み考え込む仕草をする。

するとそんな俺の様子を見て、女は不思議そうな顔をした。

なんせこいつは俺のことを知らないからな。何故ならこいつはこの罪人ギルドのお荷物受付嬢なのだから。

まぁだからと言って俺が教えてやる義理もないのだが……。

それにしてもあのデブが死んだとはな……まぁあれほどの巨体だったんだ。いずれは死ぬだろうと思っていたが案外早かったな。

しかしあのデブは強かったし、何より金を持っていた。あいつがいなくなれば俺達は困るはずだ。

一体どこのどいつが殺したのか知らんが、これは一大事だぞ? 俺はどうするべきか頭を悩ませた。……よし決めた。とりあえず手当たり次第に強い奴らを襲ってみることにしよう。

それでダメなら他の方法を探せば良いのだ。幸いにも今は金には困っていない。

さっそく明日から行動に移すとするか。

俺は立ち上がり、椅子に座っている女を見下ろす形で声をかけた。

ちなみにだが、ここの連中は大体が俺よりも背が高い。なので自然と見下ろす形になってしまうのだ。

それ故に、いつも見上げる側である俺としては少し新鮮な気分になる。

だが、いつまでもこんなことを気にしていても仕方がない。

それよりも今は大事なことがある。

俺は気持ちを切り替えるように息を大きく吐くと、再び女に声をかけた。

今度は先ほどとは違い、どこか優しげな雰囲気を感じさせる口調で話しかける。

すると女は一瞬ビクッとした様子を見せた後に返事をした。……ん? 何か様子がおかしいな。まさか風邪でも引いているのか? だとしたら大変だ。今すぐ医者を

「ゴブっ」

何故、血が……あぁそうか……俺は刺されたのか……

薄れゆく意識の中、視界の端に見える女の手に握られたナイフを見て理解した。

そこで俺の記憶は完全に途切れた。………………

「馬鹿な男、ここを突き止めた時点で応援を呼べばいいものを...」

私は自分の足元に転がっている死体を見ながら呟いた。

その言葉の通り、ここに来る前にあらかじめ近くの建物に仲間を配置していたのだ。

そしてこの男がやって来たと同時に突入させたわけだけど……本当に運が良いのか悪いのか分からない男ね。

普通ならここで終わりなのに……まぁおかげで楽には行かないけど、。

「モンティーヌ様、先方の準備が整ったの事です!」

「分かったわ。すぐに行くから貴方達はそのまま待機してて」

部下の報告を聞いて、私は急いでその場を離れた。

向かう先は、私の雇い主がいる場所。つまり今回の仕事場だ。

「さすがですね、私達が仕掛けるタイミングを完全に把握しているなんて」

「いえ、たまたまですよ」

「ご謙遜を……では、例の物を」

「はい」

私は指示に従い、懐にしまっていた紙を取り出し、それを雇い主に渡した。

「確かに受け取りました。では、引き続きお願いします」

「分かりました」

「それと、もし仮にあの方にバレてしまった場合は――」

「問題ありません。その場合は予定通りに実行致します」

「そうですか、それは助かります」

「では行って参ります」

「よろしくお願いします」

私は軽く頭を下げると、踵を返して部屋を出た。

その際に、後ろで笑みを浮かべている男の姿を見た気がしたが……きっと気のせいだろう。

「さて、早く戻らないと怒られちゃうな」

そう独り言ちりながら足早に廊下を歩く。

別に急ぐ必要は無いんだけど、なんとなく落ち着かなかった。

「……ふぅ」

目的の部屋の前まで辿り着き、小さく深呼吸をする。

「よし」

覚悟を決めるように自分に言い聞かせると扉をノックした。

「失礼します」

そしてゆっくりとドアノブを回し、中へと入る。

室内に入るとそこには二人の男女がいた。

「お待たせしました」

「いや、ちょうど良かったよ。ところで首尾はどうだい?」

「はい、言われた通り例の男を殺しました。これでよろしかったでしょうか?」

そう言って私は先程殺した男の人相書きを二人に見せた。

「うん、ありがとう。とてもに助かるよ」

