第9話 仮面の男
「あなたがた平民の為に教導騎団を動かせません」
教導騎団の受付のヒキガエルに似た風貌の男は気持ち悪い笑顔で俺に告げる
「そもそも、教導騎団が動くのは大商人か、貴族などの高貴な方々の時だけだ!」
そう言うと男は舌打ちをしてカウンターを叩く。
「あぁー!糞ッ!お前らみたいな卑しい出自の奴らに構っている暇はないんだよ!」
この男は貴族至上主義なのか? しかし、それにしては態度が悪いな……
俺はそう思いながらも、男の言い分に少しだけ納得していた。
確かに、騎士団がただの冒険者に無償で人助けをする義理など無いのだ。
ましてや、俺達は国から見ればただの異国出身の異分子に過ぎない。
騎士団からすれば国益にもならない事に労力を使う必要はない。
「やだねぇ、貴族に媚びへつらい、立場の弱いものに対しては高慢な態度の人間は!品性を疑うね」
詰所の片隅にいた仮面を被った男がポツリとそう言うと、みんなの視線が男に集まれる。
この男は、いつの間に…、入ってくる気配を気がつかなかった、一体誰なんだ。
「ダレだ、この俺様に文句のあるヤツは!殺すぞ!」
受け付けの男は自分をバカにした者に対して殺気を帯びた視線を向ける、そして仮面の男に気がつく。
「アベル様....、なぜ此処に?」
男の顔色が急激に青くなる。
「お久しぶりですね、デブさん。相変わらず不愉快な態度と顔つきをしていますね。」
アベルと呼ばれた仮面の男は、受け付けいる男に軽蔑の眼差しを向けながら?ため息をつくように皮肉を言う。それに対し、
「い、いえ!そんな事はありませんよ!とても爽やかな顔をしています!」
と受け付けの男は焦りながら言い訳を開始する。
どうやら、この2人は知り合いらしい。
しかし、この受付のヒキガエル……本当に名前がデブなのか。
「おい!注目、ここにいる教導騎団の団員達!教導騎団はたった今、一時解散な!いいな!」
アベルはサラリと騎士たちにそう告げると、詰所の中に居た大半の騎士たちの中には、力無くヘタリ込み頭を抱え込む者もいるようだ。
「だいぶ前から内定捜査もしたから、デブさんみたいに言い訳無用に死刑確定もいるからね、他の団員の人は罪は軽いから逃げないでよ!」
その言葉を聞き、周りの人間からは悲鳴が上がる。
しかし、アベルと言う男は気にする様子もなく、俺達に話しかけてきた。
「君たちは冒険者かい?」
「えぇ、そうですが……」
「私は、アベル・オースティアだ。よろしく!」
そう言って手を差し出してくる。
「俺は、エド・カイザンと言います。こちらはミト・ニードルです、よろしくお願いします」
俺は差し出された手を握り返しながら答える。
「アベルさん、攫われた女の子を救うのに力を貸して貰えないでしょうか?」
俺は一か八か、アベルに頼んでみる。
「もちろん、良いですよ!さっきの態度の悪い騎士どもにはムカついていたんですよ!私に任せてください!」
そう言うと彼は胸を張る。
「ありがとうございます!」
「いえいえ、それじゃあ早速向かいましょうか!」
「あの、どこに向かうんですか?」
ミトは不思議そうな表情を浮かべている。
確かに、何処に向かえば良いのかわからないな……。
「まずは、情報収集ですね!攫った奴らの居場所を突き止めないといけません!」
「エド、先程の式神でアジトらしいもの見つけたのですが、聞いてますか?」
ミトは式神と視界などの感覚を共有しているらしく、アジト見つけたらしい。
「本当ですか!?」
「ミトさん、案内お願いしますね」
そう言って、アベルさんミトの後について歩き出した。
俺達はその後を追う。
「ところで、誘拐犯たちの目的とかわかるんですか?」
