第12話 盗賊狩り
エドが気配を殺し洞窟に近づき、当たりを観察をすると洞窟の前で見張りをしている盗賊2人は油断していた、彼等は知らなかったモンティーヌの裏切りを。
彼女はエドがデブと戦っている裏でアベルに見つかっていたのだ、彼女とその配下は見逃される代わりアベルの部下となり、人攫いをする者や奴隷の裏取引をする商人とか盗賊の壊滅を請け負っていた。
そして今から1時間前、彼女はアベルから今回の作戦を伝えられると、彼女達は素早く行動を開始した。組織に嫌気を出している者でなおかつ信頼における者を選別し声を掛けていく、その中には彼女の親友も含まれていた。
こうして集まった人数は17名程、彼女達はこの人数でアベルの指揮する部隊に合流し組織に攻め込みダリウスの中にある盗賊のアジトを壊滅させるつもりなのだ。
エドたちがノウランの森を探索しているその頃、アベルは部下達に説明を始める。
彼曰く今回の作戦は非常にシンプルだ、正面突破で乗り込む、そしてそのまま敵の本拠地まで突き進むという至ってシンプルなものだ。
しかし、それは無謀にも思えるものだった。なぜならアベルたちは現在20人程度しかいない、対して相手は少なくとも300人以上は居るだろう。しかも、こちらは連携も取れない寄せ集め集団だ。
普通なら自殺行為に見えるが、アベルには考えがあった。
まず一つ目として彼は魔法を使うことが出来る。これはかなり珍しいことだ。この世界では魔力を持っている者はそう多くない。そして二つ目に彼の指揮能力が高いことが挙げられる。彼は10代後半から20代中頃まで冒険者をしていて、パーティーリーダーをやっていたため仲間との連携を取ることが得意だった。さらに、彼は聖都に戻った頃から神器オーロラの盾の力を利用した戦術で仲間を守る戦いに徹するため、仲間からは「守護騎士」と呼ばれていた。そんな彼が率いるこの部隊は負けることは無いだろうと参加している者は確信していた。
こうしてアベルたちのアジト強襲作戦は始まった。
彼らは森を出てすぐにある草原にいた。
ここら辺一帯は魔物がほとんどいない安全な場所なので、よく商人などが荷物の積み替えや乗合馬車の待合所として利用しており、良くも悪くも訓練の一言で片付くような場所であった。
そんな場所に突如現れた20人以上の武装した者たちを見て、商人達は街道沿いの盗賊を殲滅するのだとのんびりと眺めてた。しかし、すぐに異常事態に気付いた。護衛の冒険者達がいつの間にか倒れているのだ。それを見た商人に化けていた盗賊は慌てて逃げようとするが、既に遅かった。アベル達は既に陣形を整えていたからだ。
先頭にいるのはアベルとその配下の5人の男女、そして彼らの後ろから遠距離攻撃が出来る者が続く。さらにその後ろに近接戦闘を得意とする者と回復・補助系のメンバーが続く。
そして最後尾には遠距離攻撃をする者達が控えており、もしもの時はすぐに矢を放つ準備をしていた。
完璧な布陣と言えるだろう。
こうして、アベル達の奇襲が始まった。
アベル達が動き出してから数分後、襲撃を受けた盗賊団の方でもようやく異変に気付き始めていた。
最初に気が付いたのは斥候役である二人の男だった。彼等は遠くから聞こえる足音に警戒していたが、やがて自分達に向かってくる一団の影を見つけ警戒を強める。
そして、ついにその時が来た。彼等の前に姿を現したのは一人の仮面の男が盾を構えながら近づいてきている姿だった。
その姿を確認した二人は思わず安堵のため息をつく。何故ならこの男は先ほど戦っていた男とはまるで違う雰囲気を放っていたからだ。
「なんだテメェ? ここはお前みたいな奴が来るところじゃねぇぞ?」
一人が軽口を叩くように話しかけるともう一人の方もそうだなと笑い出す。
しかし、その声は途中で途切れてしまう。理由は簡単だ。目の前の男の気配が変わったからである。それも尋常じゃない殺気を放ちながら。
それを理解した瞬間、二人の体は反射的に動いていた。彼等は自分の役割を理解していた、だからこそ自分の命を守るために全力を出す必要があった。
二人のうちの一人が短刀を腰元から抜き取り構えると同時に懐へ飛び込む、それと同時にもう一人が大声で叫ぶ。
「こっちだ!」
その言葉を聞いたアベルは瞬時に指示を出しその場を離れる、すると今まで二人が居たところにナイフが通り過ぎていった。そして、そこにはいつの間にか一人の女が立っていた。彼女は舌打ちをする。
(チッ! 勘の良いヤツめ)