「いえ、これが私の仕事なので」

男は嬉しそうな顔で褒めてくれた。だから私も笑顔で答える。

すると女の方が呆れたような顔をして口を開いた。

「全く……貴方はもう少し上手く立ち回りなさい。でなければいつか痛い目に遭いますよ」

「はーい、分かってるって」

私は適当に返事をしながら男の隣まで移動し、腰掛ける。

「それで次はどうするの? まだ続けるなら頑張るけど……」

「そうだね……しばらくは様子見かな。煌玉のライラは預かったし。」

男は仮面の奥の瞳をつむり、モンティーヌに背を向け、マジックペーパーからライラを取り出し、アイテムボックスへしまいこむと、

「今頃、酒場ではてんやわんやで騒がしいだろうな、まぁ明日にでもクリシュバナがギルドに依頼を発注させるはずだから、あの2人の冒険者に依頼を受けさせるように頼む。」

無愛想な感じに言う。

「えぇ、わかりました。

それじゃ、そろそろ私は戻りますね。

あ、それとこの事は内密にお願いしますね。」

「もちろんだよ、それじゃまたね。」

「はい、では失礼します。」

3人が3人共、別々のドアからへやをあとにするのだった。


いっぽう酒場では、店主や客が騒ぎ立ていた

「おい! 俺の金しらねーか!財布がねーんだよ!」

「マジかよ!? アレっ.....俺のも? 誰が俺の財布を取ったんだよ?」

「それが分からねぇんだよ!何でもい店主も売上を取られたって……」

「あぁ、俺もだ……しかも盗まれた金額がなぁ……」

「あぁ……100ガルド……こんな大金を盗んでいった奴が何処にいるんだ?」

「「「…………」」」

「「「あぁ、もう!!」」」

「どいつもこいつもうるせーな!! 黙れ、この野郎ども!!!」

カウンターで酒を飲んでいた男が立ち上がり怒鳴った。

その瞬間、店内が静まりかえった。

「まったく……せっかく気持ちよく寝てたのによぉ……んん~んん、んんんんんん!!!!」

そして、大きく伸びをした後、再び席に着く男。

「しかし、今日は何だか騒がしい日だぜ。」

「んん、そうだね。」

「まったくだ、何かあったのか?」

「さぁ……何かがあったとしても僕には関係ないさ。」

「違いない!」

「「「ガハハッ!」」男たちは豪快に笑う。

「まぁ、何にせよ……平和が一番だ!」

「はいはい、分かったよ。」

「おぅ、よろしくな。」

こうして夜は更けていくのであった。

「お兄ちゃん起きてよ」

おれは、瞼が重いのを我慢しながら目を覚ました。

「ん、なんだ、朝っぱらから……一体どうしたんだ?」

「大変なの、ギルドのお姉さんが来てるの」

「ギルドのお姉さん?……あぁそういえば、昨日の酒場でそんな事言ってたような気がするぞ。で、それがどうかしたのか?」

「それがね、エドお兄ちゃんとミトお兄ちゃんに用事があるみたいで、それでわざわざここまで来たみたいなの」

なにぃ、それは一大事じゃないか。

俺はベッドから飛び起きると急いで着替えをした。

そして部屋を出て礼拝堂へと向かった。

するとそこには既に二人の姿があり、椅子に座っている。

どうやら待たせてしまって申し訳ないことをしてしまったようだ。

「おはようございます。お待たせしてすみません。」

「いえ、私達もついさっき来たばかりなので、気にしないでください。」

「そうですか、ありがとうございます。」

「いえいえ、それよりも早速ですが、本題に入りましょう。」そう言うと彼女は真剣な表情で話し始めた。

「実は、先程ある依頼主の方から連絡が入りまして、何でも貴方達に依頼を出したいとのことでした。」

「依頼……という事は、つまりクエストということですね。」

「はい、そうなります。詳しい話しはこちらの依頼書を見て頂くとして、どうされますか?」

「うーん、どうしようかな……」

正直言って、今はお金に困っているわけでもないし……それに、この前みたいに面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だしな。