「恐らくですが、人身売買ですね。拐ってきた子供を売って金儲けでもするつもりなんでしょう。」
「酷い話ですね……」
「まったくだ!許せないね!」
俺達がそんな話をしていると、アベルさんは少しだけ声を荒げていた。
「私の大切な友人にも、小さい娘がいるんで、気持ちがわかりますよ。」
そう言いながらアベルさんは自分の拳を強く握っていた。
アンジェロと別れた小屋を通り過ぎ、森の中程まで来た辺りから、急に木々が生い茂り始め薄暗くなってきた。
しばらく歩くと、木立の奥に洞窟の入り口が見えてきた。
入り口付近に人の気配は無い。
「見張りがいないですね」
ミトの言葉にアベルさんが反応する。
「おかしいですね……、普通なら見張りくらい置くはずなのに……」
アベルさんが疑問を口にすると、後ろの方から声が聞こえた。
「あれ?まだ逃げていなかったんですか?」
振り返るとそこには、先ほど騎士団詰所で会ったヒキガエルに似た風貌のデブがいた。
「デブさんじゃないですか!こんな所で何を?」
アベルさんがデブに尋ねる。
「それは、こっちが聞きたいですよ……、まさか貴方がここに来るとは思ってませんでしたから。」
デブは呆れたような口調で答えた。
「まぁいいや……、どうせあんたらも始末しないといけないしな……、おい!お前ら仕事の時間だぞ!!」
ヒキガエルが叫ぶと、洞窟の中からゾロゾロと男達が出てきた。
「くそっ……、やっぱりそう言う事か……」
アベルの呟きと同時に、盗賊団が襲いかかってくる。
「ミト!頼む!」
「はい!行きなさい!針鼠!」
ミトの手のひらから飛び出したのは、小さなトゲを無数に持つネズミだった。
ネズミは凄まじい速さで男達の間を駆け抜けると、首筋や喉元にトゲを刺しながら噛み付いた。
「ぐわああああっ!」
「痛てぇ!なんだこれ!」
「いてえよぉおお!」
盗賊団の男たちは、その場に倒れ込んでいく。
「私も、活躍しないとですね。」
アベルが、左腕の盾を翳すと光の膜が、俺達を包み込み力がみなぎる。
アベルさんの支援魔法か。
俺はデブに斬りかかる。
しかし、俺の攻撃はあっさりと避けられてしまう。
そして、デブは剣をいつの間にか抜いていたのだ。
俺も手に持つ刀を握り直し刀で斬り掛かる、金属同士のぶつかり合う音が響き渡る。ヒキガエルは、俺の斬撃を受け止めると、力任せに押し返してきた。
「なかなかやるじゃないか!」
デブが余裕のある笑みを浮かべながら言う。
俺は押し負けないように踏ん張るが、じりじりと後退してしまう。
「くっ!」
「エド!加勢しますよ!」
ミトが短槍を突き出す。
デブは俺の攻撃を弾きながら、ミトの突きをかわす。
「邪魔をするんじゃねぇよ!」
ミトに蹴りを入れようとするが、俺の斬撃を受けて体勢が崩れているせいで威力が出ず、アベルによって簡単に受け止められてしまった。
「くらえ!」
受け止めた足を掴むと、アベルはそのまま一本背負いで投げ飛ばした。
「うおっ!」
デブは空中で一回転して着地しようとする。
俺はデブに狙いを定め、今度は横薙ぎの一閃を放つ。
「遅いんだよ!」
デブは後ろに飛んで避けようとしたが、間に合わず、咄嵯に右腕で受けようとしたため、持っていた剣を落としてしまう。
「ちぃっ!」
「終わりだ!」
デブは慌てて拾おうとするが、俺の方が早い! 袈裟懸けに切りつけるとデブが地面に倒れる。
デブが落とした剣を拾い上げると、アベルが叫んだ。
「エド君!そいつはまだ生きている!気をつけて下さい!」
「何!?」
デブを見ると、落ちた腕の付け根から血が吹き出し、倒れたまま苦しんでいる。
「くそがああぁぁ!殺してくれえぇ!」
「うるさい奴だな……」そう言って止めを刺そうとすると、ミトの声が響いた。