彼女はそう思いながらも即座に思考を切り換え、次の行動に移る。
一方アベルはというと、彼も既に行動に移っていた。彼は自分に飛んできた投げナイフを避けると共に、自分の背後にいる者に合図を送る。
「今だ!!」
そう言うと彼は地面を思いっきり踏みつける。その行動により足元が一瞬だけ陥没する。それにより、相手の体勢が崩れた。
そして、そこに待っていたのは無数の矢だ。盗賊は自分等で仕掛けていた落とし穴に落ちた者は運良く回避出来たものの、そうでないものは体に次々と突き刺さっていく。中には急所に当たってしまった者もおり、その場で絶命してしまう者もいた。
しかし、それで終わりではなかった。その後ろには剣を構えた者達が待機しており、一気に距離を詰めてきた。
そして、盗賊達に襲いかかった。
アベル達はその後、敵の本拠地まで順調に進んでいた。道中何度か襲撃を受けたが、アベル達の勢いを止めるには至らなかった。
そして遂に敵のアジトへとたどり着いた。そこは街中に続く洞窟になっており、入口には見張りが2人立っていた。
アベルは警戒をしながら2人をすぐに無力化しようと試みるが、ふとあることに気が付き部下に命令を下す。
「待て、様子がおかしい」
彼の言うとおり、確かに様子がおかしかった。何故か2人はこちらに気付かず、ぼーっと突っ立っているのだ。
不思議に思ったアベルだが、とりあえずこの好機を逃すわけにはいかないと思い、すぐさま行動に移す。
まず、彼は弓兵に攻撃を命じる。しかし、これは罠だったようだ。矢を放った瞬間、矢が不自然に曲がり地面に落ちてしまった。
それを見たア驚きつつも冷静に状況を判断する。どうやらこの空間全体に魔法がかけられているようで、恐らくは防御系の魔法だろう。
それなら話は早い、アベルはそう思うと今度はオーロラの盾の力を発動させる。それは魔法を吸収し無効化する能力だ。
これにより、見張り達を守る壁は無くなった。後はただの作業に過ぎない。
こうして、戦いの火蓋は切られた。
戦闘が始まってから数分後、戦いは徐々に決着を迎えようとしていた。盗賊達は人数差を活かして攻め込もうとするが、思うようにいかず逆に返り討ちにあってしまう。
一方、アベル達は連携を駆使して確実に仕留めていく。アベルは仲間達を信頼しているため、特に心配することなく目の前の戦いに集中していた。
そしてついに、この戦いの幕が下りようとしている。アベル達の勝利という形で。
アベル達が戦っている頃、アジトの奥にある部屋では二人の男が会話をしていた。会話といっても通信用の魔道具コーネリアの鏡を通してだが。
「おい、そろそろ通路を爆砕しても大丈夫でしょうか?」
「ああ、問題ない」
「分かった、それじゃ早速始めます」
そう言うと男は手元にある杖を握り締めて起動させた。
すると、突如として大きな爆発音が聞こえてくる。
「よしっ、これで侵入者が混乱しているはずだ。お前らはこのまま奥の部屋から転移し脱出するのだ。俺が時間を稼ぐからその間に早く行け!」
「ありがとうございます! 貴方の犠牲は決して無駄にしません!」
そう言い残すと二人の男女は急いでその場から離れようとする。
しかし、彼等は気付いていなかった。自分がいる場所がすでに敵の手のひらの上だということに。
彼等が走り出した直後、部屋の扉が大きな音を立てて破壊される。
「な!? 一体何が起きたんだ!?」
2人の男は慌てて振り返ると、そこにはいないはずの仮面の男がいた。しかも無傷の状態で。
「バカな……何故お前が生きている? それにあの爆発で無事なんだ...,,,」
男は最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった身体から首を失っては、こうしてアジトの制圧は完了した。
だがエドたちが受けた依頼やアベルの襲撃は全部おとりであった。本当の目的は最初からある男を捕らえることだった。
彼等はある情報を精査しある人物の情報を手に入れていた。その人物名前はシデリウスである、最近ダリウスに来て手広く表でも裏でも商売をしており、最初は自分達だけで捕らえようと考えていたのだが、念のため保険をかけておくことにした、それがモンティーヌである。
彼女は裕福な商人の娘であった。両親と弟と仲良くくらしていたのであるが、盗賊団が彼女の家を襲いほぼ全てを失ったのだ。彼女は命だけは助かったが、父親は殺され母親と弟は売られてしまい、それ以来彼女は心に深い傷を負ってしまう。そして、彼女は盗賊に復讐することを誓った。彼女は必死になって情報を集め、とうとう犯人が誰なのかを突き止めることが出来た。
