第7話 龍神の導き 司祭の呟き
〜アンジェロside
私は、パイノーグ大教会皇国の首都ダリウスで龍神教の教会兼孤児院の運営をしている司祭のアンジェロだ。
ダリウスの街はレイノス教の中心となっている街なので、布教に関しては弾圧こそされないが、レイノス教を国教としているので、龍神教は国教に認められていない。なので、表向きは龍神教徒は孤児院と教会を併設し慈善事業をしている。だが、それは裏を返せば、表立って龍神教を布教しなければ、特に問題ないということだ。
ある日、変わった来訪者が来たのである。
彼等は突如この教会の裏口に現れたのである、彼等の服装は隣国である中大の民族衣装似てはいるが見たことも無い装いでこのまま大通りに行かせたらかなりの人の目を釘付けにしてしまうだろう。彼等はどうやって此処まで辿り着いたのか気になるところだが。
彼等は申し訳なさそうに裏口の扉を開けて孤児院との間にある渡り廊下に足を踏み入れる前に私を見つけ声を掛けてくる。
「すいません、此処は何処なんでしょうか?」
剣士風の少年は、申し訳無さそうな顔をし尋ねてくる。私は少年を見た瞬間に背筋に冷たいものが流れるのを感じる。
(龍神様や竜王達よりは弱いが、竜王にも匹敵する覇龍の力を感じる、何故に人である者から感じるのだ?まさか私と同じ竜人(ドラゴニュートなのか?))
私は、焦る気持ちを落ち着かせ答える。
「此処はパイノーグ大教会皇国の首都ダリウスですが。」
私が答えると、少年はパイノーグ大教会皇国やダリウスには聞き覚えがないのか首を傾げる。
私は少年の着ている服を見る、見たことのない作りをした民族衣装で素材は蜘蛛の魔物の糸から作ったかのような光沢があり、見たことも無いような質感の生地である。
何より、見たこともない漆黒の色の布が使われている。
私が少年の衣装を穴が空くほど見ていたら、少年は少し恥ずかしそうにしながら、私にここまで来た経緯を説明し、ついでと言わんばかりに転移について質問をする。
「俺達は、和国にある遺跡を探索中に出くわした竜を倒した後近くにあった扉を開けて出てみれば此処に来ていました、あの扉は何なんですか?」
「それは、もしかして誘いの扉かもしれなせんね、またの名を次元門と言いある場所で必要な人物をその場所へと誘う扉のはずですが、エドワード殿の使われた時に魔導士か精霊は居ましたか?」
私はその質問に答えると、少年は少し考え込みブツブツと何かを言っているが何かを思い出したのであろう顔を上げるのだが、答えがでないようである。私は彼の為に少しでも答えが出るように言葉を投げかける。
「他には人攫いの門というトラップがありますね、このトラップ怖いと所は普通の扉や誘いの扉に見える事です、古い遺跡や迷宮にありますね。」
彼等は私の言葉を聞いて何かを想像してゾッとしたのか顔色が少し悪いようだ、これ以上は裏口でする話では無いと思い。
「とりあえず此方へどうぞ。」
私は教会の中へ彼等を入ると、ついでとばかりに洗礼の儀式に誘ってみる。
「今日はこの子たちの洗礼の儀式を行います、ついでですから一緒にどうでしょうか?」
彼等は最初はキョトンとしていたが洗礼の儀式とが始まり、私は1人の子供の手を握り祈りの言葉を唱え始める。
「龍よ、我が願い聞き世界の種子たる我らに永劫なる安寧と、日々の糧を持たらし、龍の神子を遣わし導きを」
私が祈りの言葉を唱え始めしばらく経った頃、剣士の少年の頭上で淡い光が輝きはじめた、私を含めて皆が光を注視する、光はゆっくりだが徐々に明るさを増していき一段と強く輝き辺り一面が光に包まれた、そして少年の胸の位置に何かが落ちてきた。目が眩んで訳が分からないまま彼はそれを抱き抱える、何が起きたのだろう。
目が見えないまま私の祈りの声だけが響いている。
「神子は誕生なされた。」
ようやく視界が戻ってきたが、まだ視力の回復しない目を擦っていると、少年の手の中に先程落ちたものが収まっている事に気づいた。それは龍の赤子のようだったが、その姿には見覚えがあった。かって修行中訪れた古い寺院のフレスコ画に描かれた覇龍の幼体の姿を。
「こっこれは…………」
「おお! なんともめでたい!」
「お兄ちゃんたちすごーぃ」