「待ってください!この人を殺すと、攫われた人が戻って来ませんよ!」
「くっ……、わかったよ……」
俺が渋々了承すると、デブは安堵した表情を見せた。
「助かったぜ……、おいっ!取引しようじゃねえか!」
デブは必死の形相で叫ぶ。
「今更命乞いですか?」
ミトが冷たく言い放った言葉を聞いて、デブの顔が絶望に染まる。
「違う!お前らは依頼主の事を知らないだろう?だから教えてやる!そいつは……」
デブが話している途中で、アベルがデブの首を落とした。
「私には首謀者に心当たりがあります、生かしておく理由が無いでしょう?」
「え……?」
俺達は呆気に取られていた。
「さあ!先に進みましょう!早くしないと手遅れになりますよ!」
アベルがそう言うと、我に返ったミトが洞窟の中へ走り出した。
「あっ!おい!ちょっと!ミトさん!置いていかないで下さいよ!」
アベルは慌ててミトについて行く。
洞窟内は薄暗く、道幅は狭く、かなり歩きづらい。
「こっちです!急いで!」
先行していたミトが、俺達を呼ぶ。
洞窟の奥に進むと大きな広間に出た。
そこには、何人もの子供達がいた。
「みんな!助けに来たよ!」
アベルが声をかけると、子供達は安心したのか泣き出してしまった。
「大丈夫だよ!もう心配ないからね」
アベルは、子供一人一人の頭を撫でていく。
「アンジェロ様の依頼でここ迄みんなを迎えに来たんですよ。」
ミトの説明を聞いた子供達は、嬉しそうな顔を見せる。
「ミト兄ちゃんありがとう!」
「良かった~!」
子供達は口々に喜びの言葉を口にする。
「皆さんこちらへ!入り口までご案内します!」
アベルさんの先導に従って、出口へ向かう。
しばらく歩くと前方に光が見えてきた。
どうやら外に出るようだ。
「アベルさん!あそこが出口ですか?」
俺が尋ねると、アベルさんは少し困り顔をした。
「はい。あの光が出口ですよ。」
「あれ?何かおかしくありませんか?」
ミトの指摘通り、俺達の目の前にある光の塊からは、魔力を感じる。
「魔法陣ですね……」
アベルさんが呟いた瞬間、光の魔法陣が輝きを増した。
「まずいな……。」
俺は咄嵯に刀を構える。
「皆んな!僕の後ろに隠れていて!」
アベルさんの指示に従い、俺はミトの後ろへ移動すると、アベルさんも移動してきた。
「これは一体……」
「召喚トラップだと思います!」
ミトの疑問にアベルさんが答える。
「恐らく、私達がここを通る事を察知して、罠を仕掛けたんでしょう。」
「それなら、解除すれば良いんじゃ無いんですか?」
「それは無理でしょう。これだけの規模の魔法陣だと、術者を倒すしか方法は無いと思います。」
俺とミトの会話に割って入ったのは、突如現れたデブだった。
「無駄なんだよ!お前らがここから生きて帰れる事は絶対に無えんだ!」
デブは勝ち誇ったように笑う。
「貴様!どうやって喋っている!」
「うるせえ!」
切られた首がニョキっと肩辺りから生やしたデブは剣を抜くと襲いかかってきた。
俺が斬りかかり、デブは剣で受け止める。
「くっ……、なんて力だ……」
デブは意を介さず力任せに押し返してくる。
「エド!加勢するよ!」
ミトが短槍を突き出す。
デブはそれを剣ではじき返す。
「邪魔すんじゃねえよ!」
「ミト!そいつは俺に任せろ!」
俺はデブを押し返すと、ミトの前に立つ。
「加勢しましす!」
後方からの声に驚き振り向くと、緑の肌の青年がでぶの頭をハンマーでた叩き潰していて、その傍らには赤ん坊を抱いているゴブリン?の少女が立っていた。
「ええ!?いつの間に!?」
「あーうー!」
「あはは……、びっくりさせちゃいましたか……」
少女は申し訳なさそうにしている。
「お二人は冒険者の方ですか?」