「どうするの? 受けるの?受けないの?一応は依頼主のダリウさんのご指名みたいだけど。」

「ダリウさん?」

誰だったけ?思い出せないな

「まさか、思い出せないとかじゃないわよね?昨日とばっちりで、グチを聞かせてしまったから、ご指名なんだけど。」

あぁ、あの時の人か。

まぁ、別にあの人なら問題ないか。

それに、ギルドからの紹介なら変なことにはならないだろうし。

なら、決まりだな。

俺達は、依頼を受ける事に決めた。

そして、受付嬢に依頼内容を聞くことにした。

「では、依頼を受けるという事でよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします。」

「かしこまりました。それでは、依頼内容は盗賊団の討伐になります。」

「えっ!?」

俺の驚きの声が教会内に響き渡った。

「えっと、もう一度確認しても宜しいでしょうか?」

「はい、構いませんよ。」

「では、改めて聞きたいのですが……今回の依頼は盗賊団を退治する事なんですね? 間違いないですよね?」

「はい、その通りです。」

「そ、そうですか……」

俺は目の前の現実に愕然としていた。

何故ならば、俺が想像していたものと全く違ったからだ。

普通こういうものは、町中で起こる事件を解決したりするものと思っていたのだが……どうやら違うらしい。

「お兄ちゃん……大丈夫?」

心配そうに見つめてくる子供たち。

「あぁ、何とかな。」

だが、いつまでもこうしている訳にもいかない。

とりあえず、状況を整理しよう。

まず、今回受けた依頼の内容は『盗賊団の壊滅』で、盗品の確保と盗賊団の真の首領の特定だそうだ。

次に、その報酬についてなのだが……

500ガルドだそうだ。

最後に、この依頼を請けた理由だ。

これは単純にギルドからの薦めであり、特に断る理由はなかった。

「ふぅー、よし! 分かった、この依頼を受けるよ。」

「はい! 分かりました。それじゃ、頑張ってね!」

「おう! 任せろ!」

こうして、俺達のダリウスでの初仕事が始まった。


ノウランの森に足を踏み入れてから2時間ほど経った頃だろうか、目的のアジトらしき場所にはまだ到着できずにいる。

というのも、途中で何度もモンスターと遭遇し戦闘になった為だ。

遭遇した敵は主にホーンラビットとピットボアである。

最初の内は、数が多くて少し苦戦したが、それも次第に慣れていき今では難なく倒せるようになっていた。

また、倒した後の死体については、ミトがマジックバッグに収納してくれているので、後で素材を売るなりして換金すればいい。

ちなみにミトのマジックバックは容量がかなり大きいらしく、かなりの量が入るようだ。

しかし、いくら容量が大きいからと言っても無限ではないし、あまり荷物が多くなりすぎると移動に支障が出るので、程々にしておく必要がある。

それと、もう一つ気になる事があった。

それは、ミトが式神でアジトらしいものを探索してくれているのだが、一向に見つからないのだ。

どうやら、まだ見つけられていないみたいだし、本当にここにあるのか怪しくなってきた。

俺は、ミトにそのことを伝える事にした。

すると、ミトはしばらく考え込んだ後に、何か思いついたのか、こちらを見てきた。

どうやら、心当たりがあるようだ。

俺は、その場所へと案内してもらうことにした。

ミトの後を追っていくと、そこにはモニクが攫われた時の洞窟があり、中からは微かに光が漏れていた。

恐らく、ここの奥深くに盗賊団のアジトがあるのだろう。

入口には見張りがおり、武装もしている事から、すぐにそうと分かる。

俺達は、物陰に隠れると作戦を立てる為に話し合いを始めた。

「さて、これからどうするかな……」

「ここは、やっぱり俺が一人で中に忍び込んで……」

「いや、ダメだ。」

「どうして?」

「確かに、エドならバレずに侵入できるかもしれないが、問題はその後だ。もし、仮に捕まった場合の事を考えてみてくれ。もしもの場合、僕が助けに行くまで耐えられるか?」

「うーん、多分無理だと思う。」

「だよな。だから、今回は俺と二人で潜入しようと思うんだが、どうだ? いけるか?」

「うん、大丈夫。でも、どうやって?」

「あぁ、それはな……」

俺は、自分が考えた作戦をミトに伝えた。

「なるほど、それなら上手くいきそうだね。」

「あぁ、だがあくまで俺の考えであって、成功するかどうかはやってみないと分からないけどな。」

「それでも、無いよりはマシだよ。」

「そうだな。よし、それじゃ早速行くとするか。」

俺達は、見張りの元へと向かった。

そして、作戦通りに俺が一人だけで近付いていった。

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