私や他の者たちも口々に喜びの声をあげている、そして私は続けてこう言ったのだ
「エドワード様、あなた様こそこの世界を救う龍の神子でございます、まさかと思いますが、この仔竜に見覚えがございますか?」
「あぁ確かに見覚えがある。」
「では間違いございません、この仔竜はエドワード様にしか懐いておりませぬゆえ、どうか大切に育てて下さいませ。」
少年は戸惑いながらも自分が抱いているものを確かめてみると、確かにその通りだった。
「わかった、責任を持って育てるよ。」
少年は腕にしがみついて眠る仔竜を優しく撫ぜてみる、ヒンヤリしている様で温かく、硬いようにみえて軟らかく不思議な感じがする、
「名前どうしよう!」
「エドワード様の好きな名をつけてあげればよろしいでしょう。」
私はニコニコしながら少年を見つめている。
「そうだなぁ~うーん……..よし決めた、お前の名前はリュートだ。」
少年の腕の中でスヤスヤ寝ていたリュートはピクリと反応すると目を覚まし、大きな瞳を開けて俺の顔を見ると
『キュイー』
と鳴きながら嬉しそうに頬ずりしてくる。
可愛いぃいい!! 俺は思わず顔が緩みそうになるのを必死に抑える。
「さあさあ、そろそろ儀式の続きを始めましょうか。」
私がそう言うと、周りの人たちがそれぞれ動き出し準備を始めた。
私は祭壇の上に座り、子供たちは列をなして座っていく、少年もリュートを抱いたまま司祭の前に腰を下ろした。
まず最初に子供たちが洗礼を受けると、次は少年の番だ。
「エドワード様はこちらに座ってください。」
そう言って私が指差したのは私の目の前だ、少年がそこへ座ろうとすると
「エドワード様、お待ちください。」
そう言いながら私は少年の足元に片膝をついて
「これより貴方さまを龍神様の代理として色々と儀式を手伝いをお願いしたいのですが。」
私に促されるままに少年は儀式が終わるまで拝まれる、特に小さな子供達からはキラキラとした眼差しを向けられると少年は悪い気はしないのかいい笑顔である。
儀式が終わると、少年は子供たちに囲まれ質問攻めにあった。
「ねぇ、名前は?」
「歳いくつ?好きな食べ物は?」
「どんな魔法使えるの?」
「どこから来たの?」
「龍って本当? 見せて!」
「ドラゴンライダーになれるの?」
「大きくなったら僕と結婚して!」
など聞かれて困り顔になりながらも1人ずつ順番に答えていった。
そして、最後に残っていた女の子からの質問に少し驚かされた。
「あのね、あのね……わたしのパパとママね、おしごとで遠くに行って会えないの……でもね、またすぐに帰ってくるから泣かないで待ってなさいって言われたんだけど、もう帰ってこないと思うの、だからね、代わりに私のことギュッてしてくれる?」
少年はその子の目線までしゃがみ、頭を優しく撫でてあげた。
「きっと大丈夫だよ、お兄さんが何とかしてあげるから、だから安心しな。」
少年はその言葉を聞いた女の子が涙を流すのを見て、つい抱きしめてしまった。
「大丈夫、大丈夫だから。」
しばらく背中をポンポンと叩きながら慰めていると、泣き止んできたのか少年の服を掴んでいた手の力が抜けゆっくりと離れ、少年顔をジィーと見つめてきた。
「ありがとう、お兄ちゃん。」
「うん、元気になったみたいで良かったよ。」
少年が笑顔で答えると、その子は満面の笑みを浮かべて抱きついてくると
「大好き!」
と言ってきたので、少年も
「俺も好きだよ。」
と答えてあげると、その子はパッと離れて、他の子たちの方へ駆け寄っていった。
その後は、私が孤児院の子たちに教会の仕事を教え、少年達が私の手伝いをするという事で話がまとまった。
そして少年が、教会の外に行こうとするので少年の声をかけた。
「エドワード様、今夜の宿はお決まりですか?良かったら孤児院の部分でなんですがお泊まり下さい、食事は質素ですが提供出来ますので。」
そして少年は私の言葉に甘える事にしたようだ。
その夜、私はベッドに横になりながら今日の事を思い出していた。
まさか神子に巡り会えるなんて夢にも思わなかった。
「本当に何が起こるか分からないものだな。」
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