第8話 悪しき胎動


神々がまだラグラジェントから消える直前のこと。

神徒ザルガネスは、眉間に皺を寄せて目を瞑った。

しかし、その表情がすぐに落胆のそれへと変わる。

(何故に上手くいかない、ヤツと私では何が違う)

それは単純な疑問だった。

確かに自分はヤツを追い詰めたはずだ。

なのになぜ、自分の思惑通りに事が運ばないのか? それが分からない。

だが……

――ふむ、やはりな。

この場に現れた人物を見て、彼は納得する。

現れた人物は男で、一見するとどこにでも居そうな人間だ。

背丈も低く体格も細い。

しかし、彼の眼はその男の纏う異質さを見逃さなかった。

見た目からは想像できない程の圧力を感じるのだ。

そして、男は口を開く。

――貴様には失望したぞザルガネスよ。

お前の考えなどお見通しだと言わんばかりに。

いや、実際そうなのだろう。

現にこの男は、自分に気付かれずにこの場所までやってきたのだから。

ザルガネスはそう確信し、苦虫を噛み潰すような表情を浮かべる。

「神徒スティーマグナよ、私に何か用が?」

彼がそう尋ねると、神徒は答えた。

――私はもうお前に興味は無い。

これからはこの小僧に任せる事にした。

それだけ言うと、神徒の姿は徐々に薄れていく。

まるで霧のように消え去る直前、神徒は最後にこう言った。

――精々足掻いて見せろ。

そう言い残して消えた。

残されたザルガネスは拳を強く握り締める。

そして、静かに怒りを露わにする。

自分を見捨てた事にではない。

自分が見下していた相手に負けたという事実に対しての怒りである。

そんな時だった。背後から何者かが現れる気配を感じたのは。

振り返るとそこには、一人の男が立っていた。

長身の男で顔には仮面を被っている。

そして、右手には鞘に収められた剣を持っていた。

..........

あたりが暗くなり、意識が失うかのように身体が闇に溶け込んでいく。

..........

鳥のさえずりが聞こえる

覚醒していく感覚を覚える。

どうやら私は眠っていたようだ。

最悪だ、何故ヤツの夢を見ていたのか……。

あれは私の過去であり最も忌み嫌う記憶でもあるというのに。

「目が覚めたか」

不意に声をかけられた。

声の主は、私が座ってる椅子の横にいた。

黒いローブを着た男だ。

「此処には来るなと言った筈だぞ!潰されたいのか!」

ザルガネスは、男に怒りをあらわにして怒鳴りつける。

しかし、それでも男は怯まなかった。

それどころか笑っているように見える。

気味が悪い。

「それで、私を呼びに来た理由はなんだ?まさかまた説教をされに来た訳ではあるまい?」

「あぁそうだとも。今回は大事な話があって来たんだ」

そう言って男は立ち上がると、ザルガネスの方へ歩み寄る。

「いい加減教えてくれないか?あの男について……」

「しつこいぞ、何度も言っているだろう?アイツとは二度と会わないし関わるつもりもないと。それに、私は今忙しいのだ。邪魔をするなら出て行け」

「断る。僕は君の為にここに居るんだ。僕が出て行くわけがないじゃないか」

「……勝手にしろ」

ザルガネスはため息をつく。

コイツがここまで食い下がる理由が分からん。

だが、この男を始末すれば少しは気が晴れるか? いや、今はダメだ。

もし始末しても、他の神徒どもに何を言われるかわかったもんじゃない。

ここは堪えるしかない。

ザルガネスは、男を無視して思考を始める。

しばらくすると、男は話しかけてきた。

「なぁザルガネス様、新たな神徒を創る気はないかい?」

「……何だと?」

「だからさ、新たに神徒を創り出すんだよ。もちろん君の力を使ってね」

ザルガネスは眉間にシワを寄せて考え込む。

確かに、今までも神徒を創ってきた事はあった。

しかし、その全てが異形の肉体を持つ化け物のような姿をしているのだ。

それ故に、スティーマグナが創り上げた魔人の真祖となった神徒との違いが劣等感を抱かせる原因となっている。

だからこそ彼は、新しい神徒を創造するという考えに至ったのだ。

しかし、それは同時に自分の力が及ぶ範囲を超えてしまうことを意味する。

ザルガネスは考えた末に結論を出した。

「……無理だな」

その言葉を聞いても、男の表情に変化はなかった。

「どうしてだい?」

「簡単な事だ。お前にも分かっているだろうが、私はこれ以上力を行使できないのだ。仮に出来たとしても、今の私では下級の神徒すら生み出せないだろう」

「そうかな?」

「……何が言いたい?」

「ザルガネス様、人間を材料にするのはどうかな?」

男の言葉を聞いた瞬間、ザルガネスの目つきが変わった。

「どういう意味だ?」

「そのままの意味だよ。君はもう限界に近い状態だろ?だからさ、人間の魂と肉体を使うんだよ」

「……なるほど、悪くない提案だな」「だろう?」

ザルガネスは考える。

(確かに、このままでは私は消えてしまうかもしれない。そうなれば、私の目的が果たせなくなる)

そして、彼は決断した。

「いいだろう、ただし条件がある。貴様には私に協力してもらうぞ」

「勿論、最初からそのつもりだよ。だって、僕はその為にいるんだからね」

ザルガネスはニヤリと笑う。

そして、男は彼に手を差し伸べた。

ザルガネスはその手を握り返す。

世界はこの日、最悪シナリオが動き出した。物語の舞台は小さな村オルバ村へと

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