そして、今に至る。彼女はアベルの部下に細かな指示をだし、作戦を実行に移した。まずシデリウスの屋敷に通じる往来の安全を確保させ、その次にアジトから来る敵の増援を阻止するための罠を仕掛けておいた。
さらに、敵が襲ってきた時のために警戒をしながら歩を進める、モンティーヌにとってシデリウスは、自分の人生を歪めた張本人だ、彼女は盗賊として利用できる解錠のスキルとエルフ混じりの身体能力のおかげで最底辺だが生き抜くことが出来た、10数年掛けて壊れ果てた母親と弟見つけ出し最後を看取った。そして、彼女達を殺した盗賊どもに復讐するために盗賊となった。
しかし、彼女はアベルに出会ってしまった。彼は自分とは違う世界の人間だが、彼の言葉には嘘偽りがなく彼女の心に響いた。彼は言った、自分はこのクソッタレな世界に復讐する為に戦うと。だから自分と一緒に来ないかと言われた時は嬉しかった、その日から義賊となった彼女は、アベルの為に今日も戦い続ける。
彼女はシデリウスに対する湧き上がる殺意を抑えながら屋敷の裏口の解錠を始める。(お願い……開いて)
そして、鍵は開いた。
その頃アベル達はというと転移門の先にある建物の中の廊下を歩いていた。
建物内に入ってからしばらく経つが、敵の姿はなく不気味なほど静かだった。
しかし、次の瞬間。
ドンッ! 突然、アベル達の足元に魔法陣が現れた。
アベル達はすぐさま魔法陣から離れる。すると魔法陣が光り始めた。どうやら罠だったようだ。
魔法陣から現れたのは全身黒ずくめの集団だった。
数は全部で50人程で、各々武器を構えている。
どうやら、この集団は暗殺者のようだ。
アベル達は、暗殺者達に応戦しようとするが、リーダーらしき男がそれを制止する。
彼はこの部隊の指揮官らしく、部下達に命令を下した。
しかし、それは彼等を殺すためではなく生け捕るためだった。
彼等はアベル達を拘束し、どこかへ連れ去ろうとしている。当然アベル達は抵抗するが、人数差もあってか徐々に追い詰められていく。
アベル達は完全に包囲され逃げ場を失っていた。
そしてあわや拘束されると思った瞬間、アベルの隣に雷を纏った額に角の有る牡羊のような動物が現れ、強烈な蹴りを食らわせる。
それにより何人かが吹き飛ばされたが、残りのメンバーは素早く散開し距離を取る。
アベルはその隙をついて剣を抜き、近くにいる敵を斬りつける。
すると、相手は防御しようとしたが間に合わず、肩から腰にかけて斜め一文字に斬られ絶命した。
続いて隣にいた敵が襲いかかるが、間髪入れずに回し蹴りを放ち、敵の頭部を吹き飛ばす。
さらに、背後からの攻撃にも反応し振り向きざまに横薙ぎに振るい首を切断する。
次々と敵を倒していくが、流石に数が多いのかアベルは少しづつだが押されていく。
そしてついに背中が壁についてしまう。
しかし、そこでアベルはニヤリと笑みを浮かべる。
なぜなら、アベルは最初からこれが狙いだったからだ。
彼が壁についたと同時に、天井から巨大な岩が落ちてきた。
その衝撃で部屋は半壊状態になり、多くの者が瓦礫の下敷きになる。
生き残った者は慌ててその場から離れようとするが、既に遅かった。
いつの間にか、アベルが彼らの目の前に現れており全員斬り伏せる。
こうして、アベル達は無事窮地を脱することができた。しかし、まだ安心はできない。
何故なら、ここには指揮官がいるはずだからである。
彼はどこにいるのだろうかと考えていると、部屋の外から声が聞こえてくる。
しかもそれは聞いたことのある声で、なんとモンティーヌの声だった。
彼女はどうしてここにいるのだろうと思っていると部屋の扉が開かれ彼女が入ってきた。
アベルは彼女に何があったのかを聞くと彼女は信じられない事を口にする。
彼女の話によると、シデリウスの屋敷に忍び込んだまでは良かったが、途中で敵に見つかってしまい、命辛々ここまで逃げてきたが追っ手がしつこくて、やむなくここに身を潜めていたらしい。
そうして、彼女はアベルに助けてほしいと頼むとアベルは快く了承してくれた。
そして、アベル達は彼女の案内の元、シデリウスのところへ向かうのであった。
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