閑話 ・・・・の記憶 オルバ村
我々オルバ村の者の朝は早い。
鶏が鳴き声が聞えるより早く起き朝食前に畑仕事をするからだ。
今年で18歳になる僕も、まだ眠たい目を擦りながら起き上がる。
そして隣に寝ている妻を起こさないようにベッドから降りると、着替えてから外に出た。
外に出ると冷たい空気が頬に当たる。
「うっ……寒いな、もう少ししたら雪が降るかも」
この村には雪が降る。それは毎年の事だ。
ただ去年に比べるとかなり少ない。
恐らくはダリウスの方で降っているのだろう。
僕はそんな事を考えながら鍬を持ち畑に向かった。
今日の仕事は、冬に備えての作物を植える事だった。
植える作物は人参・大根・蕪等の根菜類が中心である。
これらの野菜は寒さに強いため、冬に収穫出来るのだ。
「よし!頑張ろう!」
気合を入れて作業を開始した。
しかし……。
「えぇ~っと、これは何?」
目の前に広がる光景を見て思わず呟いた。
そこにあったのは一面の花畑だった。
様々な色をした花々が咲き乱れていたのだ。
「こんな花は見たことないぞ?新種かなぁ……」
そんな事を考えていると後ろから声を掛けられた。
「おはようございます!モランさん」
振り向くとそこには幼馴染のカミルがいた。
「あぁカミルか。おはよう。ところでこれって君の仕業かい?」
そう言いながら花畑を指す。
するとカミルは笑顔を浮かべながら答えてくれた。
「はい!実は昨日、薬草を採りに行った時に見つけたんです。それで持って帰って来て育ててみたんですよ。どうですか綺麗でしょう?」
確かに美しいと思った。ただ一つだけ疑問があった。
「でもさぁ、なんでこんな場所に咲いているんだろうね?ここは僕の家の前だよ?普通ならもっと目立つ場所とかに咲くんじゃないの?」
その質問に対してカミルは苦笑いをしながら答える。
「まぁそうなんですけどね。一応、私の家の前にも植えてみましたよ?ですが芽も出ませんでした」
「そっか、じゃあここしか無かった訳だ。それにしても不思議な事もあるものだねぇ」
僕は首を傾げながらも作業をする事にした。
***
それから1時間後、仕事にキリをつけ自己主張をする空腹を感じながら「ふぅ、腹減ったぁ。さすがにメシを食わねば」
と思い家に戻ろう思いあぜ道に目を向けると、森の方から狩人のトルマとコルマの兄弟がスモールボアを担いで歩いて来た。
「おや?あれはトルマとコルマじゃないか。相変わらず凄いなあの兄弟は。ん?と言う事は……」
そう思った瞬間、後ろから声が聞こえて来た。
「あら?もう帰っていたのね?おかえりなさい二人共」
振り返るとそこに居たのは妻のミミルであった。
「うん、ただいま。それより見てごらんよアレを」
僕が指差した先にある物を見たミミルは不思議そうな顔をしながら言う。
「何かしら?あんな所に花畑なんてあったかしら?」
「カミルの仕業だよ!」
そう言って妻の肩に手を置きながら説明をした。
「なるほどね。だから貴方はこんなにも機嫌が良いのね」
納得してくれたようで良かった。
「そうだよ。だってカミルが作ってくれたんだよ?嬉しくないわけがないじゃん!」
「はいはい、わかったから早くご飯にしましょう?」
そんなやり取りをして二人で家に入った。
食卓につき少し遅めの朝食を2人で食べる
「なあ、ミミル今日の長老のお供って誰になると思う?」
今年はオルバ村の村長であるザガンが80歳という高齢のため、その補佐役として選ばれた者が付いて行く事になっていた。そのため誰が選ばれるのかと皆が興味を持っていた。
「そうね……多分だけどあなただと思うよ!」
我が妻ながら嬉しいことを言ってくれる、でも新婚の俺としては、ミミルと一緒に過したい気持ちもあるから内心複雑だ。
「そうか、それなら頑張らないとね。あ!でもさぁ、カミルはどうするんだろう?連れて行っちゃうのかなぁ?」
そう言いながらパンを口に運ぶ。
するとミミルはクスリと笑って言った。
「大丈夫よ、きっと私達と同じタイミングで帰ってくるはずよ。だから心配しなくても良いのよ」
その言葉を聞いてホッとした。
「そういえば、カミルは今日は何をしているのかな?」
「さぁ?わからないわね。でも……多分、あの花畑にいるんじゃないかしら?」
「へぇ~!カミルは花が好きなんだね。確かに可愛いもんなぁ~」
僕は食事が終わると、すぐに花畑に向かうことにした。
「ちょっと行って来るよ」
「はい、いってらっしゃい」
笑顔のミミルに見送れられながら花畑に向かった。
***
花畑に着くとカミルは花に囲まれて座っていた。
「やあ!カミル。こんな所で何をしているの?花遊びかい?」
「えっ?あっモランさん!いえ違いますよ。ただ花を見ていただけです」
「そうなの?なんか花に囲まれているカミルが楽しそうだったからさぁ」
「ふふふ、楽しいですよ。花畑っていいですね。とても癒されます」
「そっか!カミルも花が好きなのかい?僕も好きだよ」
そんな会話をしていた時だった。
「おっ!やっぱりここにいたか!カミル」
「トルマさん、もう荷物の積み込みの時間ですか?」
「あぁ!あとはお前だけだぞ!さぁ帰るぞ」
「わかりました!すぐ行きます」
そう言うとカミルは立ち上がり花畑に向かって言った。
「じゃあ私はこれで失礼します。また明日」
「うん、気をつけてね」
俺は長老の家へと続く道を歩いていると、道の端では大きなソリにカミルやトルマ達が慌ただしく荷物を積み込んでいる姿が見えた。
(あのソリには何が積まれているんだろう?)
