第6話 龍神の導き

エドワードとミトゥースが遺跡の扉を抜けたどり着いた場所は見たことのない街並みであった。

「ここは何処なんだ」

エドワードは扉から出て目に入ってくる異国の街並みを見て此処は何処だと絶句してしまった。

「ミトゥースさん!」

直ぐ後ろを振り向きミトゥースを見て傍らに居るのを確認し安心したのも束の間、ケビンと仔竜が居ないを知り焦ってしまう 。

「怪我はありませんね!ケビンさん達を探しましょう!」

エドワードはすぐ後ろにいるミトゥースと互いの状況を確認するとケビンを捜してみることにする。

まず、此処へといざなった扉を調べてみる、何の変哲もないただの教会の裏口の扉だ、開けてみて子供たちが居たので、怪しい者でない事を告げ司祭を呼んでもらう。少し待つと奥から司祭が現れたのだが……この司祭の姿を見て和国では見たことが無い司祭服だった。此処は本当に何処んだと混乱に陥っていく?

「初めまして、司祭のアンジェロと申します。当教会にどういった御用でしょうか?」

アンジェロは、深々とお辞儀をし2人を見すえる。

「おや? 貴方たちはどちらか来られましたか?」

エドワードとミトゥースの衣服が普段この街で見る物と違い危ぶまれると思い来た場所を聞く。

「和国からなのですが。」

エドワードは、素直に答える。

「そうですか。して、本日はどういった御用なのでしょうか? 、此処ではアレなんで奥へどうぞ。」

アンジェロという司祭は余程エドワードたちのことが胡散臭く見えるのだろう。それでも裏口という場所でする話では無いと思い自室へと案内する。

「和国内の公国にある遺跡を調査していたのですが、遺跡にあった扉を利用して外に出ようとしていたらいつの間にかここにいました、」

俺は司祭に問われるままに此処へと誘われた事までのくだりを説明をした。

「もしかして、誘いの扉かもしれなせんね、またの名を次元門と言いある場所で必要な人物をその場所へと誘う扉のはずですが、エドワード殿の使われた時に魔導士か精霊は居ましたか?」

司祭の説明を聞き少し扉前でのことを振り返って、考察してみる。

魔導士...ケビン殿は学者の筈だから...まさか...術の発動は無かった...

俺がウダウダと考えていると司祭が

「他には人攫いの門というトラップがありますね、このトラップ怖いと所は普通の扉や誘いの扉に見える事です、古い遺跡や迷宮にありますね。」

俺はその言葉を聞いてゾッとした、もしかしたら俺たちはそのトラップに引っかかったのではないか? だが、今更気付いても遅いし、あの時一緒にいたミトゥース殿が無事なのだから大丈夫だろう。

「とりあえず此方へどうぞ。」

俺たちは司祭に促されて教会の中へ入ると、そこには小さな子供から成人前までの多くの子供たちがいた。

「今日はこの子たちの洗礼の儀式を行います、ついでですから一緒にどうでしょうか?」

洗礼の儀式とは一体何なのかと思っていると、司祭が1人の子供の手を握り祈りの言葉を唱え始めた。

「龍よ、我が願い聞き世界の種子たる我らに永劫なる安寧と、日々の糧を持たらし、龍の神子を遣わし導きを」

司祭が祈りの言葉を唱え始めしばらく経った頃、俺の頭上で淡い光が輝きはじめた、俺を含めて皆が光を注視する、光はゆっくりだが徐々に明るさを増していき一段と強く輝き辺り一面が光に包まれた、そして俺の胸の位置に何かが落ちてきた。目が眩んで訳が分からないままそれを抱き抱える、何が起きたのだろう。

目が見えないまま司祭の声だけが聞こえてくる。

「神子は誕生なされた。」

ようやく視界が戻ってきたが、まだ視力の回復しない目を擦っていると、自分の手の中に先程落ちたものが収まっている事に気づいた。それは龍の赤子のようだったが、その姿には見覚えがあった。