「はい。冒険者ギルドローレン支部の冒険者で、私は『ミミル、彼はモランと言います」
彼女から紹介を聞き彼らに対して警戒を解く、その間もモランはハンマーから剣に持ち替えてヒキガエルの体のあちこちを斬って回る。
ヒキガエルが血を吹き出しながらも再生しょうとするが、溢れ出した血液が多かったのか再生が出来ずに倒れ込む。
「ミト!今のうちに子供達を外へ連れ出して!」
俺は、ミトに指示を出し子供達の安全を確保を試みる。
「わかった!みんな行こう!」
ミトは子供達を連れて出口へ向かった。
「ふう……、これで一安心かな?」
俺がホッとしたその時――。
突然地面が大きく揺れて、天井が崩れ落ちて来た。
「何っ!?」
咄嵯に横に飛んで避けると、崩れ落ちた瓦礫の上に人影があった。
全身黒ずくめの男は、手に黒い杖を持っている。
「お前が黒幕か!」
「フッ……」
男は笑みを浮かべると、姿を消した。
「消えた!」
慌てて周囲を見回すと、男の姿は既に無かった。
だが、気配はある。
男が立っていた場所から魔力の高まりを感じるのだ。
「魔法を使う気か!」
咄嗟に刀を前方に突き出す。
「うおおおおお!!!!」
雄叫びと共に身体から何かが沸き起こり次の瞬間、洞窟内が激しく光った。
ミトが咄嵯に障壁を張る。
俺の雄叫び聞いて、アベルが駆け寄ってくるのが見えた。そして俺は意識を手放し崩れ落ちるのだった。
―――
目が覚めると見慣れぬ部屋にいた。
ベッドから起き上がると、部屋の扉が開いた。
「おお!目を覚ましたようですね!」
アベルさんやミトが
入って来た。
「ここはどこですか?」
「ここはダリウスにある私の屋敷です。」
「俺達は助かったんですね?」
「はい。あなた方が助け出した子供達は無事ですよ。」
「良かった……。ところであのデブはどうなりました?」
「デブさんは、間違いなく死んでいます、あと言いずらいのですが、人攫いの組織の首領は見当たりませんでした」「そうなんですか……。」
アベルさんの話では、俺達を襲ったヒキガエルは、やはり組織側の人間で、アジトへ情報を届けに来ていたらしい。
「しかし、エドさんは凄まじい魔法ですね……」
「え?俺の魔法?」
「はい。聖魔法ですよ。私も魔法には自信がありまして、かなり高レベルの魔法も使えるんですよ。」
「アベルさんは魔法使いなんですか?レベルはいくつですか?」
「はい。私は魔法剣士なんですよ。」
「じゃあ、あの時、俺が使った?魔法の事を知っているんじゃないですか?」
「いえ。私が見たのは、閃光だけです。それも一瞬でしたよ。あれ程の威力の聖属性の攻撃は初めて見ました。」
「あれは、俺の加護のお陰だと思います。」
「なるほど……。流石は神子の魔法と言うわけですか……。」
「そんな大層なものじゃないですよ。それより、俺はどのくらい寝ていましたか?」
「三日ぐらいでしょうか?まだ無理はしない方が良いでしょう。」
「わかりました。ご迷惑をおかけします。」
「いえ、気にしないで下さい。そうだ!アンジェロ司祭に伝言をお願いできますか?」
「ええ!構いませんが、何を伝えれば良いですか?」
「今回の件は、私に責任があると伝えて頂けますか?」
「それは……、どういう意味ですか?」
「実はこんな平民みたいな服装をしていますが、これでもパイノーグの導師長なんですよ。つまり私の監督不行届ですよ……」
「えっ!?それは本当ですか!?」
「はい。他の方には内緒ですよ。」
アベルに内緒と言われてしまい苦笑いになる、仮面の男だけでも目立つ人間に言われても・・・・。
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