疑問に思いながらも、そのまま通り過ぎようとしたその時、
「待ってください!」
後ろから声をかけられたので振り向くとそこにはカミルの姿があった。
「あの、これを持っていてくださいませんか?」
そう言って差し出してきた物は小さな花束であった。
「これは?」
「あの……お世話になった人に配る物です。本当はもっと早く渡せたら良かったんですけど」
「そんなこと気にしないでよ!ありがとうね!」
「いえ、こちらこそ本当に色々とお世話になりました。これくらいしか出来なくてすみません」
「全然構わないよ。それよりさぁ、この花はなんていう名前なんだい?」
僕は受け取った花をまじまじと見つめながら聞いた。
「それは、スイートピーっていう花なんですよ」
「へぇ~綺麗だね。じゃあそろそろ行くよ」
「はい、それではまた」
僕が歩き出すと同時に、カミルは森の方へと消えていった。
長老の家に着き中に入るとザガンが出迎えてくれた。
「おお!やっと来たな。遅かったではないか」
「すみません。途中でカミルと出会ったもので……」
そう言うとザガンは少し驚いた顔をして聞いてきた。
「ほぉ~、カミルがなぁ。それで、カミルはなんと言ってたのだ?」
「それが、特に何も言わずに帰ってしまいまして……まぁいつものことなのですが」
「そうか、カミルは相変わらずなのだな。しかし、カミルが誰かに贈り物をするとは珍しいこともあるものだ」
「そうですね。でも、そのおかげで素敵なものを貰いましたよ?」
僕は手に持っていたスイートピーをザガンに見せながら言った。
「ほう、カミルからの贈り物か。それは嬉しいだろうな」
「はい、とっても嬉しかったですよ。あっそうだ、長老にも一つありますよ」
そう言ってスイートピーを差し出した。
「む?わしにもあるのか?」
「ええ、もちろんですよ。だって大切な家族じゃないですか」
「ふん、そんな事を言うのはお前ぐらいだよ」
ザガンは照れくさかったのであろう、鼻の下をさすりながら言った。
「それにしても、スイートピーとはなぁ~。カミルにしては気が利いておるな」
「そうなのですか?僕はよく知らないのですが、何か意味があるのでしょうか?」
「ああ、花言葉というものがあるのだが、確かスイートピーの花言葉は……」
そこまで言いかけたところでザガンの言葉は遮られた。
長老の準備ができたらしく、出発の合図をするように言われたからだ。
「さあ!モランよ、準備が出来たら出発するぞ」
「はい!今すぐ行きます」
そう答えると僕は急いで支度を済ませてソリに乗った。
そして、ダリウスに向かって出発したのだった。
***
「モランよ、今日も元気だったか?」
「はい、とても楽しかったですよ」
「そうかそうか、ならよかったわい」
「そういえば、カミルからスイートピーを貰ったのですよ」
そう言ってスイートピーを見せた。
「おや?スイートピーか。カミルもなかなかやるのう」
「そうなのですか?」
「うむ、スイートピーには感謝という意味があるのじゃよ」
「感謝……そうだったんですか。僕知らなかったです」
「ふぉっほっほ、まだまだ勉強不足じゃな」
そう言うと笑い始めた。
「もう!笑わないで下さいよ」
「すまん、すまん。だが、これからも頑張ればよい話じゃよ」
「はい、頑張ります」
「そうするといい。さて、着いたぞ」
そう言われ下を見ると孤児院をやっている古い教会の屋根が見える。長老が静かに魔法を唱えると荷物がフワッと浮き、中からおもちゃが出て来て子供たちが走り回っていた。
「よし、これで終わりじゃな」
「お疲れ様です」
「お主もな。さぁ、帰ろうか」
そう言うと僕達は家路についたのであった。
(この先どんな困難があってもきっと乗り越えられるはずだ)僕は心の中でそう呟きながら、朝日に染まる空を見上げた。
俺も、長老みたいにサンタクロースに進化したいとより一層思うのだ。
「さぁ、朝ご飯を食べましょう」
「うん!」
「やったー!」
「今日のご飯は何かなぁ~♪」
子供達はいつものように元気いっぱいだ。
「みんな、ちゃんとお祈りしてから食べるんだよ」
「は~い!」
そうして朝食が始まったこうしてオルバ村の、ゴブリンの村の普通の1日が始まるはずであった、誰もが長閑な平和が続くと思っていた.....。
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