「こっこれは…………」

「おお! なんともめでたい!」

「お兄ちゃんたちすごーぃ」

司祭も他の者たちも口々に喜びの声をあげている、そして司祭は続けてこう言ったのだ

「エドワード様、あなた様こそこの世界を救う龍の神子でございます、まさかと思いますが、この仔竜に見覚えがございますか?」

「あぁ確かに見覚えがある。」

「では間違いございません、この仔竜はエドワード様にしか懐いておりませぬゆえ、どうか大切に育てて下さいませ。」

俺は戸惑いながらも自分が抱いているものを確かめてみると、確かにその通りだった。

「わかった、責任を持って育てるよ。」

俺は腕にしがみついて眠る仔竜を優しく撫ぜてみる、ヒンヤリしている様で温かく、硬いようにみえて軟らかく不思議な感じがする、

「名前どうしよう!」

「エドワード様の好きな名をつけてあげればよろしいでしょう。」

司祭はニコニコしながら俺を見つめている。

「そうだなぁ~うーん……..よし決めた、お前の名前はリュートだ。」

俺の腕の中でスヤスヤ寝ていたリュートはピクリと反応すると目を覚まし、大きな瞳を開けて俺の顔を見ると

『キュイー』

と鳴きながら嬉しそうに頬ずりしてくる。

可愛いぃいい!! 俺は思わず顔が緩みそうになるのを必死に抑える。

「さあさあ、そろそろ儀式の続きを始めましょうか。」

司祭がそう言うと、周りの人たちがそれぞれ動き出し準備を始めた。

司祭は祭壇の上に座り、子供たちは列をなして座っていく、俺もリュートを抱いたまま司祭の前に腰を下ろした。

まず最初に子供たちが洗礼を受けると、次は俺の番だと司祭が告げた。

「エドワード様はこちらに座ってください。」

そう言って司祭が指差したのは司祭の目の前だ、俺がそこへ座ろうとすると

「エドワード様、お待ちください。」

そう言いながら司祭が俺の足元に片膝をついた。

「これより貴方さまを龍神様の代理として色々と儀式を手伝いをお願いしたいのですが。」

司祭に促されるままに儀式が終わるまで拝まれる、特に小さな子供達からはキラキラとした眼差しを向けられると悪い気はしなかった。

儀式が終わると、今度は子供たちに囲まれ質問攻めにあった。

「ねぇ、名前は?」

「歳いくつ?好きな食べ物は?」

「どんな魔法使えるの?」

「どこから来たの?」

「龍って本当? 見せて!」

「ドラゴンライダーになれるの?」

「大きくなったら僕と結婚して!」

などなど、俺は神様じゃないんだから一気に聞かれても困ってしまう、とりあえず1人ずつ順番に答えていった。

そして、最後に残っていた女の子からの質問に少し驚かされた。

「あのね、あのね……わたしのパパとママね、おしごとで遠くに行って会えないの……でもね、またすぐに帰ってくるから泣かないで待ってなさいって言われたんだけど、もう帰ってこないと思うの、だからね、代わりに私のことギュッてしてくれる?」

俺はその子の目線までしゃがみ、頭を優しく撫でてあげた。

「きっと大丈夫だよ、お兄さんが何とかしてあげるから、だから安心しな。」

俺はその言葉を聞いた女の子が涙を流すのを見て、つい抱きしめてしまった。

「大丈夫、大丈夫だから。」

しばらく背中をポンポンと叩きながら慰めていると、泣き止んできたのか俺の服を掴んでいた手の力が抜けてきたのを感じたので、そのままゆっくりと離すと、俺の顔をジィーと見つめてきた。

「ありがとう、お兄ちゃん。」

「うん、元気になったみたいで良かったよ。」

笑顔で答えると、その子は満面の笑みを浮かべて抱きついてくると

「大好き!」

と言ってきたので、

「俺も好きだよ。」

と答えてあげると、その子はパッと離れて、他の子たちの方へ駆け寄っていった。

その後は、司祭が孤児院の子たちに教会の仕事を教え、俺が司祭の手伝いをするという事で話がまとまった。

そして、教会の外に出る時に司祭が俺に声をかけてきた。

「エドワード様、今夜の宿はお決まりですか?良かったら孤児院の部分でなんですがお泊まり下さい、食事は質素ですが提供出来ますので。」俺は司祭の言葉に甘える事にした。

その夜、俺はベッドに横になりながら今日の事を思い出していた。

まさか自分が神子になるなんて夢にも思わなかった。

「本当に何が起こるか分からないものだな。」

俺は独り言のように呟いた。

あの後、司祭のアンジェロに聞いた神子の説明によると神子は俺を含め12人いるらしく、それに合わせて12の聖獣がいるらしい。教わった内容はおとぎ話みたいだったが、結構興味を引く内容だった。俺達には聖獣と呼ばれるパートナーがいていて、その聖獣と繋がることで力を得ることが出来るとかなんとか。

そんな事を考えているうちにいつの間にか眠っていた。

翌日、朝早くから起きて身支度を整えていると、部屋の扉がノックされた。

コンッコンッ

「はい、どちら様でしょうか?」

「おはようございます、エドワード様。」

「ああ、アンジェロさん、どうかされましたか?」

「いえ、昨日はゆっくり休めれたかなと思いまして。」

「えぇ、とても快適に過ごせました。」

「それは良かった。ところで、朝食の準備が出来ておりますので、食堂の方に来ていただけませんか?」

「わかりました。」

「では、お待ちしておりますので。」

そう言うと、アンジェロは戻って行った。

俺は部屋を出て廊下に出ると階段を降りていく。

すると下から良い匂いが漂ってきた。

「この香りはパンとスープか……」

俺は階段を降りると、そこには予想通りテーブルの上に料理が並べられていた。

「エドワード様、こちらにどうぞ。」

「あぁ、ありがとう。」

席に着くと、目の前に焼きたてのパンと野菜の入ったスープが出された。

「さあどうぞ召し上がってください。」

俺はパンをちぎり、口に入れた瞬間に余りの美味しさに衝撃が走った。もう言葉に出来ない程の美味いものを食べると

人は無口になるものなんだと実感した。

「うっまー!」

思わず声に出してしまった。

「フフッ、喜んでもらえたようで嬉しいですね。」

「こんなに美味しいものは初めて食べましたよ!」

「あら、そうなんですか?」

「はい、俺の住んでいた所は食べ物が豊富ではなかったのですよ。」

「そうですか……それは大変でしたでしょうね。」

「でも今は大丈夫ですから。」

「そういえば、エドワード様には帰る場所があるんでしたね。」

「そう……ですね。」

「それはそうと、モニクの姿を見かけないのだが?」

俺は昨日の少女が、何処にもいない事に気が付いた。

「モニクですか?薬の調合師の所まで薬草を届けにお使いに出て貰ったのですが、遅いですね!」

俺は少し嫌な予感がして、急遽アンジェロに案内してもらい調合師の住む森の近くの小屋へと急いだ。

俺は急いで森へと続く小路を駆け抜けて行く、その小屋の前で立ち尽くしている男の子を見つけた。

「モニクは?君は?」

俺の声を聞いた男の子は振り返った。

「おじちゃん!!」

俺は泣きながら抱きついてくる男の子を抱き締めながら、辺りを見渡すと小さな籠を見つけた、嫌な予感が当たった様だ、ようやく追い付いたアンジェロに男の子を託し、ミトゥースと共にモニクの捜索を始める、ミトゥースは懐から紙束を取り出し親指を噛み、血で五芒星を描き、

「天命急雷鴉煌...........」

と少し長い詠唱を唱え紙束を虚空に向かいばら蒔き、

「式神召喚」

の掛け声と共に無数の鴉が姿を表しミトゥースが手を水平に振った瞬間に森中へと散って行くのであった。

「必ず見つけてやるから待っていろよ。」

俺はそう呟くと、アンジェロの待つ小屋へと戻るのだった。

俺とミトゥースは小屋に戻ると、アンジェロがお茶を入れてくれた。

「ありがとうございます、アンジェロ殿。」

「いいえ、大したことではありません。」

「それで、何か分かったかい?」

「いえ、まだ何も分かりません。」

「そうか……」

「しかし、一刻を争う事態です。直ぐにレイノース教導騎団に報告をしましょう。」

「そうだな、まずはダリウスに戻ろう。」

「では、私もご一緒します。」

「アンジェロはここに残っていてくれ、また賊が襲ってくるかもしれないからな。」

「わかりました。」

「それから、この子の親御さんにも伝えてくれないか?心配だろうから。」

「かしこまりました。」

「それじゃあ、行ってくるよ。」

俺とミトゥースは小屋を出ると、アンジェロに見送られながら街を目指して急ぎ足で街まで小路を引き返すのであった。

俺達は街に着いた時にはもう日が暮れそうだったので、教会には寄らずに真っ直ぐ教導騎団の詰所へと向かおうとしていた。

その時、ミトゥースの式神が何かを見つけたようだ、俺は教導騎団の詰所の重たい扉を開けて受付の兵士に状況を伝えるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る